分裂の危機はらみ、EU首脳が予算交渉 政治指導者に求められるタフな交渉能力と外交力
欧州債務危機で各国が緊縮財政に取り組む中、欧州連合(EU)の2014~2020年予算をどこまで切り詰められるか、を交渉するEU首脳会議が22~23日の日程で始まった。24日にずれ込んでも合意できない場合は、次の首脳会議に交渉が持ちこされる可能性もある。
英下院では先月末、最大与党・保守党の造反議員53人が「国内で財政支出を大幅に削減している。EU予算も削減すべきだ」と提出したEU予算削減動議に最大野党・労働党も賛同。動議は賛成307票、反対294票で可決された。保守党議員の棄権は13人だった。
動議は可決されても法的拘束力を持たないものの、党内欧州懐疑派の大量造反に突き上げられたキャメロン英首相は「EU予算をめぐる交渉で、英国の国益にかなわなければ拒否権を発動する」と宣言。背水の陣を敷いて交渉に臨んだ。
EU内では「最悪の場合、英国を外して予算を承認するのもやむなし」という声が上がるなど、緊張した空気が流れている。
英BBC放送によると、EUの行政執行機関、欧州委員会のバローゾ委員長は1兆250億ユーロの予算案を提示。英国は2011年を基準年としてインフレ上昇分以外は予算の拡大を認めない8250億ユーロを主張。
調停役のファンロンパイEU大統領(首脳会議の常任議長)は21日に9730億ユーロの妥協案を示し、これを軸にEU27カ国の首脳がギリギリの交渉を行っている。
カギを握るドイツのメルケル首相は予算の上限をEU域内総生産(GDP)の1%にする9600億ユーロを主張しているが、支出拡大派のフランス、イタリアと、緊縮派の英国、オランダ、スウェーデンとの間で落としどころを探る構えだ。
英紙フィナンシャル・タイムズや英紙タイムズは9400億ユーロでキャメロン首相は手を打つ可能性があると報じている。
英国は1984年にサッチャー首相が「わが国は予算の負担率に比べて農業補助金の恩恵が少ない」とクレームをつけて、現在でも年35億ユーロの払い戻しを受けている。
この払い戻しについても撤廃や10億ユーロ削減を求める声が上がっているが、キャメロン首相は抵抗している。
首脳会議の前には事務方が交渉しているものの、最後はトップの交渉能力に委ねられる。だれが味方か、敵かを見分け、落としどころはどこかを探る。読みを誤れば、孤立し、みじめな敗北を喫することになる。
国際会議で官僚の用意した声明を読み上げて、それでおしまいの日本の政治家とは大違いの世界なのだ。
昨年12月のEU首脳会議では、英国とチェコを除くEU加盟25カ国が、債務危機の再発を防ぐため、最終的に財政規律を強化する新財政協定で合意。キャメロン首相はEUの窓際に追いやられてしまった。
単一通貨ユーロを採用していない英国は金融監督一元化や金融取引税などの枠組みにも不参加を表明しており、EUとの距離はますます広がっている。
EU予算交渉で英国が再びのけ者にされれば、英国内でEU残留か離脱かを問う国民投票を求める世論が高まるのは必至。英世論調査会社YouGovの世論調査によると、英国では49%がEUからの離脱を支持、残留派は28%に過ぎない。
(おわり)