ワクチン接種は1月スタート、効果は5月に出る――スペイン保健相の言葉にも、楽観的にはとてもなれない
ファイザー製のワクチンに9割以上の効果があった、というニュース(9日)はスペインでは大きな期待を持って受け止められた。
翌10日には早速、サルバドール・イジャ保健相が国営放送のインタビューに答え、スペインには「2000万本のワクチン、1人2本を打つ必要があるので、1000万人分が届くと計算している」と発表した。健康保険が適用されて接種は無料で、集団接種は「1月初めにはスタートできる」、「5月頃にはスペインでも欧州でも効果が出る程度の人が接種済みのはずだ」という見解を示した。
が、これは楽観的な見方だ。
というのも、いくつかの条件をクリアしなければならないからだ。
ワクチンがクリアすべき3つの条件
条件1:ファイザー製のワクチンが本当に有効であること
現段階(10日)ではいくつかの不明点がある。免疫効果がどのくらい続くのか? 予防だけでなく、症状改善効果がどのくらいあるのか? ウイルス増殖を抑える効果があるのか(他の人を感染させることもなくなるのか)?――などなど。これは今後、明らかにされるだろう。
条件2:ファイザー製以外のワクチンも接種される
スペインの人口は4700万人。1000万人分では足りない。ファイザー製の1000万人分は、65歳以上の高齢者+医療・保健従事者でほぼ底を突く計算。ワクチンの効果が出るのは全体の6割程度が接種済みとなった時、と言われているから、単純計算で4700万の6割、2820万人分が必要になる。
世界保健機関(WHO)の資料によれば、ファイザー製と同じ最終段階に入っているワクチンは他に9つある。これらが不足分を補う必要がある。
条件3:史上空前の大オペレーションを成功させる
ワクチンはマイナス75度での保存が必要で、保存機器と輸送についてはファイザーの方で手配するようだ。が、問題はスペインに到着した後だ。最低でも2820万人への接種、それも28日間の間隔を置いての2回接種をつつがなく行うことができるのか?
それがこなせるオペレーション力があれば感染はここまで拡大していなかった、とは思うが、どうか。
現在は悲惨、それが現実
10日現在、スペインの累計感染者数は140万人近い。100万人を突破したのが先月21日のことだったから、3週間で40万人増えた計算だ。
日本と比較してみよう。
スペイン保健省の最新データによれば、10万人当たりの直近1週間の新規感染者数は、日本が4.2人、スペインが262.3人である。死者数は、スペインが直近24時間で411人(10日発表分)と第二波では最悪の数字になったが、日本では12人(11日23時半現在。NHK報道による)。
10月25日に出された2度目の非常事態宣言の効果か、感染者数は下り坂にあるが、遅れて効果が表れる死者数はまだ増加すると見られている。
生活についても書いておこう。
我が街グラナダはこの国でも最悪の感染地域であり、最も厳しい制限を受けている。10日の新規感染者数は713人で、人口91万人のグラナダ県だけで、日本全体の半分近い感染者数を出している計算だ。
夜間外出禁止令と市外への移動禁止令が出ていたが、昨日(10日)からは必要不可欠の活動以外が禁止された。スーパー、銀行、煙草屋、理髪店、役所などは開いているが、それも大半は18時に閉まる。学校では大学が閉まっている以外、小中高は開いている。バルやレストランなど飲食店はケータリング以外は禁止で、衣料品などの商店と映画、劇場など娯楽施設はすべて閉まっている。
市内を出歩くことは22時から7時までの戒厳令(外出禁止)を除けば可能だが、18時を過ぎればゴーストタウンのようになるので、歩いても仕方がない。
ワクチンを取り巻く楽観論者に根本的な疑問を投げかけたい。
こんな生活を続けていて、大体、この国は来年5月まで持つのか?