【W杯現地報告】無敵艦隊スペインを撃破したロシア 最大の勝者はプーチン大統領だ 

W杯ロシア大会の勝者はこの男だ(写真:ロイター/アフロ)

48年ぶりの快挙

[ニジニ・ノヴゴロド発]サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で7月1日、開催国ロシア(FIFAランキング70位)がPK戦で10年南アフリカ大会優勝国スペイン(同10位)を破りました。

ベスト8進出はロシアになって初めて、旧ソ連時代を含めても1970年のメキシコ大会以来、実に48年ぶりの快挙です。

スペインのボール保有率は79%、シュート数は24本。これに対してロシアはそれぞれ21%、7本。この試合でスペインが通したパスの数は実に1006本にのぼり、ロシア代表が今大会4試合で成功させたパスの数計1027本より、わずかに21本少ないだけでした。

ニジニ・ノヴゴロドの「FAN FES」会場はロシア人サポーターで超満員(筆者撮影)
ニジニ・ノヴゴロドの「FAN FES」会場はロシア人サポーターで超満員(筆者撮影)

筆者はこの試合を、ロシアの文豪マクシム・ゴーリキーの故郷ニジニ・ノヴゴロドに設けられた「FAN FEST」広場のビッグスクリーンで観戦しました。広場は超満員で、地元のサポーター、家族連れ、カップルで身動きできないほどでした。

クロアチア対デンマークの試合を観戦しにニジニ・ノヴゴロドまでやってきた両国のサポーターもたくさんいました。

「ロシア、ロシア」の大合唱

ロシアの守護神イゴール・アキンフェーフがスペイン5人目のキッカー、イアゴ・アスパスのPKを跳ね返し、ベスト8進出を決めた瞬間、ロシア人サポーターの歓喜は頂点に達しました。どんな風だったか、筆者が撮影した動画をご覧下さい。

前半41分にアルテム・ジューバが同点のPKを決めた時も喜びを爆発させました。ロシア人サポーターが南国のように陽気で熱狂的とは思いませんでした。

試合開始前にロシア国歌を斉唱する時も笑顔でいっぱいでした。これほど明るく国歌を歌う光景はあまり目にしたことがありません。

ロシア代表の自国リーグ所属率は91.3%。100%のイングランド代表に次いで今大会出場国の中で2番目。日本代表の34.8%に比べると随分高くなっていることが分かります。

サッカーのグルーバル化が急激に進む中で、ロシアは国内リーグで戦う「純国産チーム」と言っても決して過言ではないでしょう。

開催都市はどこに行っても白・青・赤の横三色旗ロシア国旗が揺れています。時間稼ぎのパス回しが論争を巻き起こした日本対ポーランド戦でも、ロシア対スペイン戦と同じようにPK戦にもつれ込んだクロアチア対デンマーク戦でも「ロシア、ロシア」の大合唱がスタンドから沸き起こりました。

「テトリス」のテーマ曲としても世界的に有名になったロシア民謡コロベイニキもあちこちで歌われています。

ロシア人のホスピタリティー

筆者はモスクワ、エカテリンブルク、ボルゴグラード(旧スターリングラード)、ニジニ・ノヴゴロドの4都市を訪れました。どこに行っても市民は親切にバスや地下鉄、道の案内をしてくれます。

ビッグスクリーンに映し出される試合を熱心に観戦する子供(筆者撮影)
ビッグスクリーンに映し出される試合を熱心に観戦する子供(筆者撮影)

第二次大戦でスターリングラードの戦いの舞台となったボルゴグラードでは女性ガイドのイリーナさんが「ロシアのことを少しでも多く知ってもらいたい」と一生懸命、モニュメントを案内してくれました。

これまでのところ、ホテルやアパートメント、民泊、レストラン、食堂で嫌な思いをしたことは一度もありません。W杯ロシア大会を現地で観戦した旅行者の好感度はかなり高かったのではないでしょうか。

ロシア中に白・青・赤の三色カラーがあふれている(筆者撮影)
ロシア中に白・青・赤の三色カラーがあふれている(筆者撮影)

国や民間、市民が一体化したホスピタリティーは、「おもてなし」をセールスポイントに2020年に東京五輪・パラリンピックを開催する日本も学ぶ必要があるでしょう。

W杯外交

ウクライナのクリミア併合、シリア内戦への軍事介入、英国での元二重スパイ暗殺未遂事件で孤立感を深めていたロシアですが、W杯ロシア大会の開催でイメージを随分回復したのは間違いありません。

大会期間中に米露首脳会談が7月16日にヘルシンキで開かれることが決まりました。

トランプ一家のマトリョーシカ人形(筆者撮影)
トランプ一家のマトリョーシカ人形(筆者撮影)

モスクワの赤の広場周辺では、土産物店にプーチン大統領、ロシア革命の指導者ウラジーミル・レーニン(1870~1924年)、中国の習近平国家主席と並んで、トランプ大統領、メラニア夫人、12歳のバロンくんのマトリョーシカ人形が飾られていました。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は韓国対メキシコ戦を観戦。プーチン大統領とも会談し、北朝鮮の核・ミサイル問題を協議しました。高円宮妃久子さまもサランスクで行われた日本対コロンビア戦を観戦されました。

プーチン大統領はホスト役としてサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子と一緒にロシア対サウジ戦を観戦。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長がW杯決勝を観戦する可能性も浮上しています。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領もフランスが準決勝に進出したらロシアを訪れるそうです。プーチン大統領の「W杯外交」は大成功を収めています。

パンとサーカス

2000年にプーチン氏が大統領に就任してからロシアの国民1人当たりの実質国内総生産(GDP)は為替の影響を取り除いた購買力平価で見てソ連崩壊前のレベルを上回りました。しかし世界金融危機を境に成長スピードは減速してしまいました。

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プーチン大統領は年次教書演説で「2,000万人が貧困ライン以下で暮らしている現状は受け入れられない」と「分配」政策に力を入れると表明しました。W杯開催を、古代ローマでいう「パン(食べ物)とサーカス(娯楽)」の「サーカス」で終わらせてはいけません。

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ロシア経済は西側諸国の資本と技術を導入して天然資源依存を減らさない限り、米国や中国との差は開く一方です。

しかし原油価格が回復する中、プーチン大統領がW杯の成功をきっかけに西側諸国との関係を改善し、国内の経済改革に取り組むかどうかは今のところ、全く分かりません。

(おわり)