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「2年で2%のインフレ目標を達成できなかったら総裁以下、日銀政策委員会は全員クビ」英FT紙のウルフ氏

木村正人在英国際ジャーナリスト

英紙フィナンシャル・タイムズの経済コラムニスト、マーティン・ウルフ氏が12日夜、ロンドンの英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で、ギリシャ問題のシンポジウムに参加した後、つぶやいたろう(筆者)のぶら下がり取材に応じ、16日投開票の総選挙で勝利して次期首相就任が確実視される自民党の安倍晋三総裁のリフレ(緩やかなインフレーションを起こす)政策について、「2年で2%のインフレーターゲットを実現できなかったら、総裁以下、日銀政策委員会の9人全員をクビにすればいい」と語った。

ウルフ氏は世界経済に精通しているコラムニストで、安倍氏の政策を詳しく知っているわけではないと断りながらも、「もし為替レートの目標を設定しないのなら、インフレーションターゲットを設定すべきだ」と発言。

日銀は過去15年間もデフレを克服できずにいるが、ウルフ氏は「2年かけても2%のインフレーションを達成できないなんて、ばかげている。もし、2%の目標を定めて2年後に達成できていなかったら、その時は日銀政策委員会9人全員をさっさとクビにすればいい」との見方を示した。

筆者が「日銀は永遠にお札を刷り続けるのか」と質問すると、「永遠に債務を抱えているより永遠にお札を刷り続ける方がまだましだよ。日本はポジティブなインフレを起こした方がいい」と語ったが、中央銀行の独立性については「ゆるがせにしない方が賢明だ」と安倍総裁に忠告した。

ウルフ氏は2010年6月のフィナンシャル・タイムズ紙コラムで、日本の債務問題について、一、国債の平均満期を5・2年から15年に延ばす、二、インフレの起こし方を知っている日銀総裁を雇う、三、3%のインフレを起こせば長期金利は5%に上昇し国債の価値は40%下落する、四、おカネが国債ではなく他の資産や消費に向かった後、増税して財政再建を進める、というシナリオを描いたことがある。

世界金融危機で大規模な信用バブルが破裂した英国や米国では、1990年代に金融バブル崩壊を経験した日本と同じように、政府債務が膨れ上がっているのに、国債金利が下がるという現象が起きている。

信用バブルが崩壊した後は、企業も家庭も借金を減らそうとするため経済が低迷するバランスシート不況が起きる。こうした状況下で需要を殺さないようにするにはみんながバランスシートを黒字にはできない。結局、民間債務が公的債務に移って政府債務が膨れ上がることになる。

日本はすでに「失われた20年」といわれているが、バランスシートの調整が必要だった前半の10年と異なり、後半の10年は人口減少、低賃金に支えられた中国経済の台頭、激変する世界経済に対する日本企業の適応の遅れなど、さまざまなデフレ要因が指摘されている。

リフレ政策だけでは、信用バブル崩壊、バランスシート不況、人口減少などの問題を世界に先駆けて経験した日本経済を立て直すのは難しい。リフレ政策で稼いだ時間を無駄なく生かす包括的な成長戦略が日本に不可欠なのは言うまでもない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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