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「コロナって若者に関係あるの? ボクたちの行動が鍵を握る」北大医学部生がSNSで同世代に呼びかけ

木村正人在英国際ジャーナリスト
新型コロナ流行で緊急事態を宣言した鈴木直道北海道知事(夕張市長時代の写真)(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「No More Corona プロジェクト」

[ロンドン発]新型コロナウイルスの世界的大流行で全国に先駆け緊急事態を宣言した北海道。北海道大学医学部医学科4年の朝倉利晃さん(22)らが中心になって若者にクラスター(感染者の集団)の発生防止を呼びかける「No More Corona プロジェクト」を立ち上げました。

新型コロナウイルスの感染を放置すると感染者がネズミ算式に増え、重症化した肺炎患者が大量に発生して集中治療室(ICU)や人工呼吸器が足りなくなる医療崩壊が起きます。中国湖北省武漢市やイタリア北部、イランではこの悪夢が現実になりました。

感染症数理モデルを学ぶ朝倉さんは地域感染早期にクラスターの発生を止める重要性に気づき、緊急事態宣言直後の3月1日、北海道大学医学研究院公衆衛生学教室の玉腰暁子教授の監修の下、仲間と一緒にプロジェクトを開始。「私たち若者が感染拡大を防止する鍵を握っています」とSNSやクイズ形式を使って分かりやすく発信中です。

活動の一つとして、北大の通知や政府発信の情報を画像化して北大生に送っています。例えば、閉鎖空間に関する画像はこんな感じです。

(C)No More Corona プロジェクト
(C)No More Corona プロジェクト

そしてツイッターでさまざまな自粛への対処法も伝授しています。

【葛藤のテンプレ】

部活や同好会、コンパなど、みんなで集まってワイワイ騒ぐのは若者の特権です。しかし今、感染拡大の“津波”が起きるのを防げるかどうかの瀬戸際。「若者がクラスターの発生する環境を避け、感染症対策をしっかりすれば、感染者の急激な増加を防ぐことができる」と朝倉さんは言います。

なぜ若者が鍵を握るのか

単純化されたモデルが「No More Corona プロジェクト」のホームページで紹介されています。朝倉さんは「ここでは、その概略を説明します。簡単なシミュレーションであることをご承知下さい」と断った上で解説してくれました。

若者(20~30歳)と高齢者(60~70歳)の間で起きる感染は次の4ルートです。

(1)若者→若者(接触回数の比を便宜的に10にします)

(2)若者→高齢者(同3)

(3)高齢者→若者(同3)

(4)高齢者→高齢者(同5)

若者と高齢者の接触頻度を半分にしても感染力は91%にしかならないのに、若者世代の接触頻度を半分にすると感染力は70%に落ちます。全ての4つのパターンで接触頻度を半分にすると感染力は50%になるそうです。

下は、若者と高齢者の接触頻度の減らし方で高齢者の感染者数がどうなるかを示したグラフです。今回の新型コロナウイルス感染症の場合、接触頻度を少なくする他、クラスターの発生条件を積極的に避けることでも感染力を下げられることが予想できます。

(C)No More Corona プロジェクト
(C)No More Corona プロジェクト

「正直そんなに感染の怖さは感じられない」若者

朝倉さんは「活動を始めて2週間。改めて友達に話を聞いても活動をしている僕の実感としても正直そんなに感染の怖さは感じられない。それより、いつもやっていた楽しいことが出来なくなってしまう悲しみの方が大きい」と打ち明けます。

「しかし、日本の新型コロナウイルス対策は今後、若者が課題になってくる。若者の接触回数は他の年代に比べて多くなるので、若者が感染拡大に貢献してしまうのは仕方がない。だけど、逆に可能性でもあると思うんです。若者が感染症対策を意識すれば悲惨な事態は避けられるかもしれない。別に全部行動を自粛しなくて良いので、少しでも楽しく感染症対策に意識が向けば良いなと思っています」

新型コロナウイルスでは、クラスターは風通しが悪く、人と人が近くで会話するような閉鎖空間で発生すると言われています。このような場所を避ければクラスターの発生、引いては感染の拡大を効果的に制御できる可能性があると考えられています。

専門家会議は「一定条件を満たす場所において1人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されている。 具体的にはライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなど」と指摘しています。

「若者の皆さんへのお願い」として「若者世代は感染による重症化リスクは低い。こうした症状の軽い人が重症化するリスクの高い人に感染を広めてしまう可能性がある。人が集まる風通しが悪い場所を避けるだけで多くの人々の重症化を食い止め、命を救える」と訴えています。

クラスターマップ

厚生労働省は3月15日、クラスターの全国分布図を公表しました。大阪のライブハウス、東京の屋形船、千葉や愛知のスポーツジムでもクラスターが発生しています。

厚労省発表
厚労省発表

感染者の多くは周囲にほとんど感染させない一方、一部特定の人から多くの人に感染が拡大、地域でクラスターが発生しています。厚労省はクラスターの連鎖を防ぐのが鍵を握るとみて2月25日、北海道大学、東北大学や国立感染症研究所の専門家によるクラスター対策班を設置しました。

北海道の鈴木直道知事は2月28日、3週間にわたる緊急事態を宣言。道民に向け、週末の外出を控えるよう呼びかけました。「感染拡大のスピードを抑える対策が必要になっている。まさに今が山場」と危機感をにじませました。

画像

日毎に報告される北海道の陽性患者数は次第に落ち着き始めています。北海道だけでなく全国の大学生が「No More Corona プロジェクト」に取り組めば日本は新型コロナウイルスの流行を制御することに成功するかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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