後藤さん殺害後「身代金交渉に応じない」の意見激増
民放局TBSテレビの報道・情報番組「Nスタ」が2日、ヨルダン下院外交委員長バッサム・マナシール氏の証言として、「日本政府はイラクのスンニ派指導者たちや政治エリートら第三者を介して交渉し、解放に向けて身代金を払う用意もあった」ことを伝えた。
マナシール氏は交渉に直接に携わっていたわけではないが、交渉に近い人脈を持っていて、「身代金の話は公然の秘密だ」と述べた。
菅義偉官房長官は2日午後の記者会見で、この報道について質問され、「まったくありません。100%ありません」と全面否定。イスラム過激派「イスラム国」との身代金交渉に応じることは「まったくありません」と強調した。
主要8カ国(G8)首脳会議は2013年の英ロックアーン・サミットで次のように表明している。
「我々は、我々の国民を守るとともにテロリスト・グループがその繁栄を可能とする資金を得る機会を減少させることにコミットしている。我々は、テロリストに対する身代金の支払を全面的に拒否し、世界中の国及び企業に対し、我々の後に続き、テロリストにとり格好の他の収入源と同様に身代金を根絶させるよう求める。我々は、ベストプラクティスを事前に共有するとともに、人質事件発生時には必要に応じて専門知識を提供することにより、事件の解決に向けて互いに協力し合う」
建前ではテロリストの身代金要求には応じないと宣言していても、舞台裏では米国を除いて、ほとんどの国が政府レベルか、個人レベルかは別にして身代金の交渉に応じているとみられている。
菅官房長官の答えは身代金をめぐる交渉があったかどうかにかかわらず、「ノー」しかあり得ない。
国連安全保障理事会テロ対策委員会に対する専門家の報告では、イスラム国はこの1年間に3500万~4500万ドルの身代金を獲得。2004~12年に1億2千万ドルの身代金がテロ組織の手に渡ったと推定されている。
また、英政府のテロ対策年次レポート(2013年)によると、イスラム過激派による誘拐は08年以降、150人以上にのぼる。12年には50人が誘拐され、10年から倍増した。多くのケースで身代金が支払われ、総額は少なくとも6千万ドルに達している。
筆者が人質救出のための身代金支払いの是非、自衛隊が海外邦人を救出できるよう法整備すべきかについて簡易の緊急アンケートを継続したところ、2221人が回答して下さった。
「愛する人を救うために家族が身代金支払いに応じるのは許される」と回答したのは920件で41%(前回は304件、60%)。「新たなテロの資金源になるので応じてはいけない」という回答は1301件で59%(同199件、40%)。
「領域国の同意があれば、自衛隊の特殊部隊がテロ組織に拉致された邦人を救出できるように法整備する」という質問には賛成1504件、68%(前回は285件、57%)、反対717件、32%(同218件、43%)だった。
後藤さんが殺害されたあと、「新たなテロの資金源になるので応じてはいけない」という回答が「愛する人を救うために家族が身代金支払いに応じるのは許される」を完全に逆転。
「領域国の同意があれば、自衛隊の特殊部隊がテロ組織に拉致された邦人を救出できるように法整備する」という答えも急増した。
前回はYahooニュース個人と自分のブログでアンケートを実施(回答者503人)、BLOGOSにはアンケートが転載されなかったが、継続分はBLOGOSにもアンケートが掲載された。
人質になった本人やその家族が新たな人質事件に巻き込まれた家族をサポートするため設立した慈善団体「ホステージ・UK(人質・英国)」の人質家族向けのガイドには次のように書かれている。
問い 身代金を支払うべきですか?
回答ホステージ・UKでは身代金の支払いについてアドバイスはしていないが、人質家族にとって非常に難しい決断であることを知っている。
英国のように多くの政府が誘拐犯に対して本質的には譲歩しない政策をとっている。
もしあなたが身代金を支払うと決断すれば、安全上のリスクや身代金受け渡しの難しさに直面する。一度目の身代金を支払った後、さらなる身代金を要求される「二重払い」の犠牲者になる危険性が潜んでいる。
いくつかの国では身代金の支払いに応じることは違法であり、身代金を支払うことによって法を犯すことになるかもしれない。もし誘拐犯がテロリストと考えられるならテロへの資金提供を禁ずる法律に関連して捜査されるかもしれない。
(おわり)