1本10万円の日本酒も、未開拓の欧州市場で大ブレークの予感 カギはワインに対抗できる「価格破壊」か

ロンドンで開かれた日本酒のワークショップに参加したソムリエたち(筆者撮影)

うま味の相乗効果

[ロンドン発]「フォアグラやパルメザンチーズにも日本酒は合います」――。「ジャパニーズ・サケ(日本酒)」の楽しみ方を国際都市ロンドンで活躍するソムリエたちに伝える日本酒のワークショップが開かれたので、のぞいてきました。

「日本酒にはうま味があるのが特徴です」

今は英バークシャー州ブレイ・オン・テムズにある著名レストラン「ザ・ファット・ダック」でヘッド・ソムリエをしている講師役のイサ・バル氏は、会場になったホテルの一室を埋めたソムリエ約50人に軽妙に語りかけました。

講師役のイサ・バル氏(同)
講師役のイサ・バル氏(同)

うま味はお魚や干ししいたけ、乾燥昆布といった日本食に使われる食材だけでなく、お肉、パルメザンチーズ、トマト、ブロッコリーにも含まれています。一方、日本酒のうま味は複雑な発酵から生まれてきます。

違った種類のうま味を組み合わせると、うま味は相乗効果を起こします。しかし、欧州ではまだまだ「スシとサケ」という固定観念が強く、「ジャパニーズ・サケ」を置いているのは「ジャパニーズ・レストラン」というイメージです。

イギリス出身の杜氏(とうじ)、フィリップ・ハーパー氏が「日本酒は料理を選ばない」と表現しているように、日本酒は意外と日本料理以外にも合うのです。

日本酒をワイングラスで味わう

「日本酒には大吟醸、純米大吟醸、吟醸、純米吟醸、本醸造、純米などがあり、アルコールが添加されていない酒は『純米』、精米の歩合で大吟醸、吟醸、本醸造に分かれます」とバル氏は日本酒の基礎から説き起こします。

バル氏は世界で二百数十人しかいないマスター・ソムリエの資格を持っています。トルコ出身のバル氏は1999年にワインからソムリエの世界に入り、2008年には欧州最高のソムリエに選ばれたこともあります。09年にマスター・ソムリエの資格を取得し、日本酒に深い興味を持つようになりました。

「お客さんに出す時の温度も摂氏5度の『スノー』、10度の『スプリング』から55度の『ベリーホット』まで10段階もあるんですよ」「香りと味、口当たり、甘さの感じ方は人によって違います。一度自分で試してください」とバル氏は参加者にテイスティングを勧めました。

お猪口(ちょこ)や枡(ます)ではなく、ワイングラスに注がれた10種類の日本酒の味わいを、色も確かめながら一つひとつ確かめていきます。フランス料理やイタリア料理と一緒に日本酒を楽しもうと思ったら、やはりワイングラスです。

「琥珀色の日本酒は古酒です。色が他の日本酒とは違うでしょう」とバル氏はユーモアたっぷりに説明します。日本酒のアルコール度数は15%前後なので、テイスティングのたびに口を水でゆすいでいたソムリエたちの頬も次第に赤みを増してきます。

残響スーパー7宮城は1本10万円超

どんな料理にも合う日本酒(同)
どんな料理にも合う日本酒(同)

フォアグラ、アーティチョーク、パルメザンチーズ、トマトソースのミートボールをつまみにして日本酒を試してみると、結構いけるので驚きました。

イタリア出身のソムリエ、マルコ・カルノバーリエ氏はこう話します。

イタリア出身のソムリエ、マルコ・カルノバーリエ氏(同)
イタリア出身のソムリエ、マルコ・カルノバーリエ氏(同)

「日本酒のことをもっと学びたかった。料理とサケの新しいコンビネーションを見つけるのはとても楽しい。欧州市場でのチャレンジは日本酒をよく知らないことからくる懐疑主義を取り除くことです。安ワインを大量に飲む時代から少量の上質ワインを楽しむ時代になりました。日本酒にも非常に大きなチャンスがあります」

ブラジル・日本料理店スシサンバのソムリエ、アブデルイラーフ・アイト・エル・カイドさんも「店でも多くの種類の日本酒を出しているので、もっと日本酒の知識を増やしたい。日本酒市場は大陸でも伸びている。上質のサケなら少々の値段は問題にならない。残響スーパー7宮城は720ミリリットルのボトルで690ポンド(10万3,500円)もする。一度、お店に来てよ」と言います。

ブラジル・日本料理店ソムリエ、アブデルイラーフ・アイト・エル・カイドさん(同)
ブラジル・日本料理店ソムリエ、アブデルイラーフ・アイト・エル・カイドさん(同)

右肩上がりの清酒輸出

今回のワークショップはJETRO(日本貿易振興機構)ロンドン事務所が主催したものです。日本の国税庁によると、清酒(酒税法で定められた日本酒の定義。お米と米こうじ、水を使い、色が澄んでいる日本酒)の輸出量・金額は年々、右肩上がりに増えています。

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しかし消費地はアメリカ、香港、中国、韓国、台湾が中心で、欧州ではイギリスが目立つ程度。輸出金額では対イギリス(3億4,800万円)は対アメリカ(60億3,900万円)の5.8%に過ぎません。逆に未開拓の欧州市場は日本酒にとって大きなチャンスが残っているのです。

ワイン市場の首都ロンドン攻略法は

日本酒の普及に務める酒サムライ英国代表の吉武理恵さんにインタビューしました。吉武さんはこう話します。

酒サムライ英国代表の吉武理恵さん(同)
酒サムライ英国代表の吉武理恵さん(同)

「ロンドンで新しくオープンするレストラン10店の1店は日本食と言われるほどになってきました。日本食と日本酒というのはいまのところペアです。だけどこの10年ぐらいで日本食に対する興味が次第に膨らんできました」

「ローギアからセカンドギアに入ってきたところです。そのムーブメントが物凄い勢いで跳ね上がろうとしていることを鼓動として感じます。ワイン市場の『首都』は生産地のパリではなく、ロンドンです。ロンドンから世界へのネットワークが広がっています」

「ワイン愛好家も、食事と一緒に日本酒はワインと同じように飲めるということが分かってきました。今スパークリング酒と梅酒がこちらで一番飲まれていますが、スシのカルフォニアロールと同じで、飲みやすいスパークリング酒と梅酒から入っていって、日本酒が浸透していくステップになるとみています」

「ソムリエたちが日本酒を学ばざるを得なくなってきています。日本酒の販路を広げるためにはワインのネットワークに乗せることが課題です。日本酒はアルコール度数が高い、温めないと飲めないという間違ったイメージを持たれており、それをぬぐってやる必要があります」

「世界のソムリエの試験の中に日本酒が加えられるようになり、こちらのソムリエたちも日本酒のことを学ばざるを得なくなりました。フランスのソムリエたちが戦々恐々として、とにかく飲んで学ばなきゃという動きが出てきました」

「スーパーの棚の中に日本酒が入っていて、今日はワインじゃなくて日本酒にしようかというぐらいの感じで飲める時代はそれほど遠くないのかもしれません。一番の問題は日本酒の値段が高すぎることです。ワインは7ポンド(1,050円)ぐらいが平均です。10ポンド(1,500円)も出せば良いワインが買えます。日本酒は30ポンド(4,500円)、40ポンド(6,000円)でしょう。そこが一番きついです」

家庭でも気軽に飲めるように日本酒の値段を下げるには大手の酒造メーカーに頑張ってもらう必要があると吉武さんは指摘しています。

変なずるいサケが出回り始めた

「変なずるいお酒が作られて欧州のスーパーに出回り始めました。それが心配。折角、日本酒に興味を持ってくれた人がスーパーに行って、変な酒を買って嫌になっちゃう恐れがあります」

「本醸造(醸造アルコールの使用割合が10%以下)でなくても、これなら飲めるという普通酒(同10%以上)を作ってくれたら、すごいヒットになると思います。だんだん機が熟してきました」

ロンドンにあるハイエンド・レストランで日本酒は浸透し始めていますが、ローエンド市場は気をつけないと他の国が作った「サケ」に奪われてしまう恐れがあるようです。

講師役のバル氏は「日本酒がブレークする可能性はすぐそこにありますが、もっと日本酒のことを分かってもらう努力が必要です。日本酒は安いプロダクトではありません。イギリスはオープンマインドな市場でチャンスがあります」と消費者のマインドを変えていくのが成功のカギだと話しています。

(おわり)