Yahoo!ニュース

北朝鮮3回目の核実験 憲法9条と日米安保で防げなかった危機の到来

木村正人在英国際ジャーナリスト

北朝鮮は12日、国営朝鮮中央通信を通じ、3回目の核実験に成功したと発表した。北朝鮮は2006年と09年にも核実験を行なっているが、金正恩第1書記体制になってからは初めて。2月16日の故金正日総書記の誕生日を前に、12日のオバマ米大統領による一般教書演説に合わせて実施することで米国に核保有を印象付けようとした可能性がある。

中距離弾道ミサイル・ノドンで日本を射程内に収める核兵器保有国・北朝鮮の前に、日米のミサイル防衛(MD)システムが完全に機能するという保証はない。大陸間弾道ミサイルをまだ持たない北朝鮮は、米国にとって「将来の危機」だが、日本にとってはもう「現実の危機」である。自国の安全を米国に頼ってきた憲法9条と日米安保の帰結点が目の前にある。

同盟国ではあっても日本と米国の国益は必ずしも一致しない。それが北朝鮮の核兵器保有という現実をもたらした。

米国地質調査所(USGS)のホームページによると、人工的な地震は現地時間12日午前11時57分、北緯41・301度、東経129・066度、深さ1キロメートルの地点で起きた。マグニチュード5・1。過去2回の核実験が行われた咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)の核実験場を指している。

核爆発の威力を示す核出力は1回目が1キロトン、2回目が4・6キロトン(米スタンフォード大学のシグ・ヘッカー氏調べ)だったが、韓国国防省によると、3回目は6~7キロトンとみられている。米国が1945年に広島に投下した原爆(15キロトン)よりも威力は小さい。

米国務次官補代理として大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)にかかわったことがある英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)軍縮・核不拡散プログラム部長のマーク・フィッツパトリック氏は筆者のインタビューに「3回目の核実験では通常の20キロトンを目標にしているとみている。もし北朝鮮が違う核爆弾のデザインを採用していれば核出力は20キロトン未満になる可能性もある」と指摘していた。

3回目の核実験が北朝鮮の発表通り失敗でないなら、大陸間弾道ミサイルに搭載するためにかなり小型化した核爆弾の爆発実験を行った可能性がある。

韓国軍の鄭承兆合同参謀本部議長は6日、韓国の国会で北朝鮮が水素爆弾の前段階のブースト型核分裂爆弾を使った核実験を行う可能性があると証言した。ブースト型核分裂爆弾は核融合反応を利用して核分裂を促進させ爆発力を増したもので、一つの都市を廃虚にする威力があるといわれている。

これに対して、安倍晋三首相は12日午後の衆院予算委員会で「度重なる国連安全保障理事会決議に反するもので、誠に遺憾で強く抗議する」と述べた。言葉は核の前では無力だ。米国にとって北朝鮮が越えてはならない一線(レッドライン)は「核・ミサイルや技術の第三国への移転」「米国本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル保有」だが、そもそも日本は北朝鮮に対してどんなレッドラインを設けてきたのか。日米欧各国が対北朝鮮制裁強化に動くのは必至だが、核兵器保有国・北朝鮮を止める術は見当たらない。

国連安全保障理事会常任理事国(P5)以外のインド、パキスタン、イスラエルといった核兵器保有国は核拡散防止条約(NPT)の枠組みに入っていなかった。しかし、NPT加盟国だった北朝鮮は1993年にNPT脱退を宣言、核兵器保有に至っており、核開発を続けるNPT加盟国のイランも後に続けば、中東諸国が次々と核兵器保有を目指す「核ドミノ」が起きてNPT体制が崩壊する危険性が一気に膨らむ。

ドイツの元外交筋は1月、ロンドンでのシンポジウムで「イランが核兵器を保有すれば25カ国以上が核兵器保有国になる恐れがある」と指摘していた。

しかも、次期国防長官に指名されたチャック・ヘーゲル元共和党上院議員は1月31日の上院軍事委員会公聴会で「北朝鮮はもはや脅威という段階を超え、現実の核保有国だ」と証言している。北朝鮮の保有する核兵器の数が10個前後とみられ、核弾頭小型化の技術レベルも明らかでないにもかかわらず、米国要人が公式の場で、北朝鮮を核兵器保有国と認めるのは初めてのことだ。

米国の核軍縮シンクタンクの科学国際安保研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長は2012年8月の報告書で、北朝鮮は2016年末までに最大で48個の核兵器を保有するのに十分な原料を手にすると予測している。

オルブライト所長は1.北朝鮮がプルトニウム型核兵器をつくらずに軽水炉のための低濃縮ウランを製造した場合、 2.プルトニウム型核兵器をつくるために軽水炉を使用した場合、3.低濃縮ウランを軽水炉に使わずに核兵器に使用するレベルの濃縮ウランを製造した場合の3つのケースを想定し、遠心分離機プラントが1つのとき(シナリオA)と2つのとき(シナリオB)に分けて、核兵器何個分に相当するプルトニウムや高濃縮ウランを製造できるか予測した。

ケース1のシナリオAでは14~25個分、シナリオBでは23~34個

ケース2のシナリオAでは28~39個分、シナリオBでは37~48個

ケース3はケース1とケース2の真ん中ぐらいだった。

2007年夏に北朝鮮西部にある寧辺(ニョンビョン)核施設の5メガワット原子炉が停止したため、北朝鮮はプルトニウムを製造できなくなっている。北朝鮮がプルトニウム製造を再開する場合、原子炉を再稼働させる必要がある。

オルブライト所長の予測グラフ、シナリオA
オルブライト所長の予測グラフ、シナリオA
オルブライト所長の予測グラフ、シナリオB
オルブライト所長の予測グラフ、シナリオB

Institute for Science and International Security (ISIS)“North Korea’s Estimated Stocks of Plutonium and Weapon-Grade Uranium”By David Albright and Christina Walrond August 16, 201より抜粋。グラフは中間値をとっている。

北朝鮮ウォッチャーの韓国・延世大学の武貞秀士国際学部専任教授は「台湾や欧州の複数のソースから得た情報では中国は北朝鮮の核実験場まで立ち会ったりしているそうだ。それだけでは協力しているということにはならないが。中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が平壌に行こうとしたが、拒否されたという動きはヤラセというか、阿吽の呼吸というか、中国が北朝鮮を説得しようとしているが、ダメだという話をつくり上げるための北朝鮮労働党と中国共産党の劇かもしれない。いつも中国が北朝鮮をコントロールできるわけではない。それをやめてくれと言っても北朝鮮がやってしまうことはあるかもしれないが、中朝の軍、党も蜜月だ。下手な戦争を始めない、日本と米国は敵だという認識で中朝は一致している。50~60発核弾頭を保有するようになっても、それを使わないという北朝鮮であれば中国にとって可愛いのではないか。北朝鮮の鉄鉱石を中国の工場に流しこんで、中朝の経済関係は60億ドルを超えた。北朝鮮の港湾施設、経済特区でも中朝関係は緊密だ。核兵器を使わないと約束するなら、実験どうぞ、でも放射能が漏れる実験はやめてねというのが中国の本音だと思う。北朝鮮にやめろ、と中国が言っているのは韓国、米国を安心させるためのディスインフォーメーション(ニセ情報)だ」と筆者に指摘していた。

中国の援助で北朝鮮の金正恩体制の崩壊は遠のいているとの観測が強まっている。北朝鮮は緩やかな経済成長を実現しつつ、核兵器・大陸間弾道ミサイル保有という野望に向かって突き進んでいる。憲法9条と日米安保には止められなかった冷徹な現実が日本に突き付けられている。

関連記事:北朝鮮はすでにノドンに搭載できる核弾頭を保有している 破綻したオバマ米政権の「忍耐戦略」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事