「聖グレタ」は子供の姿をした預言者なのか 世界の政治指導者は16歳のスウェーデンの少女にどう答える

過熱するメディアに距離を置くグレタさん(筆者撮影)

「先住民は何千年もの間、自然とバランスを取ってきた」

[マドリード発]抜本的な地球温暖化対策を求める子供たちの学校ストライキ「未来のための金曜日」を昨年8月、1人で始めたスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさん(16)現象を改めて考えています。

グレタさんは9日午前、第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)でドイツの気候活動家ルイサ・ノイバウアーさん(23)やロシア、途上国、先住民の若者たちと一緒に記者会見に参加しました。

世界中のジャーナリスト約200人が会見場に押し寄せました。COP25の主役は間違いなくグレタさんです。しかし彼女は自分にばかり注目が集まることをすごく気にしている様子がはっきりうかがえます。

グレタさんは、今日はできるだけ発言を控えたいと断った上で、こう話しました。

「気候危機に直面している先住民の仲間の話を聞くのはとても大切です。なぜなら彼らの地球に関する知識はとても役に立つからです。彼らは何千年もの間、自然とバランスを取りながら生きてきました」

「彼らは苦しんでいます。彼らの権利は侵害されています。彼らは気象の非常事態の影響を最も深刻に受けています」

「私がメディアの注目を集めていることは知っています。この関心を自分たちのストーリーを話すべき人たちのために使うことが道徳的な責任だと信じています」

「アフリカが体験している熱波はいずれあなたを襲う」

政治家の行動を求める世界の若者たち(筆者撮影)
政治家の行動を求める世界の若者たち(筆者撮影)

記者会見に臨んだ東アフリカ・ウガンダの女性ナカブエ・ヒルダ・フラビアさん(22)は「干ばつのために家族は土地と家畜を売らなければなりませんでした。私たちが毎日感じている熱波は間もなくあなたたちを襲うでしょう」と訴えてきました。

ロシアの男性バイオリニスト(25)は今年3月からモスクワのプーシキン広場に1人で立ち、「地球温暖化は飢餓、戦争、死と同じ」と書いたプラカードを掲げて抜本的な温暖化対策を訴えています。

アメリカン・インディアンの女性は「白人至上主義の資本主義に終止符を」と米ミネソタ州でパイプラインの建設に反対しています。

フィリピン出身のキシャ・エラ・ムアナさんは「海を気遣う大切さ」を強調しました。

しかし世界中の関心はグレタさん1人に集中しています。

「トゥンベリの終末論的な活動には宗教的な響き」

グレタさんは気候変動リスクを布教する子供の預言者のようだと保守派の英紙デーリー・テレグラフの女性コラムニスト、マデリン・グラント氏は皮肉たっぷりに書いています。

「トゥンベリは終末論的な警告と長い三編みで数カ月のうちに世界的なアイコンになりました。印象的なのは支持者の準宗教的な敬意です。運動に刺激を与える能力を持つ彼女は子供の預言者として描かれています」

胸の前で手を合わせるグレタさん(筆者撮影)
胸の前で手を合わせるグレタさん(筆者撮影)

「トゥンベリの終末論的な活動には宗教的な響きがあり、超自然的な資質を持ち、無邪気さと道徳的な明快さを称賛されている子供の聖人のようです」

「禁欲的な聖人と同じように、トゥンベリはその修道的な生き方によって称賛されるのです。聖グレタへの崇拝は桁外れですが、驚くべき現象ではありません。快適なライフスタイルと西洋における宗教の衰退は精神的な虚無を生み出したからです」

宮沢賢治の童話『よだかの星』を思い出す

日本で生まれ育った筆者は宗教には非常にルーズです。だから西洋社会に息づくキリスト教的な禁欲主義はよく分かりません。しかしグレタさんを宗教的なアイコンにするのは気の毒な気がします。

グレタさんは8歳の時に地球温暖化について初めて知りました。電気を消してエネルギーを節約し、紙をリサイクルして資源を節約するよう教えられたそうです。薄い大気の層が地球を私たちの家にしていることを非常に奇妙に思ったのを覚えているそうです。

しかし世界の政治指導者は抜本的な行動を起こそうとしませんでした。このままでは地球を救うのは不可能だと思い詰めたグレタさんは11歳までに精神的に落ち込んでしまいました。

世界の仲間とハグするグレタさん(筆者撮影)
世界の仲間とハグするグレタさん(筆者撮影)

彼女の話に耳を傾けていると、宮沢賢治の童話『よだかの星』を思い出します。

醜いよだかは鳥の仲間から嫌われ、鷹からは名前を変えろと脅されます。やり切れなくなって口を大きく開いて飛ぶとたくさん虫が入ってきました。

「僕はもう虫をたべないで餓えて死のう。遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう」

よだかは、どこまでも真っ直ぐ空へのぼって行きました。よだかは星になり、いつまでもいつまでも燃え続けました。しかしグレタさんはよだかと違って、もう1人ではありません。世界中に仲間がいます。

グレタさんの目標は気温上昇を1.5度に抑えること

保守や極右はグレタさんを「黙示録の教祖」「ノーベル恐怖賞」と嘲笑し、「カルトを主導する深く混乱したメシア」と批判を強めます。

しかし、グレタさんは英紙ガーディアンへの寄稿ではっきり記しています。

「学校に行くべきだと言う人もいます。しかし未来を救うために十分なことをしている人がいないのに、若者はなぜ未来のために勉強させられなければならないのでしょう」

「最高の科学者によって示された最も重要な事実が政治家によって無視されているのに、事実を学ぶ意味は何なのでしょう」

COP25で政治家がどんな答えを出すか注視するグレタさん(筆者撮影)
COP25で政治家がどんな答えを出すか注視するグレタさん(筆者撮影)

「私は他の学生にも学校ストライキに参加することを勧めます。あなたがどこにいても議会や自治体の外に座って世界の気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度以下に保つために彼らが行動するよう要求しましょう」

COP25はその答えを出せるのでしょうか。国際的な研究者ネットワークが各国の削減目標(NDC)の野心度を評価した気候行動トラッカーがあります。その中で日本は「非常に不十分」と酷評され、世界が日本レベルだと気温は4度上昇すると指摘されています。

日本でもグレタさんを批判する大きな声が一部から聞こえてきます。しかし気候行動トラッカーは「日本政府の最近の行動は“非常に不十分”なパリ協定のNDCをより野心的なものに引き上げるという意図が近い将来、全くないことを強く示唆している」と指摘しています。

グレタさんを批判する前に日本にもやるべきことがあるはずです。

(おわり)