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トランプとマクロンの不思議な愛情 どうして男同士の「ブロマンス」は芽生えたか

木村正人在英国際ジャーナリスト
マクロン仏大統領の肩の埃(ほこり)を払うトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

「私たちは非常に特別な関係だ」

[ロンドン発]フランスのエマニュエル・マクロン大統領(40)が3日間にわたってアメリカを初めて公式訪問し、ドナルド・トランプ米大統領(71)と会談しました。 自由貿易、地球温暖化対策、イラン核合意、シリア内戦をめぐって意見が食い違う2人ですが、男の友情以上の絆(ブロマンス)を築いています。

「ブロマンス」とは「兄弟、男同士の仲間(brother)」と「ロマンス(romance)」の混成語だそうです。性的な関係はないものの、それに匹敵するような強い男同士の絆を言います。

ホワイトハウスで会談した2人は抱擁して頬に軽い口づけを交わし、トランプ大統領はマクロン大統領の肩に埃を見つけて払ってやりました。いつもは尊大に振る舞うトランプ大統領がこんな仕草を見せるのは安倍晋三首相とマクロン大統領に対してぐらいで、「私たちは実際、非常に特別な関係だ」「我々は彼を完璧にしてやらなければならない。彼は完璧なんだから」とマクロン大統領を評しました。

「マクロン大統領はフランスの歴史に残るリーダーになる。あなたのことを友と呼べるのは名誉なことだ」「アメリカとフランスの友情がより深く、私たちの緊密な関係がより強く、そして私たちの聖なる自由が死にませんように」とトランプ大統領はマクロン大統領に語りました。

アメリカ第一主義と一線を引くマクロン大統領

その一方、米議会で演説したマクロン大統領はナショナリズムと孤立主義を批判し、トランプ大統領の「アメリカ第一主義」と明確な一線を引きました。

「孤立主義、多国間主義からの撤退とナショナリズムは恐怖に対して一時的な救済として私たちを惑わせる恐れがある。しかし世界に対して扉を閉ざしても世界の進化は止まらない。国民の恐怖を冷ますのではなく火をつけるだけだ」

シリアからの撤退を計画するトランプ大統領に対して、マクロン大統領は混乱するシリアに空白を作ることになり、イランが勢力を拡大する恐れがあると反対しています。トランプ大統領が破棄を主張しているイラン核合意について、マクロン大統領は継続を主張しています。

トランプ大統領が離脱を発表した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」について、マクロン大統領は「プラネットB(地球に代わり)はない」と復帰を呼びかけています。トランプ大統領が鉄鋼とアルミニウムの輸入品への追加関税を発表したことについても自由貿易の重要性を説きました。

マクロン大統領は議会演説で「アメリカを再び偉大に」というトランプ大統領のスローガンをもじって「地球を再び偉大に」と呼びかけました。

マクロン大統領の考え方は、トランプ大統領が完全に逆を行くバラク・オバマ前大統領の多国間主義と全く同じなのに、マクロン大統領とトランプ大統領はどうして欧米メディアに「ブロマンス」と呼ばれるほど緊密な関係を築くことができたのでしょう。

マクロン大統領夫人を「良いスタイルだね」とほめたトランプ大統領

トランプ大統領はメラニア夫人とともに昨年7月14日のフランス革命記念日にマクロン大統領に招かれ、パリで軍事パレードを観覧、大いに感激しました。この際、トランプ大統領はマクロン大統領より25歳年上のブリジット夫人を「良いスタイルだね」とほめて顰蹙を買ったことがあります。

トランプ大統領は各国首脳と握手する際、力比べをするように強く握る癖があります。しかしマクロン大統領は負けじと強く握り返しました。そんなマクロン大統領にトランプ大統領は「男気」と「男の魅力」を感じているのかもしれません。

ゴルフを通じてトランプ大統領と親しい関係を築いた安倍晋三首相がいつも握手で力負けしてねじ上げられるような格好で写真に写っているのと好対照です。

先の日米首脳会談でもトランプ大統領は安倍首相の手をねじ上げるように握手した(首相官邸HPより)
先の日米首脳会談でもトランプ大統領は安倍首相の手をねじ上げるように握手した(首相官邸HPより)

今月上旬、化学兵器を使用したシリアのアサド政権に対して空爆を加える際、躊躇するトランプ大統領を説得して米仏英によるシリアの化学兵器関連施設への空爆を主導したのはマクロン大統領でした。トランプ大統領にとってマクロン大統領は信頼できる欧州のカウンターパートなのです。

イギリスは欧州連合(EU)を離脱することで影響力を大きく落としてしまいました。テリーザ・メイ英首相は北アイルランドの地域政党に閣外協力を得て何とか政権を維持している状態で、閣内にEU強硬離脱派、足元の保守党内に穏健離脱派を抱えて、いつ倒れても不思議ではありません。

トランプとメルケルの相性は最悪

トランプ大統領とEUの要であるドイツのアンゲラ・メルケル首相との相性は最悪。昨年3月、ホワイトハウスで会談した時の記念撮影で2人は目も合わせませんでした。マクロン大統領に続いて訪米するメルケル首相に対して、トランプ大統領が今度はどんなボディー・ランゲージを見せるのか世界中が注目しています。

メルケル首相はトランプ大統領の当選直後「ドイツとアメリカは民主主義と自由、法治の尊重、人間の尊厳、民族・肌の色・宗教・性・性的指向・政治的見解の独立によってつながっている。次期大統領にはこうした価値観を目指すことを求めたい」と警告しました。

ドイツのジグマール・ガブリエル副首相(当時)も「トランプは新しい権威主義と極端な排外主義者の国際的ムーブメントのパイオニアだ」「トランプがホワイトハウスを去った後でさえ、ドイツの対米関係は二度と元には戻らない」と発言しました。

世論調査では何とドイツ人の79%はトランプ大統領をロシアのウラジーミル・プーチン大統領を超える脅威とみなしているのです。

マクロン大統領、安倍首相、メルケル首相とトランプ大統領の関係を一覧表にまとめてみました。

筆者作成
筆者作成

トランプ大統領はビジネスマンなので、やはり貿易赤字が大きい日本やドイツには甘い顔はできません。安倍首相はステルス戦闘機F35や無人偵察機グローバル・ホーク、垂直離着陸機V22オスプレイの調達を進め、アメリカの貿易赤字の解消と防衛力強化に努めています。

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それに対してドイツからはアメリカの貿易赤字を解消する明確なメッセージが伝わってきません。日本の外交筋は「日本が思いやり予算で在日米軍の経費を負担しているのに対して、ドイツは在独米軍への思いやり予算を認めていません」と指摘しています。

安全保障タダ乗り

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わが道を行くドイツは、イギリスやフランスが北大西洋条約機構(NATO)目標である国防費の対国内総生産(GDP)比2%を達成しているのに対し、2%をいつ実現するつもりなのかはっきりしません。シリア空爆でも完全に蚊帳の外のドイツはトランプ大統領の目には「安全保障のタダ乗り」そのものに映っているのです。

 

トランプ大統領のツイートは常軌を逸していても、トランプ政権の外交・安全保障政策は限定的な軍事行動をためらわず、オバマ政権時代よりも安定しています。トランプ大統領とマクロン大統領の「ブロマンス」は、欧州の信頼できるパートナーはフランスだとアメリカが見定めていることを物語っています。

ゴルフでトランプ大統領との人間関係を築く安倍首相だが(首相官邸HPより)
ゴルフでトランプ大統領との人間関係を築く安倍首相だが(首相官邸HPより)

安倍首相もゴルフと高額兵器の購入だけではトランプ大統領との「ブロマンス」は築けないでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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