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がん治療中のキャサリン皇太子妃が公務復帰の兆し タスクフォースが企業に幼児期支援を求める報告書を発表

木村正人在英国際ジャーナリスト
公務復帰の見通しが全く立たないキャサリン皇太子妃(写真:Splash/アフロ)

■幼児期支援で年9兆円以上の利益

[ロンドン発]がんの診断を受けて予防的な化学療法を受けていることを今年3月に公表したキャサリン皇太子妃の王立基金「幼児期のためのビジネス・タスクフォース」が5月21日、報告書をまとめた。

報告書は企業に対してより家族に優しい働き方を導入するよう呼びかけており、こうした幼児期支援は国民経済に毎年455億ポンド(9兆円)以上の利益をもたらすと唱えている。

キャサリン妃の公務復帰の見通しは明らかにされていないだけに、明るいニュースだ。しかしケンジントン宮殿の広報担当者は「今回の報告書でキャサリン妃が公務に戻ったとみなすべきではない」と釘を刺した。

■幼児期体験が依存症、メンタルヘルス不調の根本原因

キャサリン妃はこの10年、幼児期の体験が依存症、家庭崩壊、メンタルヘルス不調、自殺、ホームレスの根本原因となっていることがいかに多いかを調べてきた。

5歳までの幼児期に経験することが発達中の脳を形成するため、この時期に将来の逆境に対処するレジリエンス(回復力)を高める基礎が築かれる。しかし、そのことを認識する英国人はわずか17%程度だ。

キャサリン妃はこのため昨年3月、ナットウエスト、ユニリーバ、IKEA、アビバ、生協グループ、デロイト、アイスランド・フーズ、レゴの大手企業8社と「幼児期のためのビジネス・タスクフォース」を設立した。

■より幸せで健康的な社会を築くために幼児期を優先させる

「より幸せで健康的な社会を築くために幼児期を優先させる」と題した報告書は、幼児期により重点を置くことで、現在より幸せで生産性の高い労働力が生まれると説く。

何世代にもわたって英国経済と社会の健康と福祉は向上し、毎年少なくとも455億ポンドの付加価値を国民経済にもたらすことができるという。

内訳は次の通りだ。

・幼児期に社会的・情緒的スキルを向上させることで122億ポンド

・公的資金を費やす必要性を減らすことで161億ポンド

・5歳未満児の親や養育者の就労を支援することで172億ポンド

王立基金幼児期センターのエグゼクティブ・ディレクター、クリスチャン・ガイ氏は「英国で最も重要な企業数社が、幼い子供たちとその世話をする人々を優先するようビジネスリーダーたちに呼びかけた」と語る。

■キャサリン妃は報告書の隅々まで目を通す

ビジネスが果たすべき役割は大きく、報告書は5つの目標を掲げる。

(1)企業、地域社会、より広い社会で幼児期を優先する文化を構築する。

(2)最も困難な状況に直面している家族が必要な基本的支援や必需品にアクセスできるよう支援する。

(3)親や介護者により大きな支援、資源、選択肢、仕事の柔軟性を提供する。

(4)幼児とその周囲の大人の社会的・情緒的スキルを優先的に育成する。

(5)質の高い、安価で信頼できる幼児教育・保育へのアクセスを向上させるイニシアチブを支援する。

生協グループは幼児教育基金を創設し、今後5年間で600人以上の実習生を創出する。デロイトは366人の幼児教育専門家を支援する。ナットウエストは保育部門への融資目標を1億ポンドに拡大する。

8社のリーダーはキャサリン妃に幼児期へのアプローチとそれが現在の子供たちの生活と将来の人生の転機を変える絶好の機会であることを考えるよう求められた。がん治療を受けるキャサリン妃は報告書の隅々まで目を通した。

ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子への愛が感じられる温もりのある報告書だ。日本の企業も是非、参考にしてほしい。キャサリン妃の回復が待たれる。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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