ヒロシマで「核なき世界」誓うオバマ 「使える核兵器」に1兆ドル

伊勢神宮を参拝するオバマ米大統領と安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

唯一の核兵器使用国としての「道義的責任」

主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席しているオバマ米大統領は27日、安倍晋三首相とともに、先の大戦で原子爆弾が投下された広島を訪問します。米国の現職大統領が広島を訪れるのは初めてです。謝罪するのではなく、「核兵器なき世界」への誓いを新たにすることで唯一の核兵器使用国としての「道義的責任」を果たす考えです。

英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所長マーク・フィッツパトリック氏は核問題の専門家です。10代のとき広島を訪れ、原爆の破壊力を示す写真や展示物を見て言葉を失ったそうです。IISSのブログに「1974年、フォードが米大統領として初めて来日した際、広島を訪れなかったことを私は残念に思った」と記しています。

「私たちは(広島、長崎への原爆投下を承認した)当時のトルーマン大統領になり代わることができない以上、後知恵で彼が間違っていたと判断することはできない。私たちが知っているのは、1945年8月の運命を決した日から戦争で核兵器が使われたことがないという事実だ。核兵器の使用は事実上のタブーとなった。広島でのオバマの言葉は道義的な抑制を強めるだろう。それこそが、オバマの広島訪問が正しい理由だ」

フィッツパトリック氏は自分の体験から「広島を訪れることは核戦争の怖ろしさを理解することだ」と言います。

「和平交渉より核兵器使用」40%

米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、2つの原爆が日本に投下され、終戦を迎えた翌9月、米国内で53%が「2つとも使用すべきだった」と答え、14%が「人口が少ない地域に1つだけ原爆を投下して威力を見せつけるだけで十分だった」と回答しています。「使用すべきではなかった」と答えたのはわずか4%でした。

ソ連の対日参戦で原爆を投下しなくても日本の降伏は時間の問題でした。米大統領のアイゼンハワーは後に「原爆投下はまったく必要なかった」と回顧しています。戦後70年の昨年7月の世論調査でも28%が原爆投下に同意し、32%が威力を見せつけるだけで十分だったと回答。原爆を使用すべきではなかったと答えたのは15%に増えました。

しかしイランがペルシャ湾で米空母を攻撃、2403人が死亡したシナリオを想定。イランに無条件降伏をのませるため米軍はテヘランに侵攻して米兵2万人の犠牲者を出すか、核兵器を投下してイランの民間人を10万人殺害するか――という質問をすると、59%が核兵器使用を支持。共和党支持者の中での支持は81%以上に達しました。

イラン市民の犠牲者数を200万人に増やしても核兵器使用の支持率は59%で変わりませんでした。交渉による和平より核兵器の使用を好む人が40%にものぼりました。

核兵器を小型化・ステルス化・精密化

出所:SIPRIデータをもとに筆者作成
出所:SIPRIデータをもとに筆者作成

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は「すべての核保有国は核兵器システムを発展させ、すでにある核兵器の改良に取り組んでいる」と指摘しています。オバマ政権も今後30年間にわたって1兆ドル(約110兆円)を使い、米国の核兵器を近代化する計画です。

米国の国家核安全保障局(NNSA)と空軍は昨年、米ネバダ州の砂漠で核重力爆弾B61-12の核抜き投下テストを行いました。ベルギー、オランダ、ドイツ、イタリア、トルコの5カ国にある6つの米軍基地に200発が配備されている戦術核B61の4タイプについては2012年2月からアップグレードする計画が進められています。B61は欧州配備分を含め全部で520発。予算は80億ドル。24年には配備される予定です。

老朽化している旧式のB61は尾翼が溶接され、ネジで固定されていますが、改良型B61-12は4つの尾翼が可動式で慣性航法装置により攻撃目標に正確に誘導される仕組みになっています。真空管や古い部品はコンピューターのプリント基盤に置き換えられ、3Dプリンターにデータを入力し部品をすべて作り直しました。

B61-12の核出力は広島に投下された原爆のわずか2%で、付随的被害や放射性下降物の影響を最小限に止めるよう設計されています。北朝鮮の核実験トンネルや武器庫、製造工場を狙いすまして破壊することができ、ウクライナのクリミア併合を強行したロシアのプーチン大統領の拡張主義に対する抑止力にもなります。

「使える核兵器」の誘惑

10年にオバマは「核兵器に新しい軍事的な能力を加えない」と表明していますが、すでに保有している核兵器のアップグレードを順次進めていく計画です。「近代化から削減していく努力を推進していくことが核兵器の保有量を減らす一番の近道」「新たな核兵器の製造には当たらない」というのがオバマ政権の見解です。

核出力を小さくする一方、命中精度やステルス性、運搬システムの能力を高めることで、水爆のB83など核兵器全体の保有量を減らす方針です。核弾頭を搭載した巡航ミサイルの配備も検討中です。しかし「核兵器の小型化・精密化で、報復攻撃よりも先制使用の誘惑に駆られる」「核軍縮の機会を失うばかりか、新たな軍拡競争を引き起こす恐れがある」という批判がオバマ政権の元核安全保障担当者から相次いでいます。

ロシアはB61-12の投下テストを「無責任極まりない」「あからさまな挑発だ」と批判し、北朝鮮は核・ミサイル開発を正当化する口実にしています。中国は核弾頭を搭載した巡航ミサイルへの懸念を強めており、核巡航ミサイルを禁止できなくなるという声が米国内からも上がっています。

オバマが09年4月にプラハで行った演説をもう一度、振り返っておきましょう。

「核保有国として唯一、核兵器を使用した国として、米国は行動を起こす道義的な責任を有しています。米国独りではこの努力は成功しませんが、私たちはそれを率いることができます。始めることができます」「私は核兵器なき平和で安全な世界を目指す米国のコミットメントを明確に確信を持って宣言します」

オバマの広島訪問がレガシー(政治的遺産)作りの政治ショーに終わらないことを祈らずにはいられません。

(おわり)

参考:オバマの広島訪問と「核なき世界」の虚と実