「サウジアラビアがパキスタンで核兵器を備蓄」BBC報道

これはオバマ米大統領に対するサウジアラビアの警告なのか、それとも「中東核武装ドミノ」の序章なのか。

7、8両日にジュネーブで再開されるイラン核開発をめぐる6カ国協議を前に、英BBC放送の深夜報道番組ニューズナイトが6日、北大西洋条約機構(NATO)高官の話として、サウジアラビアのためにパキスタンで製造された核兵器がいつでも引き渡せる状態にあると報じた。

パキスタン側は「根拠がない」と全面否定。サウジ側は「わが国は核拡散防止条約(NPT)に署名しており、中東の非核化に向け尽力している」と述べる一方で、核武装するイスラエル、核開発を進めるイランを念頭に「国連は中東の非核化に失敗した。だからサウジは国連安全保障理事会の非常任理事国入りを拒否した」と非難した。

しかし、パキスタンで製造された核兵器がいつでもサウジに引き渡せるという報道内容については否定しなかった。サウジがこれまでパキスタンの核兵器開発を金銭的に支援してきたことはよく知られている。

イスラエルの前軍情報機関トップは先月、スウェーデンで開かれた国際会議で「サウジはすでにパキスタンにお金を支払っている。イランが核兵器を保有すれば、サウジは1カ月も待たない。すぐにパキスタンに行って、核兵器を引き渡すよう要求する」と指摘した。

親米国だったサウジの情報機関トップ、バンダル王子は先月、米国との関係を見直すと欧州の外交官に伝えたと報じられた。シリアへの軍事介入を見送り、同国のアサド政権の背後にいるイランの核開発をめぐっても柔軟な対応を示し始めたオバマ大統領にサウジは不信感を強めている。

サウジにとっては、オバマ大統領が米国の盟友だったエジプトのムバラク大統領をあっさり見限ったことが信じられなかったといわれている。イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が中東で勢力を拡大し、王制打倒に動くことを警戒するサウジは米国に代わってエジプト軍部を支援している。

米国とサウジの間が冷え込む中、米国務省高官は6日、「イランによるウラン濃縮活動の拡大を防ぐための初期的な措置で合意できれば、限定的に経済制裁の緩和に応じる用意はある」と発言した。オバマ政権がイランのロウハニ政権との対話を始めて以降、経済制裁の緩和を口にするのは初めてのことである。

イランの核開発に対しオバマ大統領が制裁を緩めることを恐れるサウジはBBCを通じて「イランが核兵器保有に向けた動きを止めなければ、サウジは即座にパキスタンにある核兵器を取り寄せる」という警告を発したのかもしれない。

イランがイスラム教シーア派の雄なら、サウジはスンニ派の雄である。シリア内戦でもイランがアサド政権を支援すれば、サウジは反政府勢力側につく。米露両国がシリアの化学兵器全廃で合意したものの、サウジの目にはオバマ大統領がアサド大統領の延命に同意したとしか映らない。

米国がイラクのサダム・フセイン政権を打倒し、シーア派政権が誕生したことで中東におけるスンニ派の勢力は弱まった。さらに米国がシェールガスの開発を進めて中東依存を下げ、アジアに軸足を置こうとしていることも産油国のサウジは快く思っていないといわれている。

イランが核兵器を保有するなら、サウジは座視するわけにはいかない。そのためにサウジの国防相は1999年と2002年にパキスタンの核開発研究所を訪れ、防衛関係を緊密化してきた。

イランの核開発に対するサウジの選択肢は3つある。(1)自らも核兵器保有国になる(2)米国など他の国の核兵器に依存する(3)中東の非核化を信じることだ。しかし、イランの核開発が進むにつれ、サウジは核兵器保有という方向に大きく傾いていることを何度も米国に伝えてきた。

サウジは中国製弾道ミサイルの発射基地を拡大していることが今年7月、衛星写真で確認されている。さらに、パキスタンが核弾頭を搭載できる移動式弾道ミサイルをサウジに引き渡したといううわさも流れた。

イランはその気になればいつでも核兵器を製造できるレベルまで濃縮ウランを蓄積するのが狙いではないかとみられている。これに対してサウジはいつでも配備できる核兵器をパキスタンに置いておくことでバランスをとろうとしているとみることができるだろう。

一方、パキスタンも実際に核兵器をサウジに引き渡せば、世界銀行など国際社会からの支援を打ち切られる恐れがある。このため、サウジの核兵器を保管する形になっている現状が一番ありがたいという見方も成り立つ。

オバマ大統領がシリアに続いてイランに対しても柔軟な対応を取り始めたことに、サウジだけでなく、イスラエルもフラストレーションをため込んでいる。一貫性を欠くオバマ外交が複雑な中東情勢をさらに混乱に陥れる恐れは十分にある。

(おわり)