極右と極左、エリートとノンエリートが激突するフランス大統領選 イチから分かる入門編(上)

この男メランションがフランス大統領選の台風の目だ(トゥールーズ、筆者撮影)

欧州連合(EU)や単一市場ユーロからの離脱を主張する右翼ナショナリスト政党・国民戦線の党首マリーヌ・ルペン(48)が激しい首位争いを繰り広げるフランス大統領選の第1回投票が4月23日に行われます。

有権者はフランス国籍を有する18歳以上。前回2012年の第1回投票では約4603万人が登録し、実際に投票したのは約3658万人(投票率は79.48%)。第1回投票で選出されるには、有効投票総数の50%プラス1票を得る必要があります。今回は4人が激しい選挙戦を展開しており、上位2人の候補者による決選投票が5月7日に行われる見通しです。

大統領選には11人が立候補していますが、決選投票に進む可能性があるのは次の4人です。

中道政治運動「前進!」率いる前経済産業デジタル相エマニュエル・マクロン(39)

国民戦線党首マリーヌ・ルペン

共和党候補の元首相フランソワ・フィヨン(63)

急進左派・左翼党共同党首ジャン=リュック・メランション(65)

筆者はフィヨンを除く3人の選挙集会を取材しました。右派と左派、エリートとノンエリートという軸で4人の立ち位置を見える化(マトリックスに)すると、フランスの政治状況が非常に良く分かります。

筆者作成
筆者作成

近年のフランス政治は右派(共和党)と左派(社会党)を軸に2つに分かれてきましたが、国立行政学院(ENA)をはじめグランゼコールを卒業したエリートが歴代大統領や首相を輩出し、政界を支配してきました。

しかし世界金融危機とそれに続く欧州債務危機でエリート政治家は有権者の信頼を失い、ノンエリートの支持を受けてルペンやメランションが台頭してきたのが特徴です。最近の世論調査を見ておきましょう。

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一時は40%を超えることもあった「棄権」が第1回投票が近づくにつれ、次第に30%を切るようになってきました。4月18~19日に実施されたHarrisの世論調査ではマクロン25%、ルペン22%、フィヨンとメランションが各19%です。

ちょうど20日にカレッジ・ロンドン教授アナンダ・メロンが主宰する勉強会「変わる欧州の中でのイギリス」でフランス大統領選の記者ブリーフィングが行われました。

筆者撮影
筆者撮影

その中で決選投票に進む2人をパネラーの4人が予想してくれました。

ルペンとマクロン」アナンダ・メロン(上の写真左から)

ルペンとマクロン」ロンドン大クィーン・メアリー博士レインボー・マリー

ルペンとフィヨン」選挙の世論調査に詳しいケント大教授マシュー・グッドウィン

フィヨンとルペン」ラフバラー大教授ヘレン・ドレイク

予想は2つに分かれてしまいました。筆者は「ルペンとメランション」もあるかもしれないとビクビクしています。

現職大統領(フランソワ・オランド)が再選を諦めるのは1950年代に第五共和制に移行してから初めてなら、社会党の前首相マニュエル・ヴァルス、共和党の前大統領ニコラ・サルコジ、元首相アラン・ジュペといった大物政治家が次々と姿を消すのも異例。大統領選の最終盤になって、これほど混戦が続くのも前代未聞の事態です。

「今回だけは違う。誰が大統領になるのか全く予想がつかない」とフランスを代表する国際政治学者ドミニク・モイジも頭を抱えています。激しい争いを展開する候補者4人の横顔と政策を紹介しておきましょう。

エマニュエル・マクロン(39)中道政治運動「前進!」、前経済産業デジタル相

筆者撮影
筆者撮影

マクロンは3人の子供を持つ24歳年上の高校時代の国語教師と結婚したことで有名です。いったん官僚になりますが、4年で辞め、ロスチャイルド投資銀行のバンカー時代に世界最大の食品会社ネスレによる米製薬会社ファイザーのベビー食品部門の買収を手掛け、巨額の富を手にしたと報じられています。

オランドの側近を務めた後、経済産業デジタル相時代に「経済の成長と活性のための法律案(マクロン法)」を提出。長距離バス路線開設の自由化、商業施設の日曜・深夜営業の拡張など身近な規制緩和策を盛り込みました。昨年4月に「前進!」を立ち上げ、経済産業デジタル相を辞任、11月に大統領選への出馬を表明します。自分にはフランスを救うジャンヌ・ダルクかナポレオン1世の使命が与えられていると信じています。

【政権公約】

EU統合推進派で、ユーロ圏経済政府、ユーロ圏財務相の創設を主張。財政赤字を3%以内に抑える。法定週35時間労働を維持するが、民間企業に交渉の余地を残して柔軟化する。法人税率を33%から25%に切り下げ。低賃金労働者の社会保障費負担を免除。年金や失業保険システムの統合を進める。5年間で600億ユーロの歳出を削減し、能力向上・職業訓練、再生利用可能エネルギーの促進、農業改革などに500億ユーロの公共投資を行う。現在10%の失業率を7%に下げる。年金支給年齢を62歳に据え置く。

マリーヌ・ルペン(48)国民戦線党首

筆者撮影
筆者撮影

国民戦線を結成した父ジャン=マリー・ルペンはナチスのユダヤ人虐殺を「第ニ次大戦の些末事」と言い放つなど反ユダヤ主義と人種差別発言で悪名を馳せました。しかし、父は2002年の大統領選で決選投票に進み、フランス社会を震撼させます。3人娘の末っ子に生まれたマリーヌは父の跡を継いで党首に就任。反ユダヤ・人種差別主義という暗いイメージからの脱却を図る「脱悪魔化」を進め、父を党から追放してしまいます。

【政権公約】

EU離脱の是非を問う国民投票の実施と単一通貨ユーロ圏からの離脱。自国通貨の復活。旅券なしで域内を自由移動できるシェンゲン協定からの離脱。自由貿易協定(FTA)拒絶。中銀による財政ファイナンス。外国人雇用企業への課税。イスラム原理主義活動の禁止。過激モスク(イスラム教の礼拝所)閉鎖。合法移民の抑制。

ジャン=リュック・メランション(65)左翼党共同党首

筆者撮影
筆者撮影

30年間に渡って社会党のメンバーだったメランションは08年に離党して左翼党を結成。ベネズエラの大統領ウゴ・チャベスやキューバの最高指導者フィデル・カストロ(いずれも故人)を崇拝し、反米左派的な中南米諸国11カ国の「米州ボリバル同盟」との連携を主張しています。ロシアに対して融和的な態度を示し、欧州とロシアの「境界」を話し合う国際会議の開催をほのめかしています。

【政権公約】

現行憲法を改正して大統領権限を制限。5年間で公共支出を2750億ユーロ増やす。350万人の雇用を創出し、失業率を10%から6%に減らす。年収が40万ユーロを超える人の所得税率を90%に引き上げる。法定週35時間労働を徹底。最低賃金を週35時間労働で1326ユーロ(16%増)に。北大西洋条約機構(NATO)や国際通貨基金(IMF)から離脱。欧州中央銀行(ECB)からフランス中央銀行の権限を取り戻す。財政規律を定めた安定・成長協定を無視。

フランソワ・フィヨン(63)共和党、元首相

政治家歴35年。モータースポーツのレースに自分で参加するカーキチ。サルコジ大統領の下で5年間、首相を務めた保守派の大ベテラン。共和党の大統領選候補者選びではジュペ、サルコジに続く「第三の男」だったが、勝ち上がりました。イギリス人妻や子供の秘書給与不正疑惑が発覚するまで今回の大統領選の本命中の本命でした。フランスでは珍しく、「小さな政府」のイギリス首相マーガレット・サッチャーを信奉する市場経済主義者。

【政権公約】

ユーロ圏事務総長を新設し、EUの行政執行機関・欧州委員会から切り離す。5年で1000億ユーロの歳出削減、50万人の公務員削減。法人税を25%に引き下げ。5年で400億ユーロの企業向け減税。失業手当の削減。公的セクターから週35時間労働を39時間に(EUの上限は週48時間)。国内総生産(GDP)に占める公的支出の比率を57%から50%に引き下げ。対GDP比3.7%の財政赤字を22年までにゼロに。年金支給年齢を62歳から65歳に引き上げ。親ロシア外交を主張。

次回はフランスが抱える問題を検証してみます。

(つづく)