主将が陽性→練習禁止→試合不可能→追加招集→慌ててワクチン? 翻弄されるスペイン代表
チームスポーツでは、たった1人の感染が雪崩的な負の連鎖を生む。EURO2020初戦を6日後に控えたサッカー、スペイン代表が今陥っている大混乱は、スポーツイベントでの“バブル”の脆さの証言者だ。
6月11日開幕のEURO2020に備え合宿中のスペイン代表に、6日夜最悪のニュースが届いた。主将ブスケッツのコロナ陽性が判明したのだ。
幸い他の23人の選手は全員陰性。陽性1人なら大したことないと思うかもしれないが、そうではない。
これは“バブル内”で起こった感染なのだ。
“バブル”というのは、感染防止のための隔離されたエリアを指す。そのエリア内に入れるのはPCRと抗原検査が陰性だった選手とスタッフだけで、彼らは練習と生活のすべてをその内部で行う。
外部との接触を完全に絶つことで感染を防ぐのが目的だ。
■バブル内では共同生活。ゆえに……
その言わば、“無菌”ならぬ“無ウイルス”エリアで感染者が出た。
ブスケッツはそれまでの抗原検査7回、PCR検査1回ですべて陰性だったにもかかわらず。4日にポルトガルと親善試合を行ったのが合宿所を離れた唯一の機会であり、移動やスタジアム内でも動線は厳しく管理され、バブル状態が維持されているはずだったのに……。
バブル内では無ウイルスが推定されているから、バブルの住人同士の接触は比較的自由。だから、全体練習も大人数のミーティングも普通に行われていたのだが、感染防止のための24時間一緒の共同生活ゆえに、逆に今、感染拡大が心配される皮肉な事態になっている。
感染拡大を心配する根拠はある。
ブスケッツは主将だから選手やスタッフとの接触が多かった。
全体ミーティング以外に、監督との打ち合わせ、連盟スタッフとのボーナスの交渉に参加、スポンサー絡みのイベントにも呼ばれることが多かった。さらに、陽性判明の数時間前には選手とスタッフとの食事会が開かれていた。もちろんバブル内でのイベントではあるが、食事の席では当然マスクは外す……。
ブスケッツの行動が明らかになるにつれて、“バブルが厳密ではなかった。空気が実は漏れていた”という批判も上がり始めている。
■練習とプレー禁止。“第2バブル”結成
次に、陽性判明後の対応も紹介しておきたい。
ブスケッツは合宿所を退所。全体練習が禁止となり、選手たちは個人練習を行う。記者会見などすべてのイベントが中止。唯一中止できなかった8日夜の対リトアニアの親善試合は、U-21のメンバーが緊急招集され出場することになった(その場合も名目上はフル代表同士の試合となる)。
加えて、彼らとは別に6人のフル代表クラスの選手が呼ばれて、“第2バブル”が結成された。
彼ら第2バブルのメンバーは、今後さらに感染者が出た場合の交代要員である。感染の可能性がある第1バブルのメンバーとは合宿所も別、練習グラウンドも別で、無ウイルス状態が保たれている。6人はGK1人、DF1人、MF3人、FW1人で、どのポジションに欠員が出ても埋められるようになっている。
UEFAはスペインの初戦、14日の対スウェーデンの48時間前までのメンバーの入れ替えを認めているから、それまでにルイス・エンリケ監督が最終決定する。ブスケッツは最短でもスウェーデン戦には間に合わないから、入れ替え対象になる可能性が高い。
■代表にワクチンを!の声、盛り上がる
こうした動きと並行して、代表にワクチンを接種せよ、という話が急浮上してきた。
スペインでは接種の順番は厳密に守られており、医療従事者や教師等、高齢者を経て今はちょうど40代に差し掛かっているところ(59歳の私は5月に2回接種を終えた)。若者の順番は回ってきていないが、「例外」を認めていいのではないか、という方向に世論が傾いている(ちなみに東京五輪参加者は5月に接種済み)。
EURO参戦チームには接種を終えたところもあるし、そうでないところもある。例えばベルギー、ポルトガル、イタリアは接種済みだし、ドイツ、イングランドは未接種で、フランスは個人の自由に任せている。
開幕直前なのでスペイン代表に打つなら1回で済むヤンセンだと言われているが、異論もある。
元気な若者である代表選手を例外とするモラル的な是非とともに、感染予防効果はわかっていないし、副反応への心配もあるし、抗体ができるのに1~2週間かかるのなら間に合わないかもしれない。スペインのグループステージ最終節は23日だから、勝ち上がらない限り接種の意味は小さくなる。
ブスケッツ感染で今は感情的な空気になっているが、メリットとデメリットを勘案して冷静に判断されることになるのだろう。
※これを書いている時に、スウェーデン代表に1人陽性者が出たという報が入った。EURO2020開催の前提となっている、バブルへの信頼性はまだ揺らいでいないと信じたい。