モリカケ官僚「幹部人事の一元管理」が招いた安倍「そんたく」政治の泥沼 権限の分散と透明性を

廃棄と改ざんの方向性を決定づけた佐川宣寿前国税庁長官(写真:ロイター/アフロ)

「あってはならないこと」

[ロンドン発]「決裁を経た行政文書を改ざんし、それを国会に提出するようなことは、あってはならないことであり、誠に遺憾」――。

学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却をめぐる決裁文書改ざん問題で、財務省は4日、調査報告書を公表し、佐川宣寿前国税庁長官(当時理財局長)が「応接録の廃棄や決裁文書の改ざんの方向性を決定づけた」として停職3カ月相当としたのをはじめ計20人を処分しました。

調査報告書では「一連の問題行為は財務相や事務次官には一切報告されていない」とされたため、麻生太郎財務相は閣僚給与1年分を自主返納し、続投する意向です。

一連の廃棄・改ざん問題の発端は、昨年2月17日、安倍晋三首相が国会で「(森友学園への国有地売却に)私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と発言したことです。

調査報告書によると、これを受け、近畿財務局などに問い合わせた理財局の中村稔総務課長(停職1カ月)が、昭恵夫人本人からの照会はなく、夫人付からの照会は特段問題ないことを確認します。

政治家関係者からの照会状況をまとめたリストを見た佐川氏は中村課長に「応接録の取り扱いは文書管理のルールに従って適切に行われるもの」との考えを徹底します。応接録は「1年未満保存」の文書であり、保存期間が終了した応接録は廃棄するという意味です。

中村課長は政治家関係者の応接録を廃棄するよう指示されたと受け止め、国有財産審理室長、近畿財務局の管財部長に伝えました。2月24日、佐川氏は国会で「近畿財務局と森友学園の交渉記録は残っていない」と答弁しています。

「このままでは外には出せない」

しかし、いずれ決裁文書の公表を求められ、国会審議で追及されかねません。2月27日に政治家関係者からの照会状況が記載された決裁文書の報告を受けた佐川氏は「このままでは外に出せない」と述べ、部下の間に「記載を直すことになる」との認識が改めて共有されました。

さらに佐川氏は中村課長や国有財産企画課長に「担当者に任せるのではなくしっかり見るように」と指示します。3月8日、書き換えが小幅にとどまっていたため、貸付契約までの経緯をすべて削除する書き換え案が示されます。しかし、近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員は猛反発します。

この配下職員は作業から外され、3月20日、佐川氏からこれまでの国会答弁を踏まえた内容にするよう念押しがありました。

調査報告書は「応接録の廃棄や決裁文書の改ざんは国会審議において森友学園問題が大きく取り上げられる中で、さらなる質問につながり得る材料を極力少なくすることが主たる目的だった」「理財局が近畿財務局の各種文書の状況を十分把握しきれておらず、それらを精査する時間的余裕がなかったことも影響していた」と結論付けます。

森友学園への国有地売却をめぐっては、佐川氏ら財務省職員ら計38人が背任や虚偽公文書作成などの容疑で告発されていましたが、先月31日、大阪地検特捜部は全員を不起訴処分にしています。安倍政権としては、財務省の調査報告書と処分で森友問題の幕引きを図りたいところです。

いかに国家は盗まれたか

モリカケ問題をロンドンから見ていると、駐南アフリカ英国大使(1987~91年)のあと駐米英国大使を務めた外交官ロビン・レンウィック元上院議員(80)の著作『いかに国家は盗まれたか――南アフリカの腐敗』が頭に浮かびました。

アパルトヘイト(人種隔離政策)を撤廃し、運動を率いた故ネルソン・マンデラ氏(1918~2013年)が南ア初の全人種参加選挙を経て大統領に就任。南アは多人種の融和を目指す「レインボーネーション(虹の国)」と称賛されます。しかしマンデラ氏が一線を引いたあと、腐敗がはびこるようになりました。

ロビン・レンウィック氏(筆者撮影)
ロビン・レンウィック氏(筆者撮影)

レンウィック氏は英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ」での講演で、マンデラ氏は自分の後継者として憲法の中でマイノリティー(少数派)保護を議論したシリル・ラマフォサ現大統領(65)が適任と考えていたと打ち明けました。

レンウィック氏によると、今年2月に失政の責任を取って辞任したジェイコブ・ズマ前大統領(76)はアパルトヘイト撤廃後、亡命先から帰国した闘士と同じように一銭も持っていませんでした。アフリカ民族会議(ANC)で影響力を持つようになった彼らに家や車、仕事や給与、秘書まで提供したのは地元のビジネスマンです。

ズマ氏はインド系財閥に完全に篭絡され、大統領に就任して3~4年してから腐敗が一気に拡大します。ズマ氏を取り巻くインド系財閥やパトロンによって過去5年間に2000億ランド(1兆7300億円)が南アから盗まれたとレンウィック氏は指摘しました。

こうした財閥やパトロンを排除しようとした者は次々と官職を追われました。ズマ氏は憲法を改正して、お金をもらって財閥やパトロンを訴追しない代わりに不正を追及しようとする者を刑務所に放り込む主任検察官を任命しました。南アの犯罪捜査局は皮肉なことに犯罪者の巣窟と化してしまいました。

殺人で有罪になった男が犯罪捜査局の幹部になったケースもあるそうです。

平気でウソをつく官僚

腐敗や汚職に取り組む国際的な非政府組織トランスペアレンシー・インターナショナルの「腐敗認識指数2017」によると、一番腐敗のない国はニュージーランドでスコアは89点。日本は73点で20位。南アは43点で71位。ちなみに筆者が暮らす英国は82点でカナダ、ルクセンブルク、オランダと並ぶ8位です。

日本と南アを比較するのは適当ではないかもしれませんが、モリカケ問題では自分の保身や出世のためには平気でウソをついたり、文書を廃棄したり改ざんしたりする官僚の姿が浮き彫りになりました。野党総崩れの中、1強をほしいままにしている安倍首相ににらまれると官僚は出世できません。

縦割り行政の弊害を排除するため、国家公務員制度改革で幹部職員の人事管理を政治主導で内閣が一元的に行えるよう2014年5月に内閣人事局が設置されました。日本の議院内閣制では衆院と参院のねじれが生じない限り、首相に非常に強い権限が与えられます。衆参両院で圧倒的多数を持つ安倍首相は官僚幹部の人事権を握ることで霞が関を完全に掌握します。

政治的に中立であらねばならない官僚はいつしか納税者ではなく、安倍首相の顔色をうかがいながら仕事をするようになりました。それが「そんたく」政治の始まりです。「絶対権力は絶対に腐敗する」と言われるように、モリカケ問題では安倍首相のお気に入りが優遇され、行政の公正さが歪められていました。

裏目に出た国家公務員制度改革

「官の威信」の低下、不祥事の続発で信用力が低下していることを受けて行われた国家公務員制度改革ですが、結局「政高官低」の状況を加速させ、政治へのおもねりを強めてしまいました。

官僚バッシングで若手職員の退職が目立ち、志気が低下する中、霞が関の疲弊感・閉塞感はさらに深まってしまいました。一連のモリカケ問題を見ていると、官僚を志す若者がいるのだろうかと不安になります。

行政の継続性を担保する官僚機構は政治的に中立でなければなりません。そうでなければ政権が交代するたび、多くの官僚の首をすげ替える必要が出てきます。内閣人事局に幹部職員の人事権を握らせたことで日本の官僚機構は国民の信頼を失ってしまいました。

同じ人間のすることですから日本も筆者の暮らす英国も大きな違いはありません。しかし英国では権力を分散させ、透明性を高めることで腐敗の広がりを最小限に抑えています。テクノロジーの進展で英国の官僚制度も民間からの採用が増え、大きな転換点を迎えています。

一方、日本では民主党は批判ばかりで政権担当能力の欠如をさらけ出し、空中分解してしまいました。政治主導をさらに強化し、米国型の政治任用を増やしていくのか。それとも政治的中立性の原則に立ち戻るのか。政権を任せられる野党が見当たらない中、自民党内の権力闘争に自浄作用を期待するしかありません。

(おわり)