「財政の持続」と「成長」追う新年度予算 実質賃金の上昇が勝負の分かれ目
政府は14日の閣議で、一般会計の総額が96兆3420億円となる平成27年度の予算案を決定した。26年度の当初予算を4596億円上回り、過去最大となった。
内訳は、「社会保障」が初めて31兆円台に乗り、一般会計歳出の32.7%。「地方交付税交付金」が16.1%、「教育」5.6%、「防衛」5.2%。高齢化が進み、医療・年金・介護の支出が増えていることがわかる。
国債の新規発行額は26年度より4兆3870億円抑え、当初予算としては6年ぶりの30兆円台に。消費税再増税の先送りで日本国債が格下げされたため、財政規律を守る姿勢を強調した格好だ。
確かに安倍晋三首相の経済政策アベノミクスで税収は増えたため、財政状況は改善している。
しかし、政府債務はどんどん積み上がり、利払い費がかさむ状況は変わらない。
財政を維持するのに、長期金利を押しつぶす日銀の異次元緩和(質的・量的緩和)はもはや不可欠のツールになっている。
インフレ率が長期金利を上回っていれば政府債務の対国内総生産(GDP)比は次第に下がっていく。いつまで「インフレ率>長期金利」の状態を維持できるかは経常収支次第といえる。
お金を貯める人より使う人が多くなれば経常収支は赤字に転落、金利上昇とインフレが進む。そのとき日銀が上手く異次元緩和を終了し、通常の金利政策に戻れるかどうかがポイントになる。
財政発散を恐れて量的緩和を維持すれば、戦後の「英国病」のように国民が急激な通貨安とハイインフレに苦しむ。財政を持続させるためには、痛みを分散させながら医療・年金・介護の歳出を抑制していく知恵と工夫が必要だ。
IT(情報通信技術)をフル活用して医療サービスの最大効率化を図り、地域医療の向上で高齢者の健康を維持していく取り組みが急務だ。ドイツのメルケル首相が主導する欧州連合(EU)型の緊縮策とは違う道を日本には進んでほしい。借金は「罪」ではなく、コントロールするものだ。
甘利明経済再生相は12日、27年度中に実質賃金はプラスになり、景気好循環の推進力になるとの見通しを示した。しかし、今のところ実質賃金は17カ月連続で前年を下回り、11月もマイナス4.3%(速報値)の大幅減。
財政の持続性を保ちながら、実質賃金をプラスに転じることができるかどうか。民主党政権とは違って安倍政権を支える態勢は強力だ。「英国病」を避けながら国民の幸福を実現するには「奥の細道」を行くような慎重なカジ取りが求められている。
(おわり)