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欧州や中東クラブから北朝鮮のサッカー選手はなぜ消えたのか。日本ではあり得ない衝撃の理由

金明昱スポーツライター
放出されたハン・グァンソン(アル・ドゥハイルの公式インスタグラムより)

 一体どこへ行ったというのだろうか――。

 今年1月に、セリエAのユベントスからカタールのアル・ドゥハイルに移籍し、貴重な戦力としてプレーしていた北朝鮮代表FWハン・グァンソン。

 アル・ドゥハイルといえば、かつて日本代表MF中島翔哉もプレーしていたカタールの強豪クラブで、昨シーズン(2019-20)も7度目のリーグ制覇を果たしたばかり。そんなチームでハンは、合流間もなくして、チームの得点源となり優勝に貢献していた。

 もちろん今季(2020‐21)もスタートしたばかりのリーグに出場していると思っていた。しかし、クラブの公式サイトやインスタグラムを確認したところ、ハンの名前と写真がないのだ。

 昨季の活躍からして、クラブがいきなり放出するのはおかしい。そもそも、ハンの契約は2024年6月30日まで残っていた。なのに新シーズンに登録された30人のメンバーの中に名前と写真がないのは、他に理由があるに違いないと思った。

 周辺事情に詳しい人物に聞くと、おおよその見当がついた。

 それは移籍金や年俸の交渉のもつれのような選手の実力とは関係がないことだった。クラブ側はやむなくハンを放出せざるを得なかったようで、その理由は「対北朝鮮制裁」にあるという。

 国連安全保障理事会では、加盟国内の北朝鮮労働者を送還するよう求める対北朝鮮制裁決議が採択されており、その流れでハンには労働ビザが発給されず、チームを離れたようだ。

 ちなみにハンはアル・ドゥハイルと5年契約で、年俸は1億円とも言われていた。そうなるとほとんどの人たちは、想像の世界でこう思うのだろう。

「その大金は核やミサイル開発に流れている」――。筆者もその真偽を確かめる術はない。

 ただ、彼が手にした契約金は実力の対価でもある。そこまで深入りして、勘繰る必要があるのだろうか。

昨季7度目のリーグ優勝を果たしたアル・ドゥハイル。8月まではハン・グァンソンの写真も載っていたのだが…(写真:アル・ドゥハイル公式インスタグラムより)
昨季7度目のリーグ優勝を果たしたアル・ドゥハイル。8月まではハン・グァンソンの写真も載っていたのだが…(写真:アル・ドゥハイル公式インスタグラムより)

他国クラブへの移籍は難しく

 ハンは2017年にはセリエAのカリアリでデビューしゴールも決めた。ビッグクラブのユベントスが獲得に乗り出したほどの逸材で、22歳とまだ若く、将来を期待されるストライカーでもあった。

 少しずつだが、カタールで確実に成長を遂げていた。だが、思わぬ形で帰国を余儀なくされてしまった。

 他国リーグのクラブが獲得を狙っていたというが、なかなかチームが見つからないとも聞く。現在は所属チームのない宙ぶらりんの状態だ。

 また、オーストリア1部のSKNザンクト・ペルテンでプレーしていた北朝鮮代表FWのパク・クァンリョンも、退団を余儀なくされた。

 EU(欧州連合)内で収入がある北朝鮮国民は、国連安保理の制裁決議と関連し昨年12月まで帰国するように通達されていた。

 ちなみにSKNザンクト・ペルテンは昨季(2019-20)リーグ最下位だったが、パク自身は5得点をマーク。チームに残留する可能性が高かったが、契約満了と同時にハンと同じく労働ビザが発給されなかったという。

 彼らは自分たちの意思とは別のところで、プロサッカー選手としての夢を断たれてしまっている。

 もちろん母国に戻り、サッカーを続けることは可能だ。ただ、欧州でも十分戦える選手だけに、大きく成長する機会を奪われるのは悔しいに違いない。

 こうしたニュースに接するたび、北朝鮮のサッカー選手たちを取材し、素性を知る立場としては悲しい思いにさせられる。

 北朝鮮のサッカー選手たちはみな、欧州や有名クラブ、ワールドカップで純粋に活躍したいと思う選手たちばかりだ。

 現実とはいえ、アジアから新たな才能が埋もれていくのを見守るしか術はないのだろうか――。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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