半裸美女がベルルスコーニの投票妨害 第1党に大躍進した市民政党「五つ星運動」の秘密 イタリア総選挙

ミラノで投票するベルルスコーニ元伊首相(写真:ロイター/アフロ)

勝者なき三つ巴の戦い

[ローマ発]イタリア総選挙(上下両院)の投開票が4日行われ、政治腐敗を糾弾してきたコメディアンが8年半前に立ち上げた新興の市民政党「五つ星運動」が議会第1党になりました。しかし、どの会派も過半数に届かない「宙ぶらりんの議会(ハング・パーラメント)」という結果に終わり、政権樹立は難航しそうです。

国営放送RAIの出口調査による下院(定数630)の議席数予測は5日午前3時半(日本時間5日午前11時半)時点で、難民60万人の強制送還を唱えた極右政党「同盟(旧・北部同盟)」とこれまでに首相を4期務めたシルビオ・ベルルスコーニ元首相(81)率いる「頑張れ(フォルツァ)イタリア」を中心とした中道右派連合が225~265議席、「五つ星運動」195~235議席、民主党を中心とした中道左派連合115~155議席。

上院(定数315)の議席予測数は中道右派連合112~152議席、「五つ星運動」75~115議席、中道左派連合57~97議席。

投票率予想は74%で前回の75.2%を下回る見通しです。EUやユーロへの疑念を唱える懐疑主義政党「五つ星運動」と「同盟」の得票率合計はなんと下院で51.5%、上院で48.3%に達しました。

この日ミラノの投票所に現れたベルルスコーニ氏の投票をトップレスの女性が机の上に飛び上がって妨害するというハプニングが起きました。そのせいか、ベルルスコーニ氏の「頑張れイタリア」は票が伸びず上下両院とも「同盟」の後塵を拝してしまいました。

ベルルスコーニ氏は脱税で来年まで公職に就けないため、側近の首相候補アントニオ・タヤーニ欧州議会議長(64)を立てていましたが、「頑張れイタリア」を上回った「同盟」のマッテオ・サルヴィーニ書記長は自らを首相候補に推すでしょう。市場参加者、EU加盟国や本部のあるブリュッセルにとって悪夢の「五つ星運動」と「同盟」のEU懐疑派連立政権の可能性も完全には否定できない状況です。

2011年の欧州債務危機で「愚か者」という罵声と怒号が渦巻く中、首相の座を追われたベルルスコーニ氏にとっては不本意な結果に終わったと言えるでしょう。

腐敗と縁故主義がはびこるイタリア

戦後イタリアではキリスト教民主党と社会党の馴れ合い政治が続き、腐敗の温床となりました。国会議員400人を含む3,000人が摘発された1992年の「タンジェントポリ(汚職の街)」疑獄を受けて翌年、カルロ・アゼリョ・チャンピ・イタリア銀行(中央銀行)総裁による戦後初のテクノクラート政権が誕生します。

94年の総選挙でベルルスコーニ氏は新党「頑張れイタリア」を率いて右派勢力を結集、既存政党への不信が生んだ政治空白を埋める形で首相に就任します。「頑張れイタリア」は、自らが31年間も保有した人気サッカーチーム、ACミランにファンが送る声援から取ったものです。

人に嫌われるのを嫌い、派手な振る舞いと饒舌で有権者の歓心を買う元歌手ベルルスコーニ氏はピカピカの革靴をはいたやり手のセールスマンそのものです。

英誌エコノミストのビル・エモット元編集長が自主制作したドキュメンタリー映画『ガールフレンド・イン・ア・コーマ(昏睡状態に陥った恋人)』(2012年公開)は、ベルルスコーニ氏の牛耳るイタリアのテレビ局が女性を「性の商品」として扱い女性の社会進出が遅れている様子や、マフィア支配の実態を描き出しました。

今回の選挙戦でも支配下にあるメディアをフルに使って、法人・個人所得税を一律に23%にするフラット・タックスや相続税廃止で富裕層を優遇し、年金支給額を倍増するというポピュリズム政策を喧伝しました。

整形手術のし過ぎで不自然なベルルスコーニ氏の顔と同じように、「頑張れイタリア」は中身が空っぽのプラスチックのオモチャです。15%のフラット・タックスを唱える「同盟」と「頑張れイタリア」の中道右派連合を軸にした政権が誕生すれば、債務残高が対国内総生産(GDP)比で132%に達したイタリア政府の財政が発散するリスクが膨らみます。

お笑い芸人出身のブロガーがつくった市民政党

イタリア政治の台風の目、「五つ星運動」はお笑い芸人出身でブロガーのベッペ・グリッロ氏(69)が立ち上げました。3月2日、ローマのポポロ広場で「五つ星運動」の選挙集会が開かれたので参加しました。党首はかつてナポリのサッカークラブの係員としても働いたことがあるルイジ・ディマイオさん(31)です。

選挙集会で演説するディマイオ党首(筆者撮影)
選挙集会で演説するディマイオ党首(筆者撮影)

「私たちはもう少しで過半数というところまで近づいている。すべての南部の選挙区と多くの北部の選挙区で勝利する。野党の時代に終わりを告げ、政権につく時代が幕を開ける」。こう力強く宣言したディマイオ党首は、自分たちの世代に送る公開書簡を読み上げました。「私が感じる責任はすべての期待を裏切らないことだ。(開票後の)月曜日から私たちがこれまで言ってきたすべてのことを実行に移す」

ディマイオ党首は07年「五つ星運動」の前身である組織「グリッロの友だち」に参加した草創期メンバー。創設者のグリッロ氏に比べて現実的で、組織に重きを置いています。センセーションを巻き起こした13年の総選挙ではポポロ広場は埋め尽くされましたが、今回は残念ながら半分ぐらいしか埋まりませんでした。

「五つ星運動」の支持者。それでも広場は半分しか埋まらなかった(筆者撮影)
「五つ星運動」の支持者。それでも広場は半分しか埋まらなかった(筆者撮影)

イタリア南部カラブリア州から片道5時間かけてやって来た女性起業家エリザベス・サトゥリオ・サラビィアさん(31)は筆者にこう話しました。

「イタリアには変化が必要です。仕事や機会がもっともっと必要です。政治腐敗のため貧困はひどくなる一方。『頑張れイタリア』にも、民主党にも政治を変えることはできません。教育や医療より、銀行に資金が注入されています。私たちは銀行のためのシステムではなく、私たちのためのシステムを求めています。子供たち世代のため、『五つ星運動』を支持しているのです」

選挙集会の千両役者はやはりグリッロ氏でした。「下痢便のようになった政党を一掃させる」。全身を使って叫ぶように演説するグリッロ氏が壇上に姿を現すとポポロ広場は熱狂の渦に巻き込まれました。左派が非常に強いイタリア北西部の港町ジェノバ出身のグリッロ氏は会計士から芸人に転身した変わり種。

1970年代までテレビにレギュラー出演していましたが、交通死亡事故を起こしてテレビ業界から締め出されました。このあと当時の社会党首相をこき下ろす政治ギャグでふたたび人気を取り戻します。

ベッペ・グリッロ氏(筆者撮影)
ベッペ・グリッロ氏(筆者撮影)

イタリアでは政治、マフィア、メディア、財界に縁故主義のネットワークが蜘蛛の巣のように張り巡らされ、腐敗が蔓延っています。何のしがらみもないグリッロ氏は職業政治家が触れたがらない政治問題を激辛トークで痛快に切り捨て、喝采を浴びてきました。自らは交通死亡事故の前科があるため政界入りせず、「五つ星運動」と微妙な一線を引いています。

デジタル直接民主主義

「五つ星運動」は16年の統一地方選でイタリア4大都市のうち首都ローマとトリノの市長選を制しました。ローマ初の女性市長に選ばれたビルジニア・ラッジ氏(39)やディマイオ党首を見ても分かるように「五つ星運動」の政治家や候補者にはフォトジェニックな若者が目立ちます。ディマイオ党首が発表した組閣構想に入っているのはエコノミスト、犯罪学者、医者、オリンピック金メダリストらサラブレッドぞろいです。

ラッジ・ローマ市長(右)とグリッロ氏(筆者撮影)
ラッジ・ローマ市長(右)とグリッロ氏(筆者撮影)

「五つ星運動」はグリッロ氏のスタンドプレーで持っているように見えて、実は最先端のウェブ・マーケティングの手法を取り入れ、好感度の高い候補者を選び出しています。ウェブやソーシャルメディアを駆使してデジタル・コミュニティーを作り上げ、大きな現実イベントと上手く組み合わせていくのです。「五つ星運動」はすべての法案について党員による「デジタル投票」を実施できるシステムを構築しています。

「五つ星運動」が究極的に目指すのは、人の邪心を介さない「デジタル直接民主主義」なのです。

「同盟」とベルルスコーニ氏の中道右派連合を中心とした政権ができてもイタリアの問題が解決するとはとても想像できません。労働市場改革を進めて支持者にソッポを向かれてしまった民主党の人気が次の総選挙までに戻るとも思えません。有権者の期待を背負って議会第1党になった「五つ星運動」と現実的な民主党の組み合わせが今のイタリアに最も適した処方箋のように筆者には思えるのですが…。

(おわり)