化学兵器保有国「北朝鮮からの反応まったくなし」OPCWアドバイザー
OPCWの呼びかけ無視した北朝鮮
今年のノーベル平和賞に決まった化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)の戦略・政策アドバイザー、Daniel Feakes氏が24日、ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演したので、筆者はOPCWに未加盟の北朝鮮がどれだけ化学兵器を保有しているか質問してみた。
世界の軍事力を分析したIISSの年次報告書「ミリタリー・バランス2011」では、北朝鮮が最大で約5千トンの化学兵器を保有している可能性を指摘している。
Feakes氏は「OPCWには北朝鮮の化学兵器保有について公になっている情報以上のことはわからない」と述べたが、今年初めにOPCWへの加盟を促す書簡を未加盟の6カ国に送付したところ、北朝鮮からは何の反応もないことを明らかにした。
未加盟の6カ国は、すでに化学兵器禁止条約に署名しているイスラエル、ミャンマー、署名もしていないアンゴラ、北朝鮮、エジプト、南スーダン。Feakes氏はこのうちミャンマー、アンゴラ、南スーダンの3カ国について「極めて近いうちにOPCWに加盟するかもしれない前向きな反応が返ってきている」との見方を示した。
韓国の朴槿恵大統領は北朝鮮の金正恩第1書記との「南北対話」を進めようとしているが、23日には米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮研究グループ「38ノース」が北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場で新たに2カ所のトンネル入り口を確認したと発表したばかり。
核・ミサイル開発を使って揺さぶりをかけてくる北朝鮮のゴネ得を許さないオバマ米大統領は「戦略的忍耐」を堅持しているが、基本的には朴大統領の対話戦略に乗っかった格好。しかし、北朝鮮は核兵器も化学兵器も手放す気配は一向に見せていないのが現状だ。
シリアは全面協力
これに対して、世界中が注目するシリア。申告があった23カ所の化学兵器関連施設についてFeakes氏は「ほぼ査察は完了した」と説明した。
23日のOPCWの記者会見では「22日時点で18カ所の査察が終了した。残る5カ所のうち一部は反政府勢力が支配する地域にある」と説明していたが、査察期限の27日に向けて査察が順調に進んでいることをうかがわせた。
査察が完了した施設では、化学兵器の製造設備を使えなくする作業も終了している。Feakes氏は「シリアのアサド政権からはこれまでのところ広範囲の協力を得られている」ことを強調した。
来年前半にシリアの化学兵器をすべて廃棄するという目標については「戦闘地域で行う初めての作業だ。目標達成には困難を伴うが、米国やロシア、国連、OPCWなど関係国・機関の協力は構築できている」との手応えを示した。
OPCWは1997年4月に発効した化学兵器禁止条約に基づき、化学兵器の全面禁止及び不拡散のための活動を展開。これまでに加盟国が申告した化学兵器のうち82%を廃棄している。
化学兵器保有大国である米国は90%、ロシアは73%の廃棄を完了。2003年に大量破壊兵器の開発計画放棄を約束したリビアでは70%まで廃棄が進んでいる。
旧日本軍の遺棄化学兵器
Feakes氏は講演で、旧日本軍が中国に遺棄した化学兵器の処理作業にも言及。筆者の質問に対して「日本が資金などを出し、中国、OPCWによる3者協力は進んでいる。しかし、非常に多くの化学兵器が、異なる場所に遺棄されている可能性がある。約70年前のことなので長い間、忘れられてきた。遺棄化学兵器が見つかるたびに掘り出されて処理されている」と説明した。
内閣府遺棄化学兵器処理担当室HPによると、1999年に日中両政府は「中国における日本の遺棄化学兵器の廃棄に関する覚書」に署名。2000年に黒龍江省で小規模発掘・回収事業を実施して以降、これまでに中国各地で約5万発の遺棄化学兵器を発掘・回収した。
吉林省ハルバ嶺に約30万~40万発が埋設されていると推定されるほか、まだ各地に化学兵器が残っているとみられている。
砲弾が腐食し、有毒化学剤が漏洩しているものもあり、爆発リスクもある。処理にはかなりの困難を伴うのは必至だ。
Feakes氏が「ノミネートされていることさえ知らなかった。本当のサプライズ。アナウンスがあるまで誰1人として予想していなかった」と打ち明けるノーベル平和賞は、ホットなシリア問題の陰に隠れているとはいえ、旧日本軍の化学兵器遺棄問題にスポットライトを当てる可能性もある。
(おわり)