Yahoo!ニュース

モノづくりのガラパゴス化、移民嫌いを克服できるか

木村正人在英国際ジャーナリスト

ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)で12日、「ビジネス日本語スピーチコンテスト」が行われた。ファイナリスト8人のユニークな視点とユーモアを交えた巧みなスピーチ力にお世辞抜きでビックリした。

見事、優勝したのはルーマニア出身の男性で三菱電機ヨーロッパにお勤めのMihai Scumpieruさん。日本語は日本人以上。その流暢さ以上に舌をまいたのは「グローバル化と日本企業が直面する課題」というスピーチの内容だった。

Scumpieruさんは、日本企業が現在、直面している問題点として、まず、「日本市場で売れれば海外でも必ず売れるという思い込みが日本企業にはある」と指摘する。

日本の活路はモノづくりだという信念が「モノづくりのガラパゴス化」という事態を招いている。日本企業が現地マーケットのニーズを考えず、突っ走って失敗するケースも多いという。

まったく同感だった。

安倍晋三首相の経済政策アベノミクスが始まる前、ロンドンで財務省、経産省、日銀の方々と意見を交換した。財務省や経産省の関係者は「金融緩和で円高が是正されれば、日本経済は必ず息を吹き返す」の一点張り。

筆者が「円安になったって先進国マーケットで売れる日本製品は限られている。『安くて良い』日本製品のイメージが少なくとも英国では『高くてダサイ』になっている。円安で『高くて』は解消されても『ダサイ』は解消されない」「まだ国際競争力がある自動車は現地生産に切り換えている。どれだけの円安効果が期待できるのか」と疑問を唱えると、怒り出す人もいた。

日本では技術力=製品力と考える人が多いようだ。世界的なヒット商品iPhoneの中身の5割以上が日本製の電子部品を使っていることをみてもわかるように、技術力=製品力でない。

アベノミクスで資産インフレが起きると住宅価格は上昇し、「貯金」と同じ効果が出るので家計の可処分所得は増える。それが気分を変えて景気を押し上げる効果は大いに期待できるという筆者に、日銀の関係者だけが「守ってばかりいるよりも攻めることも必要だ。多様化しているマーケットのニーズを日本企業が的確に読み解くことがカギになる」と冷静に言った。

おそらく財務省や経産省の関係者は本省から言われていることをオウム返しに宣伝しているだけで、実際にマーケットに足を運んでリサーチしているのではないと思った。世間から「デフレ長期化の張本人」と激しく指弾されていた日銀の関係者だけがきちんとマーケットを見ていたことになる。

Scumpieruさんは続いて「グローバル人材の育成」と「顧客志向のモノづくり」を課題にあげた。Scumpieruさんこそグローバル人材の生きたお手本だと思った。

2007年ブルガリアとともに欧州連合(EU)加盟を果たしたルーマニアの労働者は昨年まで英国などで働く場合、労働許可証が必要だった。今年1月、ようやく最長7年の経過期間が終わり、就労規制が取り払われた。

5月の欧州議会選に向け、欧州のEU懐疑派政党や極右政党が反移民キャンペーンを繰り広げている。出稼ぎ労働者がEU加盟国に大量に流出するとみられているルーマニアとブルガリアへの風当たりはきつくなっている。

「ドラキュラが英国人の娘ミナとルーシーの生き血を吸ったように、ルーマニア移民が英国に押し寄せて仕事や社会保障を食い尽くす」。英国のサイト上では昨年、ルーマニアとブルガリアに向けられたいわれなき誹謗や中傷が飛び交った。

一方、日本では今でも移民への拒絶反応が強い。英国では、移民の経済や財政への貢献度は一般の英国人に比べてかなり高いことがわかっている。移民は受け入れ国(移民輸入国)にとって「負債」ではなく「資産」なのだ。

受け入れ国側のメリットは、まず義務教育の費用がかからない。留学生は高い学費を落としてくれる。さらに優秀な労働者は経済の活力を高め、税金まで納めてくれる。

優秀でやる気のある若い人材を奪われる「移民輸出国」には頭の痛い問題だ。Scumpieruさんを採用できた三菱電機ヨーロッパは「勝ち組」、失ったルーマニアは今のところ「負け組」に色分けできる。

Scumpieruさんは「日本企業は1980年代の国際化を今も進めていると思います。私がイメージするグローバル化とはまったく別のものです。本社は日本、海外は出先という考え方をまず改めないといけません」という。

国際マーケットのニーズは日本ではわからない。「地産地消(地元で生産されたものを地元で消費する)のグローバル化」こそ、日本企業が生き残る秘訣というのがScumpieruさんの結論だった。

個人的にはアベノミクスであわてて円高を是正する前に、最後の円高を利用して日本企業は世界的に思い切った企業買収を進めるべきだったと、今でも思っている。結局、円安は国際競争力を失ったゾンビ企業を一時的に延命させる効果しか持たないかもしれない。

Scumpieruさんが指摘したように、日本技術の国際競争力が残っているうちに製品開発拠点をグローバル化できるのか。日本特有の純血主義は克服できるのだろうか。日本企業の真価がまさに問われている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事