COP25入りした小泉環境相、削減目標引き上げも「脱石炭」も宣言できず 永田町の政治力学に屈する

COP25に到着した小泉環境相(筆者撮影)

二酸化炭素の1万倍超の温室効果を持つ代替フロン

[マドリード発]スペイン・マドリードで開催されている第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)に10日、小泉進次郎環境相がやって来ました。

石炭火力発電をインフラ輸出する日本には世界の環境団体から「化石賞」を与えられるなど国際的な批判が高まっています。

関係者によると、国際環境NGOとの会合で小泉環境相は「温室効果ガスの削減目標引き上げや石炭火力発電の問題では国内で随分努力したが、今回は時間が足りずできなかった。ここで終わりじゃないから、これからも努力していきたい」と話したそうです。

日本館で開かれたイベントに参加した小泉環境相。9月の気候行動サミットでは「温暖化対策はセクシーに」「ステーキ毎日食べたい」発言で物議を醸しました。しかしこれだけ注目される環境相は過去にいなかったと、国内の環境団体から大きな期待を寄せられているのも事実です。

小泉環境相は石炭火力発電の輸出制限には一切触れず、フルオロカーボンのライフサイクル管理イニシアチブを宣言。しかし「日本のフロン回収率が低迷しているのは経済的インセンティブが働かないから。脱フロン化を急ぐことが最善の道」(気候ネットワーク)と環境団体をがっかりさせました。

フルオロカーボンの中でも「代替フロン」と呼ばれるHFCはオゾン層を破壊しませんが、地球温暖化に大きな影響を及ぼします。温暖化への影響は二酸化炭素の数百倍から1万倍超に及び、京都議定書で排出抑制の対象ガスとされています。

エアコンや冷蔵庫から漏らしてしまうと家庭用エアコン1台では約2000キログラム、スーパーマーケットの冷蔵ショーケース1台では約4万キログラムの二酸化炭素を放出したのと同じ温室効果があるそうです。小泉環境相はこう力を込めました。

父、小泉純一郎が最初に提唱したイニシアチブを引き継ぐ

代替フロンのライフサイクル管理イニシアチブを宣言した小泉環境相(筆者撮影)
代替フロンのライフサイクル管理イニシアチブを宣言した小泉環境相(筆者撮影)

「このイニシアチブは私の父、小泉純一郎(当時は首相)が2004年に最初に提唱しました。フルオロカーボンが使用後に空中に流出したら強力な温室効果を持ちます。このため日本は01年に世界で初めてフロン回収・破壊法(現フロン排出抑制法)をつくり、今年(回収しないと即座に罰金を科すことができるように)改正しました」

「30年までに70%の回収率を目指します。フルオロカーボンについて削減目標を持っているのはわが国を含めて70カ国だけです。今は二酸化炭素に注目が集まりすぎです。50年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにするためにはフルオロカーボンを無視するわけにはいきません」

「今後30年間にわたって1秒ごとに10台のエアコンが販売されると推定されています。もし対策を強化しなければフルオロカーボンの排出量は飛躍的に増え、700億トンの二酸化炭素と同じ温室効果を持つフルオロカーボンが放出される恐れがあります」

「日本企業はエアコン分野でトップレベルの省エネ技術を持ち、フルオロカーボンを使用しない自然冷媒機器も開発しています。日本の技術を活用した回収・破壊を含むライフサイクル管理イニシアチブに7カ国(シンガポール、ベトナム、ニュージーランドなど)と3つの国際機関、日本企業10社の支援を得ています。このイニシアチブを世界に広げていきたい」

イニシアチブに賛同する国々とカメラに収まる小泉環境相(筆者撮影)
イニシアチブに賛同する国々とカメラに収まる小泉環境相(筆者撮影)

「20年以降は新しい石炭発電所を建設しない」国連事務総長

しかしCOP25が開幕した2日、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「世界のいくつかの地域では数多くの石炭火力発電所が引き続き計画され、建設されています。石炭への依存を止めるか、温暖化対策に取り組む私たちのすべての努力を無にするのか」と問いかけました。

そして「20年以降、新しい石炭火力発電所は建設しない。歪んだ化石燃料補助金に納税者の税金を充てるのを止めよう」と改めて呼びかけたばかりです。

これに対し日本の梶山弘志・経済産業相は翌3日「国内も含めて石炭火発、化石燃料の発電所を選択肢として残しておきたい」と発言。日本には「化石賞」が与えられました。

「安倍さん、石炭やめろ」の連呼

「ストップ石炭」と安倍晋三首相に訴える抗議活動(筆者撮影)
「ストップ石炭」と安倍晋三首相に訴える抗議活動(筆者撮影)

この日、COP25の会場前ではピカチュウが「ストップ石炭」の横断幕を掲げ、環境団体のメンバーらが「安倍さん、安倍さん、石炭やめろ」「ストップ・コール・ファイナンス(石炭火力発電プラントへの投融資をやめろ)」と連呼しました。

インドネシアのムハマド・レザ氏はこう話します。「日本は国内で適用している厳格な排出基準を満たしていない恐れがある石炭火力発電に資金提供することで公害を輸出し、海外の公衆衛生を危険にさらしている」

インドネシアのムハマド・レザ氏(筆者撮影)
インドネシアのムハマド・レザ氏(筆者撮影)

「石炭火力発電のクリーンテクノロジー、すごく進んだテクノロジーを輸出するとごまかす“気候偽善”は即座に止めよ。日本の植民地主義はいま一度、大規模な抵抗に見舞われる」

「日本は温暖化対策で良い役割を果たしているとはとても言えない。インドネシアには日本が支援する石炭火力発電事業がいくつもある。チレボン石炭火力発電所周辺の水は汚染され、水道水は飲めなくなった」

レザ氏は発電所周辺の漁師たちと一緒になって抗議運動を起こしています。

国際環境NGO・FoE Japanによると、西ジャワ州・チレボン石炭火力発電所周辺の村は小規模な漁業、貝の採取、塩づくり、農業で生計を立ててきました。しかし発電所ができて漁獲量や漁場・貝採取場が減少し、塩田も深刻な影響を受けました。農業の収穫も激減しました。

この事業は日本、韓国、インドネシアの合弁企業によって進められ、1号機(660メガワット)の商業運転が2012年に開始。2号機(1000メガワット)も16年に着工され、22年に運転が開始される予定です。しかし、この2号機の計画を巡って贈収賄疑惑が発覚しました。

2号機の事業には丸紅や、東京電力FPと中部電力の合弁会社JERAが参加し、三菱日立パワーシステムズと東芝が主要機器を納入。国際協力銀行(JBIC)と3大メガバンクが中心となって協調融資を行い、日本貿易保険(NEXI)が民間銀行の融資の一部について保険契約を結んでいます。

バングラデシュでは「土地が水中に沈んだ」

バングラデシュのハサン・メヘディ氏はマタバリ石炭火力発電所(600メガワット、2基)の近くで暮らしています。この発電所の事業は住友商事や東芝、IHIの3社が受注し、国際協力機構(JICA)が支援しています。

バングラデシュのハサン・メヘディ氏(筆者撮影)
バングラデシュのハサン・メヘディ氏(筆者撮影)

メヘディ氏は「発電所の建設に伴って6000人が自宅や家畜、土地、そして仕事も失った。海へとつながる運河は閉鎖され、土地は水中に沈んでしまった。事業者は私たちの責任ではないと言っている」と訴えました。塩田やエビ養殖従事者が仕事を失ったそうです。

日本は11年の福島原発事故の後、石炭に大きく依存するようになりました。経済産業省の資料では17年の時点で日本の発電電力量における石炭依存度は32.7%にのぼっています。

石炭火力発電のインフラ輸出にも力を入れています。世界の化石燃料プロジェクトを調査している非営利団体グローバルエナジーモニターによると、13年以降、JBIC、JICA、NEXIが石炭火力発電事業を支援した額は180億ドル(約2兆円)を上回るそうです。

ドイツの環境NGOウルゲワルドとオランダの環境NGOバンクトラックの調査によると、日本の3大メガバンクが17年以降、石炭火力発電に直接融資を行った世界の307の商業銀行のトップ3を占め、邦銀の直接融資は全体の32%にのぼったそうです。

日本も唯我独尊に陥らず、海外の声に耳を傾けた方が良さそうです。

(おわり)