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クルトワの奇跡とククレージャのミスと不思議な名采配(チェルシー対レアル・マドリー)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
クルトワの奇跡のセーブ。チェルシー先制なら勝者と敗者は入れ替わっていたかも(写真:ロイター/アフロ)

レアル・マドリー勝ち上がりの最大の要因としてククレージャの大ミスを挙げないといけない。第1レグ2-0とレアル・マドリーのリードで迎えたこの試合、次の1点がどちらに入るかが勝敗の分かれ目だった。レアル・マドリーに先制点が入り、通算で3点差となって勝負は決まった。

1:ククレージャの大ミス

57分、ミリトンへのバックパスをククレージャが追うが届かず。彼の頭上を越えたパスがロドリゴに渡り、チャロバーをかわして独走。エリア内に侵入してマイナスのセンタリングを送る。これをビニシウスが折り返し、正面のロドリゴが慎重にネットを揺らした。

ゴール前で右→左→右と揺さぶられたチェルシー守備陣に対応の術はなかった。

ロドリゴの独走後の1点目。完全に崩し、1トラップする余裕があった
ロドリゴの独走後の1点目。完全に崩し、1トラップする余裕があった写真:ロイター/アフロ

このククレージャの飛び出しが大ミスだ。

相手はミリトンとカルバハルの2枚なので1対2の数的不利になっており、しかも自分の背後ではロドリゴとチェロバーが1対1になっている。もう一つ言えば、ミリトンとの間には距離があり、どう考えてもプレスは届かない(実際、届かなかった)。

この“自重すべき”という三大警告を無視して、ククレージャは無謀にも飛び出してしまった。直前までチェルシーが積極的なプレスで押し込んでいたので、その勢いのまま行ってしまったのだろう。

ロドリゴを大急ぎで迎えに出たチャロバーもスライディングタックルすべきでなかったのかもしれない。だが、足を止めたとしてもスペースがあったので、かわされていた可能性が高い。

クルトワとククレージャ。ヒーローとアンチヒーローとに残酷に分かれた
クルトワとククレージャ。ヒーローとアンチヒーローとに残酷に分かれた写真:ロイター/アフロ

2:クルトワの奇跡のセーブ

前半終了間際、右サイドにフリーで侵入したジェイムスは速いセンタリングを送り込んだ。ゴール前で守備者と攻撃者が潰れて、大外から回り込んだククレージャが完全にフリー。至近距離(ゴールエリア内の角からだから8メートル弱)からの狙いすましたシュートを、クルトワが横っ飛びで右手一本で弾き出した。

もう少しで終了という時間帯での失点は精神的なダメージが大きい。これがゴールになっていれば一気にチェルシーの押せ押せムードになっていたはずだ。

このシーンでもあったカマビンガのミスについても指摘しておこう。

ジェイムスがフリーになったのは、ハフェルツへのバックパスに彼が喰い付き、背後をケアしなかったから。ここは自重しアラバに任せて、次のパスの受け手となるジェイムスをマークすべきだった。

カマビンガは左SBを任されているが、本職であるインサイドMFの気分でプレーしているように見える。

チェルシーのMVPはハフェルツ。第1レグで先発しなかったのが悔やまれる
チェルシーのMVPはハフェルツ。第1レグで先発しなかったのが悔やまれる写真:ロイター/アフロ

例えば、切り返し。ライン側へボールを持ち替えるのがセオリーだが、彼は危険な内側へ持ち替える。トラップも同じ。内側へボールを置こうとする。なまじ右足が使えるからなのだろうが、冷や冷やする。さっきの喰い付きにしても、一つひとつの判断が安全第一の守備者のものではない。

3:アンチェロッティの不思議な名采配

2点リードで敵地に乗り込むという状況で、3トップ+3MFという選択は正しかったのだろうか? 前ラウンドのリバプール戦では3点リードでホームという状況で2トップ+4MFで臨み、無失点で安全に勝ち上がっている。

得点よりも失点を防ぐことが優先に見えたが、アンチェロッティ監督はそうせず、“攻撃は最大の防御なり”という姿勢だった(この強気采配は、コパ・デルレイのクラシコでも見られた)。

参考:カンプノウで屈辱の4失点。バルセロナ対レアル・マドリー、勝負の分かれ目

チェルシーはビニシウスの背後、カマビンガを集中的に狙った
チェルシーはビニシウスの背後、カマビンガを集中的に狙った写真:ロイター/アフロ

レアル・マドリーには構造的な守備の穴がある。

ビニシウスの背後である。ビニシウスに下がらせて守備をさせるより、残ってもらって攻撃させる方がメリットが大きいので、アンチェロッティにとっては“覚悟の穴”と言える

この穴を塞ぐのは左インサイドMF(モドリッチ)の役目なのだが、攻撃面でも重要な彼が戻り切れないことがある。そうすると、左SBのカマビンガが裸になってしまう。

昨夜もカンテ+ジェイムス対カマビンガで2対1を作られ、何度もセンタリングを上げられていた。2対1で抜かれるのはカマビンガのミスではなく、チームとしてのサポートミスなのだ。

ビニシウスは不発も1アシストを記録
ビニシウスは不発も1アシストを記録写真:ロイター/アフロ

後半、アンチェロッティはモドリッチとバルベルデのポジションを入れ替えた。走力と運動量のあるバルベルデがサポートすることで、この穴を塞ごうとした。

この判断は成功して「名采配」と呼ばれているが、構造的な穴があるならなお更、なぜ最初から塞がなかったのだろう、という疑問も残る。

左バルベルデでスタートするか、それこそMF4枚でビニシウスの背後のカバーを厚くしていればより盤石だったのではないか?

■勝つのはいつも同じチーム、同じ監督

実はレアル・マドリーが先制する直前に面白い動きがあった。ウォーミングアップしていたチュアメニをアンチェロッティは呼んでいるのだ。

守備的MFの彼を誰に代えて、どこへ入れるつもりだったのかはわからないが、いずれにせよ守備強化であったことは想像に難くない。52分、54分、56分と立て続けにチャンスを作られていたからだ。

先制で、この交代は流れてしまった。もしかすると、ロドリゴを下げてMF4枚にしたのかもしれない。だが、そうしていたらロドリゴの2ゴールは無かった。

詰まるところ、4人目のMFかロドリゴか、という選択だったが、通算4-0という結果がアンチェロッティの判断が正しかったことを証明している。

采配を的中させて勝つ監督こそ、名将なのである。

アンチェロッティとランパード。監督の差もあったかもしれない
アンチェロッティとランパード。監督の差もあったかもしれない写真:ロイター/アフロ

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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