「高齢者を取り巻く問題を総合的に考える必要がある」 80歳の日本人留学生 大いに語る

ヒトの老化を生物学・医学・社会科学・心理学などを研究する学問は「ジェロントロジー(gerontology、老人学)」と呼ばれるが、総合的にとらえる「ソーシャル・ジェロントロジー(社会高齢学)」は日本ではまだなじみが薄い。

成田からロンドンに帰る機中、偶然、隣り合わせた豊橋技術科学大学の大呂(おおろ)義雄名誉教授(80)と「ソーシャル・ジェロントロジー」について大いに話が弾んだ。

大呂名誉教授
大呂名誉教授

大呂さんは定年後、「ソーシャル・ジェロントロジー」に興味を持ち、今、アイルランドのゴールウェイ大学社会高齢学センターで若者や社会人に交じって博士号取得を目指している。

高齢化は世界に共通した問題だ。国連人口基金の報告書「21世紀の高齢化」によると、日本ではすでに60歳以上が人口の30%を上回っている。2050年、日本と同じように60歳以上が人口の30%を上回る国は64カ国に達していると予測されている。

日本は認知症など老人医学の分野でかなり進んでいる。しかし、「縦割り行政」と同じで、高齢者に関する学問は、自殺、介護、転倒、生涯スポーツ、生涯学習など、それぞれが個別の問題として扱われ、まだ「ソーシャル・ジェロントロジー」のような総合的な学問は十分に確立していない、と大呂さんは指摘する。

欧州では定年後の世代を対象にした「第3世代大学」が定着しており、高齢者が新たに学位を取ることができる。日本でも「第3世代大学」が普及すれば、高齢者雇用の可能性が格段に広がるかもしれない。

テニス愛好家の大呂さんは日本とアイルランド、オーストラリアの3カ国で、それぞれゴルフ愛好家30人、水泳愛好家30人から聞き取り調査を行った。

日本の場合、「夫唱婦随」の封建的な文化が高齢者女性のスポーツ参加を大きく阻んでいた。

会社人間の夫は休みの日も接待ゴルフに明け暮れ、妻は完全な「ゴルフ・ウィドー(未亡人)」。夫が定年を迎えてから、急に一緒にゴルフをしようとしても、うまくいかないケースが目につく。

アイルランドやオーストラリアでは、高齢者がゴルフや水泳をしている間に亡くなったら、「サクセスフル・エイジング」と言って祝福するような明るい雰囲気が漂うが、日本では「他の人や施設に迷惑をかける」といった風潮が強かった。

また、日本のゴルフ場はコースの管理にカネがかかることもあって、欧米に比べて料金が格段に高い。「スポーツというより、金もうけ主義に走っている」と大呂さんはいう。

老人会の活動も日本では月1回程度だったが、アイルランドなどでは週1回と活発で、連れ合いをなくしたメンバーを仲間がゴルフに誘いだして励ますなど、コミュニティーとして機能していた。

大呂さんは博士課程に進む前にディプロマを取得したが、ボールペンのインクが3カ月でなくなるほど、猛勉強した。

高齢者には弱々しいイメージがつきまとい、介護や年金ばかりが強調される。しかし、「高齢者の可能性はまだ十分に研究されていない。高齢者は社会から支えられているだけの存在ではなく、支えることも十分にできる」というのが大呂さんの持論だ。

「要は気持ちの問題だ。誰にも115歳まで生きる可能性がある。京都大学・山中伸弥教授のiPS細胞研究で、細胞が若返る可能性まで出てきた。新しいものを見つけて新しい生き方を実現することが大切だ。自民党の安倍晋三首相には箱ものではない、人間のインフラ作りをやってもらいたい」と大呂さんは注文を付けている。

(おわり)