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「偏差値よ、さようなら」下村文科相の大学改革 大学は教育研究評価で選びましょう

木村正人在英国際ジャーナリスト

猛スピードで進む下村文科相の大学改革

大学や大学院は教育機関か、それとも研究機関? 日本の場合、就職までのモラトリアム機関、就職のためのジャンプ台とみなされることが多かったが、今や大変革の波が訪れている。

下村博文文科相が大胆に大学改革に取り組んでいる。とにかくすごいスピードだ。

日経新聞によると、文部科学省は2016年度から、全国の86国立大学を「世界最高水準の教育研究」「特定の分野で世界的な教育研究」「地域活性化の中核」の3グループに分類、グループ内で高い評価を得た大学に運営費交付金を手厚く配分するという。

大学の国際化を進める「スーパーグローバル大学」計画から抜け落ちていた部分を補うものだ。これまでは規模に応じてほぼ機械的に割り当てられていた運営費交付金(14年度予算で1兆1123億円)の配分方法を見直し、3グループごとに競争原理を導入して傾斜配分を行う。

日本の大学も、教育研究・組織運営・施設設備の総合的な状況について7年以内ごとに、文科相が認証する評価機関の実施する評価を受けることが義務付けられている。

国立大学や大学共同利用機関法人の教育研究の状況を評価する国立大学教育研究評価も行われている。

しかし、残念ながら日本では大学偏差値ランキングほど知られていない。ブランド志向が強い日本はとにかく偏差値が高い大学が注目を集める。

大学評価制度の日英比較

経済団体・経済同友会は昨年4月、日本の大学評価制度を厳しく批判する提言を公表している。問題点は主に4つだ。

(1)認証評価、国立大学法人評価、民間の大学ランキングはいずれも教育成果を評価できず、わかりにくい。

(2)評価結果が学生、保護者、企業、高校、教職員、提携校、行政、地域社会といったステークホルダーに認識されず、情報公開も不十分。

(3)大学が義務感と強制感に支配され、評価結果の活用が不十分。

(4)評価の準備に膨大な時間と手間がかかり、教育・研究に悪影響が出ている。

英国では、154大学について研究活動向け運営費交付金(毎年総額20億ポンド=約3670億円)を傾斜配分するための大学研究評価(REF2014)の結果が18日(ロンドン時間)公表された。

サッチャー政権下の緊縮財政で運営費交付金が大幅に削減されたことをきっかけに1986年から大学研究評価は実施され、今回が7回目。イングランド高等教育資金配分機構など4団体が実施した。

「世界トップレベル」は全体の30%(前回RAE2008では17%)

「国際的レベル」は46%(同37%)

「国際的に認知されているレベル」は20%(同33%)

「国内で認知されているレベル」は3%(同11%)

6年前に比べ大幅に向上している。研究を36分野に分けて評価しているので、日本流に言えば、何々大学というのではなく、どの大学の何学部の研究評価がわかりやすく一覧できるように公表されている。

評価基準の「研究成果(評価配分65%)」「研究インパクト(同20%)」「研究環境(同15%)」のうち、「研究成果」だけに注目しても「世界トップレベル」は14%から22%に上昇。「国際的レベル」も37%から50%に上がっている。

154大学から出された1911の申請を36の専門家パネルが評価し、4つのメインパネルが監督するシステムだ。研究者や研究成果の利用者ら1157人が評価に参加しており、英国人以外を約2割含んでいるという。

大学は研究機関という英国の歴史

発表を聞きに言って驚いたのは、08/09年から12/13年にかけ、これまで申請された大学の研究により241億ポンド(約4兆4270億円)もの収入があったことだ。

収入の内訳は英国研究会議協議会からが38%、英国政府19%、英国の慈善団体19%、英国の産業界6%、英国の政府機関9%。

日本の国立大学法人の収益は13年度、運営費交付金の割合が34%を占め、受託研究など競争的資金は14.3%、付属病院収益が33%、学生納付金が11.5%。

文部科学省のHPより抜粋
文部科学省のHPより抜粋

これに対して、12年度、英国の高等教育機関の収益は学生納付金・教育関連契約が40%、運営費交付金が24.1%、研究関連収益が16.4%となっている。

英高等教育統計庁のHPより
英高等教育統計庁のHPより

英国の大学事情に詳しい立命館大学英国事務所の坂本純子さんは筆者の電話取材にこんな見方を示す。

「英国の大学はもともと研究機関としてスタートしています。最近でこそ教育にも力を入れていますが、やはり大学は研究で評価されるべきだという考え方が定着しています」

「教育機関として見た場合、英国が日本に学ぶべき点も多いと思いますが、戦後、マス教育化が進んだ日本は、研究と教育のバランスをどう取るか、これからしばらくは大学にとっての正念場が続くのではないでしょうか」

もっと情報公開を

本格的な少子化が進む日本で大学教育の見直しは避けては通れない。大学研究評価に対する英国メディアの関心も非常に高く、REF2014の記者会見には教育専門誌のほか、高級紙の記者もたくさん来ていた。

素人目から見ても、公表されたREF2014も非常にわかりやすく、整理されている。日本も、教育機関と研究機関としての評価をどう区分けするのかに始まり、評価の基準、方法もステークホルダーにわかりやすく説明する努力を怠ってはならないと思う。

先の「スーパーグローバル大学創成支援」の採択でも大学名と構想調書などを公表するだけでは情報不足だと筆者は思う。そもそも11人の委員で十分かつ公正な評価ができたのだろうか正直、疑問に感じる。

評価基準の各項目で申請した大学がどれぐらいのスコアを出したのか、すべて公表してほしい。「トップ型」13校、「グロ-バル化牽引型」24校だけでなく、申請大学すべての評価を見てみたい。

そうした評価の積み重ねが日本の偏差値至上主義を打ち壊す。「世界最高水準の教育研究」「特定の分野で世界的な教育研究」「地域活性化の中核」の3グループごとの大学評価も公開してほしい。

REF2014の審査に関わったのは実に1157人。やはり英国のジャッジメントには脱帽だ。審査する方も、される方も、「命懸け」である。

大学進学も就職も偏差値ランキングではなく、大学の教育研究評価で選ばれるように意識を変えていかないと日本の大学改革は進まない。日本メディアも偏差値至上主義から卒業して、大学の教育研究評価にもしっかり目を向けるべきだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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