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“新人・森田理香子”を宣言した女子ゴルフ元賞金女王の葛藤と苦悩、新たな挑戦へ

金明昱スポーツライター
2018年の女子ゴルフツアー開幕戦に主催者推薦で出場する森田理香子(写真:ロイター/アフロ)

 “早熟”や“遅咲き”といった言葉で、スポーツ選手を表現することがある。

 女子プロゴルファーの森田理香子は、2013年に初めて賞金女王になった。当時23歳。プロ5年目で勝ち取った頂点の座だ。

 2018年シーズン開幕を前に、森田理香子と都内で会い、話を聞く機会があった。彼女にとっては当時、賞金女王になったことは想定外の出来事だったという。

「正直、23歳での賞金女王は想定外でした。優勝して、また優勝して、『次は賞金女王ですね』って周囲から言われて、『ああ、賞金女王っていうのもあるんだ。じゃあ目指してみようかな』という感じでした」

 自分でも“早熟”だったと感じたのだろう。それでも、実力で勝ち取ったのも事実で、そのあとも森田の躍進を期待しているファンも多かったはずだった。

 14年は1勝して、賞金ランキングは16位と面目を保ち、15年は未勝利だったが、シードは獲得した。

 ただ、少しずつゴルフが空回りし始めたのが16年だった。同年は賞金ランキング69位でシードを落とし、17年も同89位でシード圏外へ。さらに同年のQTもセカンドで敗退して、ツアー出場権を完全に失った。

 森田は、それでもゴルフを続けている。シード獲得のチャンスがある限りは、まだ諦めていない。

 というのも、国内女子ゴルフツアーでは今季からリランキング制度が導入されたからだ。

 賞金シード(賞金ランキング50位)から漏れた次点の5人、ファイナルQT上位約40人らの出場優先順位を獲得賞金額で見直すもので、年に2回実施される。第1回はダイキンオーキッドレディスからアース・モンダミンカップまでの17試合。第2回は開幕戦からミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンまでの29試合の獲得賞金額で出場優先順位を決める。

 つまり、森田も前半戦の成績次第では、後半から出場権を得られるわけだ。

「結果を残せるか不安はある」

「シードを取るという考えはいつもしています。ただ、どうなるのかわからない、というのが本音です」

 一呼吸おいて、森田が続ける。

「今もまだ自信はないですよ。全然ないです。もうどうなるんだろうっていう感じです。ゴルフの技術に関する悩みは全くないんですけれど、今まで成績を残せてない分、残せられるのかという不安があります。アンダーパーが出せていないですから。万全の準備をしても、結果が残せるかというのはやっぱり不安はありますよね」

 新シーズンを迎えても不安が消え去ることはない。それでも森田は前に進むしかない。

 今年のオフは、「4スタンス理論(※)」を提唱する廣戸聡一氏の合宿にも参加し、ドライバーショットの改造に取り組んだ。新たな自分に変わるためでもある。

※施術家で日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフでもある廣戸聡一氏が提唱する理論。人間の身体特性には4種類あり、タイプに合った身体の動かし方をすることでパフォーマンスの効率が上がるというもの。A1(つま先・内側)、A2(つま先・外側)、B1(かかと・内側)、B2(かかと・外側)の4つのタイプがある。

「長くゴルフをしていると、試合に勝つタイミングや人との出会いもタイミングがあって、そういうのも縁ですよね。変わりたいと思っているときに、そういうチャンスが転がり込んでくることもあります。『これじゃなきゃダメ』と決めず、広い目で物事を見られるようにはしています」

 成長していくために必要なものは、積極的に取り入れていこうという意欲はある。

復活を望むファンの声

 あとはしっかりと結果を残していくだけだ。森田が再び躍進する姿を見たいファンは確かに多い。

 森田に「復活を望んでいるファンがいると思います」と伝えると、「復活って言葉をよく言われるんですけど、もう復活という感じでもありません。今年からは新人・森田で行きます。もう過去の私は忘れてもらってください(笑)」と笑う。

 少し何かを考えて、森田は若いときの自分と、今の自分を比較してこんな話をしてくれた。

「若い時はゴルフだけしていればよかったんですけど、歳を取ってくるとゴルフだけじゃなくて、色んなことしなきゃいけないですよね。これまで賞金女王っていう肩書が、自分をすごく混乱させてきていました。上手くなりたいとか、もっと良くなりたいという気持ちがあるからこそ、周りの声もすごく耳に入ってきたりもします。今までは自分に自信がなくて、あれもいいな、これもいいなと迷ってしまっていたんですけど、今年はそれがなくなって、『これをやっていれば大丈夫!』っていうのが自分の中で固まったことはすごく大きいです」

 周囲の様々な声や情報に惑わされず、期待されることにもとらわれず、心機一転、デビューしたころのような気持ちでゴルフと向き合うことを決めた。

 ”新人・森田”は今年28歳。まだまだゴルフを諦める年齢ではない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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