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いよいよ「アベノミクス」が動き出した 安倍首相は「攘夷」から「開国」に転じた長州五傑を見習え

木村正人在英国際ジャーナリスト

「ロケット・スタート」を期す安倍政権は11日、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を閣議決定、国は今年度補正予算案で10・3兆円を支出する。

補正予算案としてはリーマン・ショック後の2009年、最大のお友達・麻生政権が組んだ14・7兆円の「三段ロケット」に迫る規模だ。

内訳は復興・防災対策に3・8兆円、省エネやiPS細胞など成長促進に3・1兆円、医療や子育て支援に3・1兆円で、一見バランス良く振り分けられている。

しかし、持続的成長を達成する長期戦略というより、7月に迫った参院選で勝って衆参のねじれを解消するため、手っ取り早い経済効果を求めたのは明らかだ。

衆院では公明党と合わせて3分の2を超える議席を持つ自民党が、参院でも公明党と過半数を獲得すれば、次の3年間、かなり大胆な政策が安定して打てる。

日経平均は、民主党の野田前首相が解散を宣言した昨年11月14日から急上昇。安倍・自民党総裁(当時)が同月28日に「円高是正、デフレ脱却のための日銀による無制限緩和」に言及するとさらに上昇を続け、12月16日の総選挙で自民党が圧勝して、また上昇した。

円高是正も進み、解散時には1ドル=79円だったが、現在、88円まで円安になった。

米国は「財政の崖」問題、欧州は単一通貨ユーロ危機を引きずり、新体制になった中国の今後も不確実で、いま、日本の「円安」と「株高」に賭けるのが一番確実にもうける方法なのだ。

しかし、海外の投資家は「安倍リフレ(緩やかなインフレーションを起こす)政策の効果を判断するのは時期尚早だ。しかし、批判的になるのも早すぎる」(英紙フィナンシャル・タイムズ)と、しばらくは「日本買い」が続くとみている。

安倍首相の経済ブレーンは国内総生産(GDP)の実質成長1・5%とインフレ1・5%で、GDPの名目成長3%は達成可能との楽観的な絵を描くが、先進国の需要が冷え込み、尖閣諸島など中国との緊張を抱える日本の前途はそれほど明るくない。

富士通総研のマルティン・シュルツ上席主任研究員はフィナンシャル・タイムズ紙で「日本の企業の70%は利益を上げておらず、法人税を納めていない。海外では利益を上げられない会社は3~5年で破綻する」と指摘している。

1990年代の経済バブル崩壊後、度重なる財政出動と金融緩和策は、本来なら市場から退出しなければならないゾンビ企業を生きながらえさせ、「失われた20年」を醸成してきた側面もあるのだ。

「アベノミクス」は同じ轍を進むのか。

財政出動、大胆な金融緩和、成長戦略という「3本の矢」のうち、第一の矢である財政出動は放たれた。21~22日に金融政策決定会合を開く日銀も第二の矢を放つとみられている。

しかし、持続的経済成長を可能にするのは第三の矢である成長戦略だ。環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加、法人税のさらなる切り下げ、人口減少対策、労働市場の流動化など抜本的な対策を打たなければならない。

安倍首相は、攘夷運動から一転、日本を開国に導いた伊藤博文や井上馨ら「長州五傑」を生んだ山口県の出身。今年はその長州五傑が英国に渡って150周年に当たる節目の年だ。

安倍首相はTPPへの反対が根強い地方を説得するリーダーシップを発揮できるのか。先人にならって「攘夷」から「開国」に転ずる英知を安倍首相には求めたい。円安をばねに輸出産業のイノベーション促進などテコ入れを図れるかが、日本再生のカギを握る。

公共投資による土木事業の経済効果は長続きしないばかりか、日本の構造改革を遅らせる。まして東日本大震災の復興事業で、作業員が足りなくなっている状況で、公共投資がどれほどの効果を持つのか疑問視する声さえある。

政治学者、御厨貴(みくりや・たかし)氏が日経新聞で指摘したように、自民党が公共事業ばらまきの「追憶の党」にとどまれば、日本に未来はない。参院選で勝利して「改革の党」に変身することこそが日本の未来を拓くのだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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