女性に右も左もない! 安倍前首相の「秘蔵っ子」稲田朋美の大変身「女性のいない民主主義」と自民党批判

安倍前首相の「秘蔵っ子」だった稲田朋美氏が大変身している(写真:つのだよしお/アフロ)

自民党総裁選に出馬した女性は小池百合子都知事だけ

[ロンドン発]安倍晋三前首相の「秘蔵っ子」として要職に起用され、「保守の花道」を歩んできた稲田朋美元防衛相の「日本は“女性のいない民主主義”」という発言が英リベラル紙ガーディアンに取り上げられました。

稲田氏の発言を取り上げる英紙ガーディアン電子版(筆者がスクリーンショット)
稲田氏の発言を取り上げる英紙ガーディアン電子版(筆者がスクリーンショット)

「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍前首相の親衛隊だった稲田氏がガーディアン紙にこんな形で取り上げられるのは極めて異例のことです。

稲田氏は9月16日に「【森法務大臣が退任の挨拶に来られました!】森大臣とは同じ女性議員として、かつて閣僚としてご一緒しました。女性議員は新内閣には2人、党4役にはいません。女性の活躍、多様性が求められる時代に『女性のいない民主主義』からの脱却を目指して、女性議員飛躍の会でこれからも頑張ります!」とツイートしています。

ガーディアン紙は、稲田氏は日本の男女格差を批判し、怒りの矛先を自民党に向けたと報じています。11月に結党65年を迎える自民党の歴史で、総裁選に出馬した女性は2008年に麻生太郎財務相ら男性4人と争った小池百合子氏東京都知事だけ。

今回の総裁選でも稲田氏と野田聖子元総務相が出馬を模索したものの、立候補を断念。菅義偉首相、岸田文雄元外相、石破茂・元地方創生担当相の男性3人で争われました。野田氏は2015年と18年にも出馬に意欲を示しましたが、20人の推薦人を集めることができませんでした。

「日本でも女性が首相を、女の子が政治家を目指せるように」

ガーディアン紙は稲田氏の「女性は日本の全人口の半分、自民党の草の根党員の40%を占めます」「女性の求める政策について女性が話し合う場を持たないなら、日本の民主主義は偏らざるを得ません」という発言を取り上げています。

「私は女性のためだけに言っているのではありません。日本の民主主義を強化し、明るい未来を確実なものとするために、私は女性の声が政治にもっと届く社会を作りたい。日本でも女性が首相を、女の子が政治家を目指せるように、より自由で民主的で多様な政治風土を実現したい」

「地元の新年集会で私の話に耳を傾ける人のほとんどが男性。台所をのぞくと女性支持者全員が食事の用意をしていました。これが、私が変えたい自民党の政治風土」「男性に言いました。来年はあなた方がエプロンを付けて台所に立ち、多くの女性が最前列で私の話を聞けるようにしようね、と」

自ら原告代理人として関わった百人斬り名誉毀損裁判について自民党で講演した際、安倍幹事長(当時)の目に留まり、政界入りした稲田氏の選挙区は福井市を含む福井1区。安倍氏が首相に返り咲いた12年の総選挙以降、得票率は52.6%、64.8%、57.3%と圧倒的な強さを誇っています。

稲田氏の政治理念は「伝統を守りながら創造すること」。「伝統なき想像は空虚、想像なき伝統は枯渇」であり、「道義大国」の実現を目指しています。「道義大国」とは「国民が日本人であることを誇りに感じ、日本の伝統と文化を世界に誇れる国」のことだそうです。

伝統とジェンダーは両立するか

稲田氏は安倍氏が日本政治に持ち込んだ「伝統と文化の戦争」の先頭に立ってきた保守派の1人です。「伝統と文化」と「歴史」は切っても切り離せません。稲田氏は終戦記念日の8月15日に靖国神社を参拝し、ツイッターで「英霊に恥じない政治」を改めて誓いました。

「75年目の終戦記念日。伝統と創造の会で靖国参拝しました。コロナで先が不透明な中、英霊に恥じない政治を行わなければなりません。先人の命の積み重ねで築いた平和な日本を次世代へ繋ぎ、自由で公平で豊かな日本を創るため、頑張ります」

稲田氏は選択的夫婦別姓に理解を示したことが「変節」と批判され、今年7月、自民党保守派有志でつくる「伝統と創造の会」(稲田朋美会長)で釈明させられました。

昨年末の税制改正で死別や離別に限られていた寡婦控除の対象が未婚のシングルマザーやシングルファザーにも広げられました。改正のため奔走した1人が伝統的家族観を主張してきた稲田氏だったため、保守派から「裏切り者」呼ばわりされることもあったそうです。

朝日新聞の秋山訓子編集委員も「『変節』した稲田朋美氏 右も左もない政治、始まっている」というポッドキャストで「保守的というか右翼みたいなイメージもあったし、安倍さんにかわいがられて」と力のある男性に引っ張り上げられている女性、「名誉男性」のように見えていたと打ち明けた上で、稲田氏は「大変身」中と好意的に紹介しています。

日本の衆院、女性議員の割合は世界167位

列国議会同盟(IPU)によると今年8月時点で、世界各国議会で女性議員の割合は世界全体で25.2%。日本の衆院は9.9%で167位。参院は22.9%。女性の議会進出はあまり進んでいません。

世界経済フォーラム(WEF)の「男女格差報告書2020」では日本の男女平等ランキングは前年より11下がって121位(153カ国中)。世界最年少の現職政治指導者サンナ・マリーン首相(34)誕生で注目を集めたフィンランドは3位でした。

自らの授乳をインスタグラムに投稿していたマリーン首相(本人のインスタより)
自らの授乳をインスタグラムに投稿していたマリーン首相(本人のインスタより)

2006年以降、毎年発表されている「男女格差報告書」は(1)経済(2)教育(3)健康(4)政治の4分野を総合的に判断して世界ランキングを付けています。日本のランキングは下のグラフのように急落しています。

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【政治】144位(フィンランド5位)

・女性国会議員135位(同7位)

・女性閣僚139位(同20位)

・国家元首の在任年数73位(同12位)

政治分野で日本より下の国はイラン、ナイジェリア、ベリーズ、ブルネイ、レバノン、オマーン、イエメン、パプアニューギニア、バヌアツの9カ国しかありません。

【経済】115位(フィンランド18位)

・労働力参加79位(同13位)

・同一労働賃金67位(同9位)

・所得108位(同33位)

・管理職131位(同77位)

・専門・技術職110位(同1位)

フィンランドと日本の大きな違いはフィンランドの大学進学率はすでに女性の方が2割ほど高くなっている点です。専門職・技術職に就く女性の割合も男性より1割ほど多く、閣僚の数でもしばしば女性が男性を上回っています。

女子の方が男子より真面目に勉強するので同じ条件で学ばせるとフィンランドのような男女の逆転現象が起きても何の不思議もありません。にもかかわらず日本で逆転現象が起きないのは女性を特定の役割にはめ込む文化的な阻害要因があるからです。

女性指導者の誕生は「新しい常識」になるのか

マリーン首相は今年1月、ダボスで開かれたWEFの男女平等会議で講演した際、連立政権に参加する与党5党のリーダーはいずれも女性でこのうち4人は35歳になっていないことを強調し、こう語りました。

「女性指導者の誕生が今後それほど注目されず、“新しい常識”としてみなされることを願っています」「子供が幼いころ父親が子供と過ごす時間が少なすぎる」。マリーン首相は夫と育児休業を半分ずつとり、それぞれ6カ月間、娘と過ごしたそうです。

過去14年分の「男女格差報告書」からそれぞれの分野ごとの指数を拾って、このままのペースで行くといつごろに男女格差が解消されるのか分析してみました。

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あくまで目安に過ぎませんが、このまま何もしないで放っておくと日本で男女の国会議員数が同じになるのは11942年のことです。

稲田氏に女性天皇を受け入れる覚悟はあるか

自民党の下村博文選挙対策委員長は9月7日、2030年に自民党内の女性議員が3割になるよう国政や地方の選挙で「候補者クオータ(割り当て)制」を導入する提言をまとめました。

これに対して二階俊博党幹事長はこれまで「枠を改めて設けることはかえって女性に対して失礼」「選挙結果に基づき対応していくのが、正しいやり方」とクオータ制には否定的な見方を示してきました。

筆者は一番大きな問題は皇位継承を男系男子にしか認めていないことだと思います。天皇は日本の「伝統と文化」や「国のかたち」を体現しています。男系男子という思想が女性に特定の役割を押し付ける文化の根っこにあります。

男系男子の維持は側室制度なしには成り立ちません。側室制度が今の時代にそぐわないことは言うまでもありません。

伝統的家族観を唱える日本の保守は敗戦とともに皇籍離脱した旧宮家を復活させてでも男系男子の維持をと主張していますが、そんなことをしたら日本の未来は完全に閉ざされてしまいます。

旧宮家を復活させるのではなく、女性天皇を認めることが日本の可能性に再び火を灯すのだと筆者は固く信じます。

制度を変えるためにはまず血縁、地縁に縛られた日本の政治風土を一新する必要があります。稲田氏にその覚悟があるとは筆者にはとても思えないのですが…。

(おわり)