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ネタバレ厳禁映画『ラストナイト・イン・ソーホー』は予告編も厳禁レベル

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ドガの踊り子の絵『エトワール』のよう。映像は美しいが……

ネタバレは深刻な問題だ。

私はサッカーライターでもあるので、「試合結果をばらすようなもの」と解釈している。勝敗のわかった試合を誰が見るものか!

だが、問題はネタバレの基準が書き手によってバラバラなこと。あらすじ紹介すらネタバレのリスクがあると考える私はストイックな方だが、あらすじ紹介から始めないと評が書けない書き手もいる。

60年代のファンにはうれしいものばかり
60年代のファンにはうれしいものばかり

※ネタバレについては下でも考察した。

ネタバレが致命傷になる映画をどう批評する? 「葛藤のある」書き手と「ない」書き手が共存する業界

自分が見る時には予備知識は一切入れない。あらすじを読まず、予告編も見ない。ポスターからすら目をそらす。宣伝文句や使用写真がネタバレになりかねないから。『ラストナイト・イン・ソーホー』もそうした。すべてのサプライズを楽しみたければそうするしかない。

■ネタバレと宣伝とのせめぎ合い

エドガー・ライト監督がツイッターでネタバレ防止をお願いしている文章を読んだ。作り手としては当然だ。

だが、チラ見させないと宣伝やプロモーションにはならない。「面白そうだな」と思わせる映像や動画を用意し、物語の触りを紹介する。全部見せたらネタバレだからチラ見させる。見せ過ぎても駄目で、見せな過ぎても駄目である。どこまでバラすかで当然、葛藤が起こる。

主人公はこちら。彼女の成長物語でもある
主人公はこちら。彼女の成長物語でもある

自分が監督だったら、ギャスパー・ノエが『Vortex』でしたように全然見せないことを要求するだろう。

が、宣伝部門から「それではお客さんに来てもらえません!」と泣きつかれて妥協することになるだろう。で、公式ホームページや予告編が完成しても見ない。見たら絶対に文句を言いたくなって、宣伝のプロたちの仕事を邪魔しそうだから。

■誰もが絶賛の映像美、音楽、衣装…

『ラストナイト・イン・ソーホー』の予告編もそうだ。私の基準で言えばネタバレがある。公式ホームページの方は「イントロ」は見ても大丈夫だが、「ストーリー」は見たら駄目だ。

主人公がファッションデザイナーなら衣装が美しいのは当然
主人公がファッションデザイナーなら衣装が美しいのは当然

この作品でネタバレを避けようとすると、映像美やファッション、2人の魅力的な女優、懐かしい音楽、鏡を使ってCGを使わなかった演出、前半のリズムの良い展開など、物語以外の部分を絶賛するしかない。実際、プロモーションもそこに焦点を当てられているようだ。そこは絶賛したい。

■ネタにある、書けない「不満部分」

だが、私が不満に思ったのは物語、まさにネタの部分にあって、ネタバレ抜きには書けない。

見てくれた人ならわかると思うが、アレはどうなのか? えっ何で? どうしてそうなった? かなり賛否が分かれるところだと思う。

あともう一つ、モラル的にも法的にもこれを正当化することは社会に誤ったメッセージを伝えることにならないのか?というのもあった。

問題はこのあたり。バレてはいけないネタにある
問題はこのあたり。バレてはいけないネタにある

一足先に公開になったスペインではストーリーも含めて絶賛している人もいるので、私が間違っているのかも。女性が絶賛、男性がさほどでもない、という傾向もあるようだ。主人公が女性、目を引く部分の違い、男性の扱われ方によるのか。

とにかく一見には値するので、みなさんの判断を待ちたい。

ネタバレなので見ない方がいい予告編。

※ネタバレについての考察はここにも書いた。

素晴らしい映画『ルーム』(4月8日公開)。どうか予告編を見ないで!!!!

※写真提供はシッチェス映画祭。

スペイン版のポスター
スペイン版のポスター

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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