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日本女子ツアーでもプレーしたキム・ヘリムが韓国の“プロキャディ”に一石を投じた衝撃発言とは?

金明昱スポーツライター
2017年の日本女子ツアーで1勝しているキム・ヘリム(写真・KLPGA提供)

 自らゴルフカートを引いてプロツアーの試合に出場するプロゴルファーはいないと言っても過言ではない。そんな珍しい光景が先週の韓国女子ツアーで見られた。

 その張本人は日本ツアーで1勝しているキム・ヘリムだ。2017年の日本女子ツアー「サマンサタバサレディース」で主催者推薦で出場した日本デビュー戦で初優勝したことで、日本でも注目を浴びた選手だ。

 7月2~4日に開催されたKLPGA(韓国女子)ツアー「メッコール・モナパークオープン」でプレーオフを制し、3年2カ月ぶりに優勝したのがキム・ヘリムだった。

 韓国ツアー通算7勝のベテランは、第1ラウンドで驚くべき行動に出た。キャディをつけずに自らカートを引き、7アンダーの「65」で単独トップに躍り出たのだ。

 第2、3ラウンドではハウスキャディを使ったが、その理由については天候が雨だったこともあり、「ボールとクラブを拭くことと移動以外は、キャディのアドバイスをもらっていない」と語っている。

 韓国紙「中央日報」によれば「正確な記録はないが、KLPGAツアーにキャディを使わずに出場した選手はキム・ヘリムが初めて」と伝えている。

 そんななかで優勝を手にした彼女だが、キャディを使わなかったのには大きな理由があった。優勝インタビューでこんなことを語っていた。

「キャディの役割がどれくらいのものなのか、競技力への影響はどれくらいなのかを知りたかった。長らく悩み、1カ月を準備した。キャディフィーを負担に思う後輩たちにも参考になると思う」

 キャディがいなくても、アドバイスをもらわなくても、勝てることを証明してみせた。

韓国のプロキャディは週給12万円?

 世界のツアーを見ても、ある程度賞金を稼ぐシード上位選手であれば、多少お金がかかっても専属のプロキャディをつけるのは当たり前の時代だ。

 ただ、予選落ちが続けば当然賞金は稼げず、ランキングも下位のまま。プロキャディにお金を支払ってまで戦うのは難しい。

「東亜日報」によれば、「韓国のプロキャディは1週間に120~150万ウォン(約12~15万円)を稼ぐ。スター選手のキャディは勝利ボーナスを含め、“億ウォン台(約千万円台)の年俸”をもらう。ハウスキャディにも一日に“25万ウォン”(約2万5000円)は支払わなければならない」という。

 では日本はどうなのか。プロキャディに聞いたところ、「選手のバッグを担いだ週は10万円。優勝したら獲得賞金の10%、トップ10入りで7%、予選通過なら5%で選手から支給されます」という。

 日本も韓国もプロキャディに支払う金額は、基本的には同じとみていいだろう。

 ただ、高い費用を支払っているからこそ、キャディもそれに応える働きをするのは当然で、選手の力になっているのは間違いない。

 重いバッグを担ぐだけでなく、ピンまでの残りの距離や番手の選択、グリーンのラインを読み、時には選手の話し相手になり、スムーズにプレーができるように気分を落ち着かせる。つまり、キャディが優勝に貢献するケースは少なくないと思う。

「お金を稼ぐためだけが目的のキャディに腹が立った」

 キム・ヘリムが強調したかったのは、これまで自身が経験したキャディの働き方についてだった。

「一部の“プロ(専門)キャディ”という方たちが、お金を稼ぐ目的だけに大会に来ているようで腹が立った。それでキャディを使わなかったのもあります」

 専属のプロキャディの中には、ツアー中に熱心に仕事をするキャディもいれば、そうでないキャディもいるということを伝えたかったのだろう。

 人と人が仕事をしているだけに、意見が合う時もあれば、ぶつかりあることもあるだろう。キム・ヘリムはむやみにキャディに頼らなくても、選手一人でもコースを攻略し、優勝もできると若い選手たちに伝えたかった。

「選手たちはゴルフをうまくなるために、たくさん練習しているだけに、キャディも選手の力になるためにもっと考えて仕事をしてほしい」

 これだけのことを意見するには、やはり結果がなければ納得できない。それを行動と成績で証明した彼女の“強さ”は健在だった。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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