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習近平の国賓招待「中止」を明言しない安倍政権に求めることは 香港を脱出した羅冠聡氏を直撃した

木村正人在英国際ジャーナリスト
筆者の単独インタビューに応じた羅冠聡氏(左)。中央は黄之鋒氏、右は周庭さん(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]中国が香港国家安全維持法施行を強行したため、活動の拠点を香港からイギリスに移した「香港衆志(デモシスト)」元党首、羅冠聡(ネイサン・ロー)氏(27)が17日、筆者のインタビューに応じました。

羅氏は黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏や周庭(アグネス・チョウ)さんらとともに2014年の「雨傘運動」を率いたことで知られています。昨年のノーベル平和賞候補に名前が上がりました。

香港の「民主自決(1月に綱領から「自決」を削除)」を唱えていた「香港衆志」は香港国家安全維持法が成立した6月30日に解散。羅氏はテレビ会議システムを通じて米下院の公聴会で香港国家安全維持法について証言しました。

7月2日に海外に逃れ、27歳の誕生日の13日、フェイスブックに「行き先はロンドン」と投稿していました。

どのようにしてイギリスに来られましたか?

木村:イギリス生活はどうですか。

羅氏:問題ありません。慣れるのは難しくありません。

木村:今小さなフラットに住んでいるそうですね。

羅氏:はい、そうです。

木村:どのようにしてロンドンに来られたのですか。13日のフェイスブックには「小さなリュックとスーツケースを持って夜の便に搭乗した」と書かれていますね。

羅氏:私は飛行機で飛んできました。

木村:香港の出入国管理でチェックされませんでしたか。

羅氏:いいえ、彼らは私を止めませんでした。

香港を脱出したのはなぜですか?

木村:あなたはなぜ香港を脱出したのですか。

羅氏:香港国家安全維持法の下では、香港での前進的で国際的な活動を継続することは私たちにとって困難になります。例えば昨年と同じようにアメリカの2019年香港人権・民主主義法を支持すれば、投獄されることを意味します。

ですから私たちにとっては国際的な場で国際的な活動を続けるには、公的な人物が必要だと考えます。だから私は香港を離れて、香港の人々のために引き続き声を上げ続けているのです。

木村:あなたは訪英してからすでに最後の香港総督を務めたクリストファー・パッテン英オックスフォード大学名誉総長、労働党下院議員のキャサリン・ウェスト氏に会っておられますね。他に何をされましたか。

羅氏:私はさまざまな政治家と会って香港の状況を説明しています。パッテン氏にも会いました。彼はまだ香港のことを本当に心配していて、もっと知りたいと思っていたので、本当に良い話ができました。

私たちは香港や政治、そしてパッテン氏はオックスフォード大学の名誉総長をされているので学術的なことについても話しました。

木村:学術的なこと? イギリスの大学は中国と非常に良好な関係にあり、中国から多くの投資を受けています。例えば次世代通信規格5Gの研究についてです。あなたはそれをどのように思いますか。

羅氏:中国と相互に交流することは大丈夫だと思いますが、大部分のお金が浸透して支配するという目的のためだということを心に留めておく必要があります。従って特に中国の国営企業とこれらのことを行う場合は十分に注意する必要があります。

香港国家安全維持法は「法的な武器」になるのですか?

木村:中国の香港国家安全維持法をどのように見ていますか。中国の中央政府や香港の地方政府に対する嫌悪を口にするのは今では違法だと言う人もいます。盗聴や非公開の裁判が可能になり、香港を越えて適用されると指摘されていますね。

羅氏:これは表現の自由の観点から見て、間違いなく極めて過酷な法律です。極秘の任務を遂行するため香港に秘密警察を導入しました。これは「一国二制度」と「高度な自治」の終わりを示しています。

そして今、香港は恐怖に、北京に直接支配されています。これは香港にとって非常に有害な法律です。

木村:それは法的な武器だと思いますか。

羅氏:これは法的な武器です。例えば、中国政府や香港政府に対する嫌悪は法律には非常に曖昧な言葉で書かれています。彼らが嫌悪とは何であるかを定義していないためです。

例えば中国の習近平国家主席の何か悪いことを言ったら、それは中央政府への嫌悪を煽るものとみなされるかもしれません。法律がこのような形で書かれているため、私たちの表現の自由を制限します。

政府が解釈する余地を多く残しているため、誰でも簡単に逮捕する物語にはめ込んでしまうことができるのです。

これは血塗られた文化大革命の始まりですか?

木村:あなたはこれが香港の血塗られた文化大革命の始まりであると思いますか。

羅氏:はい、間違いなく。法律は人々に告げ口を奨励し、表現の自由を制限する強い政治的な恐れの感覚を引き起こします。これは香港の政治にとってひどい兆候です。

木村:あなたは自由、民主主義、経済について香港の未来をどう見ておられますか。

羅氏:もちろん短期的には、中国は依然として強圧的なアプローチを続け、香港の人々は苦しめられるため、香港の将来はこれら全ての面で非常に厳しいものになります。

しかし長期的には中国本土は多くの問題を抱えており、彼らはそれに取り組むため自らを改革しなければなりません。そして、その時には香港は自由、経済、さらには民主主義をも取り戻す機会があると思います。

習近平氏はなぜ「戦狼外交」に走るのですか?

木村:なぜ習氏は香港に対して非常に厳しい立場を取るのだと思いますか。そしてインドに対しても南シナ海でも攻撃的になっているのはなぜですか。

羅氏:2つの解釈があります。まず、習氏は香港を黙らせたいと欲しています。しかしこの1年、香港は多くのメディアの注目を集め、北京に多くの問題を突きつけたため、沈黙させることは困難です。

もし私たちに抗議するのを止めさせるために香港国家安全維持法を強行したとしたら、現実は反対です。私たちは抗議を続け、大声で反対します。そして世界は香港国家安全維持法の中に敵を見つけました。

次に、習氏は中国本土でナショナリズムの感情を高揚させるために、非常に攻撃的な外交政策を数多く実行しようとしています。

それは彼にもっと正統性を与えるでしょう。しかし自分だけの利益のためです。非常に利己的な動きです。中国に利益をもたらしません。現在の中国共産党にも利益をもたらしません。

黄之鋒氏や周庭さんはどうしていますか?

木村:あなたも、黄之鋒氏も、周庭さんも「香港衆志」を脱退し、「香港衆志」は解散しました。香港に残った2人はいかがですか。

羅氏:彼らは元気です。何の問題もありません。

木村:周庭さんは7月6日、裁判で昨年、警察本部の外で反政府抗議活動を行ったことについて罪を認めましたね。

羅氏:はい、そうです。黄之鋒氏は罪を認めませんでした。

木村:3人は別々の道を進み始めたのですか。

羅氏:私はこれについて黄之鋒氏と話しました。私たちはそれぞれの立場を支持し、支援します。これが今の状況です。

木村:あなたは外の声であり、黄之鋒氏は香港の中からの声という戦略ですか。

羅氏:私たちは海外から情報発信する必要があると思います。そうすれば香港の人々が何を欲しているかというストーリーを放送してもらうのに役立ちます。香港で話すのは香港国家安全維持法の施行で非常に難しくなりました。だから外に声が必要なのです。

あなたは運動方針を間違えましたか?

木村:あなたは2014年の雨傘革命を、昨年は逃亡犯条例改正案に対する大規模な抗議デモを主導しました。しかし抗議活動は暴力化し、一部は香港の独立を唱えるようになりました。あなたは運動方針を間違えたと思いますか。

羅氏:私たちはこれまでに一度も香港の独立を唱えたことはありません。そして香港の自決も取り下げました。運動の要求は主に『高度な自治』と『民主主義』に絞られています。2つの核心的な要求です。

英中共同宣言を見ても、これらが行き過ぎているとは思いません。中国政府は香港の人々に自治と民主主義を約束したのに、その2つは今なくなろうとしています。運動の中で正当な要求を提起していると思います。

木村:あなたは旧宗主国イギリスの統治時代から香港立法会(議会)議員として活躍し、香港の「民主主義の父」として知られる李柱銘(マーティン・リー)民主党初代党首と同じ立場(英中共同宣言にうたわれた『一国二制度』と『高度な自治』を支持)ですか。

羅氏:私たちはみんな民主主義を支持しています。 「私は彼に完全に同意する」と言うのは難しいですが、私たちも民主主義のために運動しています。

民主派予備選挙の結果をどう評価しますか?

木村:ついこの間、香港で行われた民主派の予備選挙の結果をどのように見ておられますか。黄之鋒氏は無所属候補として九龍東地区で首位を獲得しましたね。

羅氏:はい。とても刺激的です。 60万人を超える人が投票に参加しました。これは高い投票率です。これは、香港の人々が北京の抑圧に非常に怒っていて、民主主義と自治を望んでいるという北京政府への非常に明確なメッセージです。

木村:あなたのお父さんとお母さんは香港に滞在しています。どうお過ごしですか。

羅氏:両親は元気ですが、両親についてあまり話したくありません。両親を危険にさらすかもしれないからです。

木村:あなたはこれから香港の外でどのように抗議活動を続けますか。

羅氏:あなたと話しているように他のメディアと話して、香港の人々のメッセージを広めます。カナダやオーストラリアが香港との犯罪人引き渡し条約を停止し、アメリカも準備を始めました。より多くの国がそれに続くことを望んでいます。

イギリスの市民権を取得するつもりはありますか?

木村:あなたは将来、イギリスの市民権を取得するつもりはありますか。

羅氏:今はありません。現在、政治亡命を申請する予定はありません。

木村:イギリス政府は約300万人の香港市民にイギリスの市民権取得の資格があることを示唆しています。最初に英海外市民旅券によるイギリス滞在資格を6カ月から1年に延長する方針です。あなたは何人ぐらいの香港人がイギリスに来たいと願っていると思いますか。

羅氏:香港の地に残って闘おうと考えた人が他に何人もいたので、そんなに多くはないと思います。何百万人になるとは思いません。しかし、香港の人々が他の選択肢を持っているのは良いことだと思います。香港に対する義務感を抱くイギリスの決定は尊敬に値します。

日本政府に対して求めることは?

筆者の取材に応じる羅冠聡氏(スマホのスクリーンショット)
筆者の取材に応じる羅冠聡氏(スマホのスクリーンショット)

木村:日本政府に対して求めることはありますか。

羅氏:習氏を日本に招待すべきではないと思います。明確なシグナルを送ることが重要です。日本は民主主義国家であり、民主主義国家全てに非常に友好的だというシグナルです。

中国の権威主義的な拡大に対抗するために強力な同盟を結ばなければなりません。彼らをあなたの国に招待することによって独裁的な皇帝を認めるべきではないのです。ですから、少なくとも今のところ、習氏は招待されるべきではないと思います。

木村:世界が中国とロシア、そしてアメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアの間で分断し、非常に心配しています。そして欧州連合(EU)は異なる立場です。あなたは世界の未来をどう見ていますか。

羅氏:それは価値によって分かたれています。それはそれで良いと思います。なぜなら権威主義の国が人類に、民主主義国家に危険をつくりだすことを私たちが理解したからです。

従って西側の民主主義とアジアの民主主義、そして世界中の民主主義が拡大すれば、中国の権威主義的拡大に立ち向かい、民主化を解き放つために彼らに正しい道を進ませることができるでしょう。これは良いことだと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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