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「リベラリズムは時代遅れ」と切り捨てたプーチン露大統領 後退する自由民主主義は生き残れるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
G20大阪サミットの集合写真(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「自由主義は国民の利益と対立」

[ロンドン発]タフガイ政治指導者の本家本元ウラジーミル・プーチン露大統領は英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューに応じて「リベラリズム(自由主義)は時代遅れになった」と一刀両断にしました。

ドナルド・トランプ米大統領の誕生、英国の欧州連合(EU)離脱交渉、世界中で人気を集める非自由主義的なタフガイ政治指導者。大衆は移民や国境開放、多文化主義に背を向け始めています。

こうした中、プーチン氏はFT紙に持論を展開しています。

「自由主義者はここ数十年やってきたように誰彼となくすべての事柄について言って聞かせることはできなくなった」

「自由主義は何もなすべきことはないことが前提になっている。移民は罪のない人を殺したり、強奪したり、レイプしたりできる。なぜなら彼らは守られなければならないという権利を持っているからだ」

「すべての犯罪は罰せられるべきだ。自由主義は時代遅れになった。自由主義は国民の圧倒的多数の利益と対立するようになった」

2015年の欧州難民危機でドイツのアンゲラ・メルケル首相が100万人以上の難民を受け入れたことについて、プーチン氏は「重大な誤りだ」と一蹴。その一方で不法移民や麻薬の流入を止めようとしているトランプ大統領を持ち上げました。

そして英南西部ソールズベリーでロシアの元二重スパイと娘の暗殺未遂事件とは無関係としながらも「国家への裏切りは最も重大な犯罪だ。裏切り者は罰せられるべきだ」と切り捨てました。

後退する民主主義

これに対し旧ソ連圏ポーランドの元首相ドナルド・トゥスクEU大統領(首脳会議の常任議長)はこう反論しました。

「自由主義が時代遅れになったという議論には強く反対を唱えなければなるまい。私たち欧州人は一致団結して強く自由民主主義を守り、発展させている。自由主義が時代遅れだと唱えるものは自由や法の支配、人権が時代遅れになったと言っているのと同じだ」

「欧州で暮らす私たちにとっては不可欠ですぐに反応する価値であり、そうあり続けるだろう。私からすれば、実際に時代遅れになっているのは権威主義、個人崇拝、オリガルヒ(新興財閥)による寡頭政治だ。たとえ仮にそれらが有効であるように見えることがあったとしてもだ」

米ワシントンにある国際NGO団体フリーダム・ハウスの報告書「民主主義は後退している 2019年世界の自由」は次のように指摘しています。

・冷戦終結は劇的な民主化の波を起こした。ベルリンの壁が崩壊した東欧だけではなくアジアやアフリカ、中南米でも自由民主主義が広がった。1988年から2005年にかけ自由ではない国は37%から23%に下がる一方で、自由な国は36%から46%に増えた。

・しかし05年から18年にかけ自由でない国は逆に26%に3ポイント増え、自由な国は44%に2ポイント減った。これは90年代から00年代にかけ急膨張した自由民主主義への陶酔感の反動かもしれない。

・13年間で23カ国の民主主義が「自由から部分的に自由」か「部分的に自由から自由でない」に後退した。一例を挙げると1990年「自由な国」に格上げされたハンガリーは「部分的に自由な国」に降格された。

EU大統領よりプーチン氏の方が正しい?

理想主義を唱えるトゥスクEU大統領と冷徹な現実主義者のプーチン氏のどちらが正しいのでしょう。考え方としてはトゥスク氏が正しくても、現実をよく分かっているのはプーチン氏なのかもしれません。

フリーダム・ハウスの報告書によると、政治的権利と市民の自由が後退した国は68カ国、改善した国は50カ国。日本のスコアは横ばいで世界のベスト12にランク付けされています。

フリーダム・ハウスの報告書より抜粋
フリーダム・ハウスの報告書より抜粋

【EU加盟28カ国の中で改善した国】

アイルランド、ベルギー、スロベニア、ギリシャ

【後退した国】

ポルトガル、オーストリア、英国、チェコ、スロバキア、クロアチア、ポーランド、ルーマニア、ハンガリー

ベルリンの壁と旧ソ連の崩壊で急激に膨らんだ自由民主主義の幻想は2008年の世界金融危機を境に逆回転を始めています。

グローバリゼーションの最初の被害者ロシアのプーチン氏や、トランプ大統領の方がトゥスクEU大統領に象徴される西側エリートたちよりノンエリートの怒りを随分よく理解しています。

英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティで講演した米著名政治学者ラリー・ダイアモンド氏はこう問いかけました。

「民主主義は後退期に入った。ポチョムキン・デモクラシー(見せかけの民主主義)や選挙で選ばれた専制政治がはびこっている。私たちは後退期に入った民主主義が大恐慌に陥るのを防げるのか」

少なくない西側エリートはロシアや中国マネーになびいています。米英がトランプ大統領とEU離脱で国際的な信用を失う中、メルケル首相は最近、公の場で体の震えを抑えられないことが2度もありました。

G20大阪サミットのデジタル経済に関する首脳特別イベント(C)内閣広報室
G20大阪サミットのデジタル経済に関する首脳特別イベント(C)内閣広報室

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は政治的にまだまだ未熟です。自由民主主義の未来は20カ国・地域(G20)大阪サミットでホスト役を務める安倍晋三首相の双肩にかかっていると言っても、もはや過言ではないでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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