Withコロナ時代のエンタメには可能性しかない リモート表現を切り拓くプロデューサーの自信

劇団ノーミーツ「むこうのくに」宣伝ビジュアル 撮影からデザインまですべてリモート

これならクラスターは絶対ない。世界各国どこからでもアクセス可能。Zoomを使って誰一人対面することなく2時間の配信演劇(有料)を行い、わずか4公演ながら初回と最後で観客が4倍に跳ね上がり追加公演も行った劇団ノーミーツ。テレビ界では野木亜紀子やテレビ東京の佐久間宣之など一流の脚本家やプロデューサーの目にも留まり、映画界では「カメラを止めるな」の上田慎一郎監督が注目。歌舞伎界からも声がかかって、俳優・松本幸四郎の「図夢歌舞伎」にも技術協力することに。コロナ禍で映画もドラマも演劇も今までどおりにできなくなったとき、劇団ノーミーツは二十代という若さゆえのフットワークの軽さで新たな可能性に移行した。第2回公演には、声優、YouTuber、TikToker、ミュージカル俳優、小劇場俳優など第1回公演以上に様々なジャンルの俳優が集結している。主宰のひとりで主に映像を専門とする林健太郎に聞いたリモートエンタメの可能性。やっぱりZoomで取材しました。

劇団ノーミーツ「むこうのくに」宣伝ビジュアル
劇団ノーミーツ「むこうのくに」宣伝ビジュアル

今、大変なときにリスクある挑戦をするのが僕ら若者の使命だと思う

Q:第1回公演後、周囲の反応はいかがでした?

:劇団ノーミーツは、長編公演を行う前にTwitterで「140秒動画」という短編作品を上げていたため「バズ動画集団」(バズる動画を作っている集団)と認識されていました。しかし第1回長編公演「門外不出モラトリアム」の発表をきっかけに、「逃げ恥」脚本家の野木亜紀子さんや、テレビ東京の佐久間宣之プロデューサーをはじめとするエンタメ業界の著名人の方々に一つのエンターテイメントの形として評価していただきました。また、松竹さんにお声がけいただき、脚本、演出の小御門優一郎が、今、松本幸四郎さんが行っている「図夢歌舞伎」(Zoomで歌舞伎を制作配信している実験的な作品)の演出助手として入り、劇団ノーミーツも技術協力という形で関わらせて頂いております。演劇界の方にも注目していただき、第2回公演「むこうのくに」にはキャラメルボックスの俳優の方(鍛治本大樹さん)にも参加頂きました。

Q:「劇団ノーミーツ」は「劇団」と付いていますが、Zoomを使った映像制作集団のような印象もあります。

: いわゆる「劇団」とはすこし毛色が違うのかなとは思います。劇団ノーミーツの劇団員は現在、計13人(主にスタッフ、俳優はひとり)。その中で、劇作家として演劇をメインでなりわいとする者は、脚本、演出の小御門のみです。僕は、普段は映画会社の社員として働きながら、フリーランスとしても映画や映像作品を制作しています。他のメンバーも、広告系クリエーターやフリーランスのデザイナーなど、多様な業界の人たちが、コロナ禍のなか、何かできないかと集まり、現在のチーム構成になりました。

Q:年齢層は。

:平均年齢は26歳。僕も26歳です。俳優、スタッフ含め20代が多く、かなり若いチームになっています。エンタメ業界の方々は、イベント、公演、上映等、多くの企画が中止になり、調整ごとに追われ、現状維持するだけでも大変だろうと予想できます。そんなとき、リスクをとり未開拓な分野に挑戦することが、純粋にチャレンジできる時間と体力がある僕たち若者の使命だと思っております。

フルリモートを貫き通すか、今後の課題

Q:コロナ禍きっかけに集まり、感染防止のため、誰とも会うことなくZoom経由で全部やっているそうですね。

:企画、オーディションから制作、上演・配信まですべて、Zoomを利用し行っております。具体的なところでいうと、今回の第2回公演の宣伝美術は野外で撮影したのですが、流れとしては、まず役者の方がiPhoneと三脚をセッティング。それをZoomで、カメラマンやデザイナーがチェックし、ディレクションしたうえで自撮りして頂く。素材はLineで送ってもらい、OKカットをデザイナーが加工し完成。キャストビジュアルを15種類、すべてリモートで制作しました。

Q:今また感染者が増えているので自粛ムードが漂いはじめていますが、自粛が解除され会える状況になった時期にも劇団ノーミーツは会ってないんですか。このままコロナが収束しても会わないことをルールにするのでしょうか。

:第2作目まではフルリモートでやろうと決めていますが、それ以降に関しては、ちょうど今、議論しているところです。リモートは便利かつ可能性を感じる一方で、やはり現場でのものづくりや直接の打ち合わせには叶わない、もどかしさもあります。なので今後このメンバーでは、リモートとリアル、それぞれの良さを生かし、時代に合わせた最適な創作を行ってく集団を目指したいと思っております。ただ”会わずにつくる”という縛りにも面白さと可能性を感じているため、劇団ノーミーツとしてはフルリモート創作を続けていくかもしれません。

いち早く、有料配信した理由

今まであった演劇でもないし映画でもない、新しい表現に真っ先にトライされた集団であることが非常に面白いです。2時間で2,500円という有料配信にして、無料の配信も多いなか5,000人が見た。小劇場だったら5,000人は結構な動員です(例えば、ムロツヨシは、ムロ式という演劇公演のシリーズを12年前にはじめたとき、観客は1000人いかなかったとコロナ禍のインスタライブで振り返っていた。1000人、3000人と増やして、9、10作目で1万人だったとか)。これが映画だったら5000人はどうですか。

:例えば商業映画の場合、数億円の製作費をかけた作品は、一般的に10億円近くの興行収入を目指します。その場合、約100万人の動員が必要となるので、5000人では到底ビジネス的な成功にはなりません。一方でリモート演劇の場合は、劇場をレンタルせず、各スタッフキャストの自宅から上演するため、制作と興行のコストを抑えることができます。また席数の上限も無い為、その分見込める収益をキャストスタッフへのギャランティや新しい表現の為の製作費用に回しつつ、ビジネスとしても成立させることが可能です。第2回公演は、新しい興行形態としての挑戦の意思を込めて、一般料金2.800円に設定しました。

Q:劇場で映画館に行くよりは高価、演劇よりは安価。この価格設定の根拠は。

:第1回公演の時に、無料にするか、有料にするか、かなり議論をしました。結果的に有料にした理由としては、オンラインでの演劇でもなりわいにできる可能性を提示する為です。最近は有料での公演も増えてきましたが、僕らが第1回公演を行った時(5月下旬)は、有料でのオンライン演劇はほぼ存在しておらず、ましてや2,500円ぐらいの価格は稀でした。ですから、ある種、自分たちの価格設定がスタンダードになるかもしれないという覚悟を持って、映画の1,900円ではなく、あくまでも生配信の演劇であると思いを込めて、2,500円にしました。スタッフは全て有名人ではない若手、出演者はすべてオーディションのキャストの方々なので、この設定で成功することに、正直何の確証もありませんでした。しかし、逆に、こういう挑戦が行えることこそが、インディペンデントの強みだと思いました。

劇団ノーミーツ 過去作より
劇団ノーミーツ 過去作より

演劇がなりわいになる可能性

Q:第1回公演は動員がどんどん増えて盛り上がりました。

:最初は全公演で1,000人動員が大目標でした。しかし、その目標は初日の公演前時点で達成。その後も口コミにより加速度的に広がっていき、最後、追加公演が終わった時には5,000人動員となりました。公演が始まってから、4倍近い数字が動いたことになります。SNSでの口コミの広がりやすさは、PC、スマートフォンから鑑賞するスタイルであるオンライン演劇の強みだと思いました。

――演劇は食べられない(生活ができない)と言いますがその前提を変えられるかもしれない?

:前述の通り、オンライン公演は劇場での公演と違い、基本的にキャパシティーの上限がありません。他にも、自宅の画面前で、ご飯を食べたりお茶を飲んだりくつろいだりしながら見ることができる新しい鑑賞スタイルは、これまで小劇場の演劇を観ていなかった人を取り込むチャンスにもなります。演劇を発信していく新しい手段として浸透することで、少しずつ業界は拡張すると、その一端を担う者として、信じています。

Q:YouTuberがふいにメジャーになるようなことが演劇でも可能ということでしょうか。

:オンライン演劇、の中でもリモート演劇に感じる可能性として、前述のビジネス的な側面に加えて、スマホ1台あれば誰でも発信できる手軽さがあります。劇場で公演を打つとなると、ブッキングの時点でかなりのハードルがありますが、いきなりそのチャレンジはちょっと、、、と思っている役者や作家の第一歩として有効だと思います。LINEやTwitterで仲間を集めて、Zoomで繋いで制作し、Zoomから上演できるので。また、YouTuberやTikTokerなど既にオンライン上で表現を生業にしている人たちが芝居に挑戦する一歩目としても可能性を感じております。自分はこれまでYouTuber、TikTokerの人たちと何作か一緒にものづくりを行ってきましたが、彼ら彼女らはオンライン上での表現や喋りを追求し、自己プロデュースにも余念のない、プロの表現者であり、その職能は役者や脚本家などにも派生していくと思いました。その中で、オンライン演劇であれば普段彼ら彼女らが活躍している土壌の延長の感覚で行うことができ、興行的にも成功しやすいのでは、と。まだ発展途上のジャンルではありますが、役者、作家として表現する間口が広がり、表現者の人口が増え、演劇や映画がより身近な存在になったら最高ですね。

今回、オーディションで集まったキャストの中にもYouTuberやTikTokerなど様々な背景の方が参戦し、演劇が初めての人たちもいます。そこに演劇集団キャラメルボックスや虚構の劇団、柿食う客などの最前線で活躍している演劇人が加わり、それぞれの知見からオンライン上での表現について議論を交わしていく。そういったある種の異文化交流も生まれています。(※「けものフレンズ」の声優、尾崎由香や、「レ・ミゼラブル」などに出演するミュージカル俳優・青山郁代なども参加)

Q:見る側としても新しい俳優に出会えたのも意義深かったです。

:第1回公演では、ヒロインで演劇初主演の方(夏海さん)を抜擢させて頂きました。Zoomの稽古のみで本番までに急成長し、リモートだけでも演技力が上がることが分かり痺れました。ちなみに第二回公演の主人公も、演劇初主演になります。それまでスポットが当たらなかった新しい才能を発掘、発信することも、劇団ノーミーツのミッションの一つだと思っております。

オンラインオーディションでは俳優のここが問われる

Q:林さんの過去の作品をネットで拝見したら、女の子のほとばしる瑞々しさみたいなものを捉えていると感じたのですが、Zoomという限られた画角のなかでもそれが可能と考えていますか。

:僕がプロデューサーとして一番やりがいを感じる瞬間は、役者スタッフ限らず、創作の過程で自身の殻を破る瞬間、ブレイクスルーする瞬間を目撃した時です。無理かもしれないハードルや制約を前に、役者とスタッフがそれぞれのクリエーションをぶつけ合うと、時として眠っていた能力が発揮されます。そのワクワクが、大変と言われている作品制作を続ける原動力であり、もしかしたら、自分の企画作品の共通項として感じて頂いた”瑞々しさ”の要因かもしれません。

Zoom演劇は、制約だらけです。画角も限られており、対面で芝居をつくり上げることもできない。映画づくりと演劇づくりの難しさ両方どりです。しかし、だからこそ、一プロデューサーとして可能性を逆に感じてしまうところはあります。制約が大きければ大きいほど、それを突破したときには大きなエネルギーとなる。前回2時間の長編リモート演劇に初挑戦したのも、そういう感覚的な確信があったからでした。それだけ長いものはまだ誰もやってないし、普通に考えたら失敗しそうなことにこそ、トライしたかった。2作連続でオーディション形式にした理由は、この泥船に一緒に乗って最後まで駆け抜けてくれる人に出会いたかったからです。1作目は200人、2作目は400人の方の応募者の中から、この方々とならば、と思える方を選ばせて頂きました。

Q:オンラインオーディションで輝く人は対面とはまた違いますか。

:これまで2回、オンラインオーディションをやってみて、本質的には変わらないように感じました。強いて言えば、オンライン上のほうがよりシビアに、その人の本質が見える気がします。オーディション中、キャストの方々はずっと寄りの画角で映り続けるので、集中力が問われます。またちょっとした仕草に心を配っているかも直ぐにわかってしまいます。これは従来の演劇的な表現とはまた違う部分もあるので、今後は、オンラインオーディション、オンライン演劇だからこそ力を発揮できる人も、もしかしたら出てくるかもしれません。前回のメインキャストの一人であるHKT48の田島芽瑠さんは、アイドル活動の経験を活かしたアドリブ演技がとても巧みでした。

Q:オンラインだとどうしてもアップが多くなりますから、表情が重要になるんでしょうか。

:劇場で行う演劇よりも表情が見られている、という意識は大事だと思います。前作の鑑賞者の中には、冒頭からクライマックスまでほぼ全部アップで俳優の表情を見ることができる演劇と考えたら、とてもお得じゃないか、と感想を頂いた方も。オンライン演劇の魅力の一つとなっているのかもしれません。

帝劇ミュージカルなどでは、表情を見るためにオペラグラスを使いながら鑑賞される方も多いですよね。そう考えると、この状況があけた後でも、”生を体感する為の劇場で楽しむ演劇”と”自宅から寄りの表情を楽しむオンライン演劇”は、両者の良さを活かしながら共存できると思います。

Q:そういう意味ではリモート映画ではなくリモート演劇としたことで可能性が広がっているとも考えられそうですね。第1回公演「門外不出モラトリアム」はほぼ部屋のなかで俳優のアップが多いにもかかわらず青春の瑞々しさを感じました。第2回公演「むこうのくに」はどんな内容になりますか。

:「むこうのくに」はオンラインコミュニケーションをテーマにしています。企画のきっかけは、自由でもあり不自由でもあるSNSに対する違和感。少し先の未来、TwitterをはじめとしたSNSがより拡張され、ZoomとSNSが合体したようなオンラインシステムがもう一つの日常となった世界の話です。夏の終わりの締め括りとして、ぜひご自宅から、ご観劇ください。

Profile

Kentaro Hayashi

1993年生まれ。映画プロデューサー、映像監督。プロデューサー作品として映画『書くが、まま』(MOOSIC LAB2018観客賞)、『根矢涼香、映画監督になる。』、ショートフィルム『純猥談 触れた、だけだった』。欅坂46個人PVの企画脚本などがある。

画像

むこうのくに

2020年7月23日(木・祝)~7月26日(日)4日間

特設サイトにてオンライン生配信上演

一般チケット:2,800円 RT割引チケット:2,500円

U18チケット:500円

公式サイト

取材を終えて

コロナ禍、NHKで放送された「あたらしいテレビ 徹底トーク2020」(5月10日放送)という番組で脚本家の野木亜紀子が劇団ノーミーツに注目していると語っていて、彼らがつくった短編が少し流れたのだがZoomを使った会話劇に終わらず意外なアイデアがあって目を奪われた。彼らが長編演劇を配信するというので見てみると、それはコロナ禍、ステイホームが当たり前になり大学で一度も会わずに卒業する生徒たちの青春もので、ほとんど家のなかであれこれ語り合っているだけにもかかわず叙情性があって、いわゆるエモく、SNSを騒がせていた。自転車で女子高生が疾走しなくても、雨のなかで叫ばなくても、屋上で風に吹かれなくても、アニメみたいに男女が手をつないで空を飛ばなくても、青春は描けるのだと思った。

第2回公演が発表された頃、松本幸四郎の「図夢歌舞伎」を見たらこれまた劇団ノーミーツが関わっていた。いわゆる歌舞伎では絶対見ることのできないアングルがあったりして新鮮だった。どんな人がどんな想いでやっているのだろうと思って取材を申し込んだ。その時期は自粛も明けて対面取材も増えていたのだが、林さんは当たり前のようにZoomを指定してきた。Zoomで現れた林さんはモノクロでアングルも考え抜かれていた。さすが映像畑の人である。

「第1回公演では、普段、演劇が身近ではない人たちにたくさん観て頂けたので、ネットの文脈を活かすなど時代に即した発信を行えば、小劇場やミニシアターでやっているような作家性の強い作品も、もっと多くの人に届く可能性があるのではないかと、無邪気に思ってしまうんです。もちろん課題も山積みですが!」と言う林さん。これは演劇じゃないという声もあるというが、それは仕方ないこと。生の演劇とは違うけれど、演劇や映画の形式ではなく、瞬間の人間の美みたいなものを見るものに手渡してくれることには変わらない気が私はした。Zoomの画面にもっと変化をつけようと技術的な試行錯誤もしていると言う。なにより2時間、物語を作ることはすごい。まだ配信用の作品は1時間くらいのものが主流である。大胆な挑戦をする二十代の若者たちの挑戦をしばし見つめていたいと思う。