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「俺はアンチの命を守っている」頭突き騒動から2カ月、格闘家・皇治の胸中

金明昱スポーツライター
現在の心境について正直に語ってくれた皇治(撮影・倉増崇史)

「俺のアンチは無料広告塔」と言い切るキックボクサーがいる。皇治、32歳。

 昨年、K-1の中心選手だった彼は主戦場をRIZINに移すと、神童・那須川天心と対戦し、判定負けを喫した。その後も注目を集める言動とカリスマ性でファンもアンチも引き付ける存在となった。

 事件は今年6月の梅野源治戦で起きた。皇治のバッティング(頭突き)により、試合がノーコンテストになると、そのファイトスタイルにSNSが大炎上。選手、関係者を巻き込む論争となって、皇治は引退を示唆した。

 あれから2カ月。物議を醸した一戦で、誹謗中傷を受けた男は今なにを思うのか、単独インタビューで胸の内に迫った。

「みんなで俺を叩きたいんでしょう」

――最近まで東京オリンピックが開催されていましたが、ご覧になられましたか?

 (競泳の瀬戸)大也と仲が良いので、見ていましたよ。調子が良かっただけに、今回は悔しい結果でした。お互いに週刊誌に載った時期もかぶったんで(笑)、応援していたんですよ。彼も誤解されやすいタイプやと思うんです。でも真っすぐな青年で実力もあるので、これからも頑張ってほしいです。

――本題に入りますが、6月のRIZINでのバッティングが選手や関係者の間で騒動となりました。なぜ起きたのか教えてください。

 俺の実力不足です。ワンナイトトーナメントということで、早く倒して勝ちたいというのがありました。身長が高い相手だったんで、いつもより距離を詰めて戦うことにしたんですが、ああいう出来事になるとは、予想できなかった。結果は受け止めなあかんとは思っています。俺が言いたいのは、ケガをさせたのは俺が悪い。頭を下げているので、それ以上何すんねんと、ごちゃごちゃ言ってどないなんねんという話ですよ。

――ただ、これだけの騒ぎになるのは、皇治選手だからというのもあると思います。

 そうですね。俺がさんざん大きいことも言って目立ってきたんで。やっぱりヘマをしたときは、みんなで俺を叩きたいんでしょう。でも、格闘技を始めたときからそれは覚悟のうえで生きてきているので、負けても騒がれることは良かったなと思います。無視される人生が一番つらいんで。

――「無視される人生がつらい」とは、どういう意味でしょうか?

 賛否両論だろうが、話題にならないとプロの意味がないと思うんです。ただ、最後は試合で見せてナンボなんで、それができなかったのは、すごく悔しいですし、情けないと思っています。やっぱりプロである以上、人に興味を持ってもらえなくなったら終わりだし。俺が引退を考えるときにいつも思うのは、ファンはもちろんですが、アンチがいなくなったときは、俺の仕事はなくなるんかなと。

「話題にならないとプロの意味がないし価値がない」と言い切る(写真・倉増崇史)
「話題にならないとプロの意味がないし価値がない」と言い切る(写真・倉増崇史)

――アンチがいるほうが、自分の立場としてはいいと?

 もちろんです。俺のアンチはものすごく根強いし、表に映らない存在ですが、俺のことを見てくれている。そういう人たちがいるうちは、俺はまだプロとして生きている価値があんねんなと。

アンチを「ブロックしない」理由

――最近はSNSでの誹謗中傷に悩む人たちが多いのも事実で、皇治選手のSNSにもアンチコメントが来ると思います。

 あれは無料広告塔ですよ。俺はエゴサーチをするんですが、毎日毎日、俺のことをつぶやいてくれているんですよね。アンチテーゼが広告塔としての役割を果たしてくれている。「最近、皇治ってよく出てくるけれど、どんなやつなんか」と、俺のSNSを見てくれるわけじゃないですか。それで、格闘技を見てくれたら、もう万々歳です。

――アンチからは逃げないということですか?

 どちらかと言えば、アンチの命を守っているのは俺やと思っていますからね。SNSに書き込む人たちは、それが生きがいなんですよ。人生でストレスを抱えて、俺にそれをぶつけている。俺が排除してしまったら、その人たちのストレスのはけ口がなくなる。俺はアンチの命を守ってるんやなって、本気で思っていますから。

――皇治選手のように受け止められる人はそう多くはないと思います。

 誰よりも見てくれているから、俺はブロックしたことがない。ブロックの仕方すら知らないですし(笑)。逆に俺は仲間やと思っています。誹謗中傷で亡くなる方のニュースを見たりすると、すごく思いますよ。悩む前に俺の所に来いと、勇気を与えますよ。

「俺はアンチの命を守っている」と語る皇治(写真・倉増崇史)
「俺はアンチの命を守っている」と語る皇治(写真・倉増崇史)

――ちなみにアンチはいつ頃から出始めたんでしょうか。

 幼稚園のときからですよ(笑)。友達を守るために、ある子とケンカしたときがあったんです。そしたら、その子は先生に「俺がいじめた」と言うんです。だけど、俺は何一つ先生にしゃべらんかった。仲間を守れたら、それで良かったから。昔も今もそういうタイプなんです。

――そうした性格は今も変わらない?

 俺のことを分からんやつは分からんでいいという性格は、今もそのままです。だから、俺のファンはすごく大事にしますし、ファンとの約束を守るために、K-1からRIZINに転向しました。俺のことを好き嫌い言うやつは、言うておけばいいし、真実は俺と仲間が分かっていたらいい。俺は昔から何一つ言ってることは変わってないんで。

「億は稼ぎますね、普通に」

――今後のことをお聞きします。一度は引退を示唆していましたが、7月15日のご自身のTwitterでは「俺は泥だらけになろうが人生突き進むしかない」などと書き込んでいました。

 人生は前向きに挑戦するしかないんで、それを綴っただけですよ。なのに、「現役続行」のようになっています。格闘技をするとは書いてないですから。ただ、ずっと応援してくださってるスポンサー、ファンを笑わせて終わりたいというのは強くありますね。

――今も模索中ということでしょうか?

 格闘技を続けるなら、騒がせられる方向に進みますし、やめるなら、きっぱりとやめます。ただ、15年間やってきたんで、いろいろ考えて、今はゆっくりしています。俺の中ではある程度決まっていますが、それを発言するのはもう少し先ですね。

――キックボクシングでは世界タイトルも奪取し、格闘技界でも名を馳せた今、引退の選択肢もあるのでしょうか?

 引退することも全然ありますよ。いくら「命を懸けリングで死ねたら本望」って言っても、やっぱりリングを降りて、生きていることにほっとするときもありますからね。この命を守るためには、引退ということも考えています。ただ、周りに恩返しをしたい。それは常に思っています。俺を信じてついてきてほしい。必ず喜ばせる。それだけは約束します。

様々なことに挑戦する原動力は「自分が臆病だから」という(写真・倉増崇史)
様々なことに挑戦する原動力は「自分が臆病だから」という(写真・倉増崇史)

――この先どのような人生を描いているのでしょうか?

 人生の目標は簡単に言ったら、格闘技で有名になって、青年実業家になって、お金を持つことなんですよ。きれいごとを抜きに、まだまだ俺はその途中で、今は格闘技というジャンルの中にいて、お金を持って有名になれれば、それだけでいいと思っていたんです。でも、ある試合を機に考えが変わりました。

――その試合とは?

 去年の大晦日に負けたとき、結果が欲しいと初めて思ったんです。これはマジです。もちろん今までの試合はすべて勝ちたいと思っていました。だけど、初めてお金はどうでもいい、結果が欲しいとすごく思ったんですよ。今は練習に集中できる環境にしているので、格闘技に関しては結果が欲しい。それがMMA(総合格闘技)なのか、ボクシングなのか、ラウェイ(ミャンマーの立ち技格闘技)という頭突きもある戦いなのか。俺がリングに上がることによって、絶対に知名度も上がるなら、それはそれで面白い。

――そうした原動力はどこから来るのでしょうか?

 俺が臆病だからなんです。「ちょっとゆっくりしたら」と言われるぐらい、ずっと仕事の話をしていますし、頭が休んだことは1回もないです。入院しているときも、アパレルブランドのことなどいろいろな計算をしていました。でも、俺は思ったんです。いくらお金を稼いでも、金持ちってケチじゃないですか。5億円、6億円、何十億円持とうが、やっぱり一緒なんですよ。魔裟斗さんも言ってたのですが、人間はお金が減ったら嫌なんですよね。何ぼ持っても一緒なんですよ。

――興味本位でお聞きしますが、1年にどれほど稼ぐのですか?

 億は稼ぎますね、普通に。

――片手以上ですか?

 それはやめておきましょうか(笑)。格闘家の中では、1位、2位を争うぐらい稼いでいるんじゃないかな。野球選手やサッカー選手に負けないぐらい稼いでいるというのを、俺はリアルに見せていきます。逆に日本って、そういうのを嫌がるじゃないですか。でも、嫌われることにビビっていたら、何もできないですよ。俺は俺の道をこれからも歩み続けるだけです。

東京都内に設立した自らが代表を務めるジム「TEAM ONE」の前で(写真・倉増崇史)
東京都内に設立した自らが代表を務めるジム「TEAM ONE」の前で(写真・倉増崇史)

■皇治(こうじ)

1989年5月6日生まれ。大阪府池田市出身。4歳から日本拳法と空手を始める。小・中学生時代には全国大会で活躍。キックボクシングでは初代HEATキックルールライト級王座やISKA K-1ルール世界ライト級王座などを獲得。2016年から打撃系格闘技イベントのK-1に参戦すると人気ファイターに。2018年12月の大阪大会では武尊と対戦して名勝負を繰り広げた。2020年7月、総合格闘技イベントのRIZINに電撃参戦。同年9月に那須川天心と対戦し、判定負けを喫した。2021年6月、「RIZIN KICK ワンナイトトーナメント」に出場し、1回戦で梅野源治とノーコンテスト(無効試合)、決勝で白鳥大珠に判定負け。戦績は28勝(10KO)15敗2分1無効試合。TEAM ONE所属。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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