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韓国開催の米ゴルフBMW女子選手権に「韓国ツアー選手が一人も出られない」衝撃の理由

金明昱スポーツライター
コ・ジンヨンは韓国開催の米ツアーで優勝して米国行きを決めた(写真・KLPGA)

 今週開催の米女子ツアー「BMW女子選手権」(10月20~23日)は韓国のオークバレーCCで開催される。米女子ツアー会員の選手たちはもちろんのこと、韓国女子ツアー会員の選手たちも昨年同様に出場を予定していた。

 しかし、今年は米ツアーと韓国ツアーが韓国内で同じ週に開催されるという異常事態が発生。そのため、今年から韓国ツアーの選手は、“韓国開催の米ツアー”に誰一人として出られないことになった。

 現在、韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)は公式サイト上に「非公認海外ツアーの案内」というタイトルで、こう公示している。

「今年から『BMW女子選手権』が協会の公認を受けていない大会と分類されました。LPGA(米女子)ツアーのシード選手でない場合、今大会に出場できません」

 また、これを守れない選手には、最大10試合出場停止、最大1億ウォン(約1000万円)の罰金が科されると発表している。状況的には、日本開催の米ツアー「TOTOジャパンクラシック」に日本ツアーの選手が出られなくなると想像すれば、分かりやすいだろうか。

 ちなみに、昨年までは韓国ツアーからは30人ほどが米ツアーに出場し、成績も国内ツアーの賞金ランキングに反映されていた。今年から母国開催の米ツアー参戦を完全に閉ざされた韓国ツアーの選手たちは、米国進出のチャンス(優勝者には翌年のシード権)や海外選手たちとプレーする機会を半ば“強制的”に奪われたことになる。この措置に「職業選択の自由を侵害しているのでは」と反発の声を挙げる選手もいるという。

KLPGAとLPGAが放映権料でもめた?

 米女子ツアーが韓国で初めて開催されたのは2003年。それから毎年韓国女子プロゴルフ協会がローカルパートナーとして加わり、同週に韓国ツアーを開催しないのが慣例だった。

 それなのになぜ、今年は両ツアーがバッティングすることになったのか。実は韓国女子プロゴルフ協会(KLPGA)と全米女子プロゴルフ協会(LPGA)が、BMW女子選手権の放映権料について協議したのだが、最終的に合意に至らなかったのが原因だという。その詳細を今年4月に韓国紙「中央日報」が報じている。

「LPGA放映権を持つJTBCゴルフとKLPGAの放映権を持つSBSゴルフが、それぞれ生中継を要求したことが事の発端。両者の協議が決裂し、KLPGAはBMW女子選手権と同じ期間に別途の大会を行うことを決めた」

 疑問が生じるのは、このタイミングでKLPGA側がLPGAに放映権料を求めた理由についてだ。同紙はツアー関係者の話として「KLPGAが生中継の放映権料をLPGAに要求したのは、LPGAとの関係を切るための名分を立たせるため」と伝えている。

 つまり、KLPGA側から見ればこれ以上、国内選手を海外に出したくないという意図が透けて見える。強くて人気のある国内選手が、米ツアーに出ていくのを良しと思わない部分があるのだろう。

米ツアーと同週の韓国ツアーが一時は取り消しに

 しかし、このドタバタ劇はこれだけで終わらない。今週開催の韓国女子ツアーは「KHグループ IHQ カンベ女子オープン」だったのだが、2週間前に急きょ大会が取り消しになった。詳しい理由は明かされていないが、メインスポンサーとなっているKHグループが、談合疑惑などで検察から捜査を受けたタイミングと重なっていたのが原因と見られている。

 米女子ツアーに啖呵を切っていた韓国女子ツアー側としては、焦りもあったはず。だが、ここは人気ツアーの強みなのか、空いた日程はすぐに埋まった。最終的に今週は新設大会の「WEMIX選手権 with ワウマネジメントグループ SBS Golf」(10月21~23日)が開催される。ここに96人の選手が出場するが、本来であれば30人ほどは、米ツアーに出場できていたはずだ。

 こうした状況を経済紙「アジア経済」は「KLPGAの人気が高まったのは、選手たちが米ツアーなど海外でプレーして、優れた成績を収めてきたからだ。スター選手を海外に取られないようにするのはむしろ閉鎖的で、現在の流れに逆行している」と伝えている。

 米女子ツアーを目標にしていた韓国ツアーの選手にとっては、痛手でしかない。実際、現在世界ランキング1位のコ・ジンヨンは、2017年当時はまだ国内ツアーの選手だった。彼女は韓国開催の米女子ツアー「KEBハナバンク選手権」で初優勝し、2018年から米国に主戦場を移して今に至る。

 いずれにしても、人気選手の流出を防ぐことでツアー人気は保たれるのか、世界に出たい選手のレベル向上の妨げになるのか――。数年後には何が正しい決断なのか判明するだろうが、KLPGAには選手ファーストのツアー運営が求められている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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