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福祉番組「バリバラ」を担当していたPが作った、障害のある俳優たちが出演するドラマ「パーセント」の本気

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
右から、南野彩子プロデューサー、伊藤万理華さん、和合由依さん 写真提供:NHK

BBCを意識して

今日(5月11日)からはじまる土曜ドラマ「パーセント」(NHK)を、すでにBS4Kで見たかたもいるだろう。新人ドラマプロデューサー吉澤未来(伊藤万理華)と車椅子に乗った高校生・宮島ハル(和合由依)との交流を描くヒューマンドラマだ。

一足先に第1話を見たが、これがガチでグッとくる。インナージャーニー「きらめき」のメロディも相まって、なんだかすごく心が熱くなるのだ。強烈な人間力のぶつかりあいを感じるドラマ。おすすめしたい。

第1回試写会のあと行われた主演の伊藤万理華さんと和合由依さんと南野彩子プロデューサーの会見も、ちょっとしたハプニング性にあったかい気持ちになり、そこも含めてすごくよかったのでぜひお伝えしたいと思う。

ドラマでは「多様性月間」キャンペーンが行われる

ローカルテレビ局・Pテレのバラエティ班でAPをしている吉澤未来は、ほんとはドラマ班志望。あるとき出したドラマの企画が通った。が、喜んだのもつかの間、編成部長(橋本さとし)に、局の「多様性月間」キャンペーンのひとつとして、主人公を障害者に変更できないかと切り出された。

思いがけない条件に悩んだ未来は、車椅子に乗った高校生・宮島ハルと出会う。ハルは俳優を目指しているが、「障害を利用されるんは嫌や」と首を縦に振らなかった。

「障害のある俳優のかたがたとドラマを作ることはどういうことなのかと話し合って作った作品です。多くの人に見てほしい」と南野プロデューサーが語るように、ドラマには実際、障害のある俳優がたくさん出演している。皆、はじめて見る方々であるが、ひとりひとりが、その街に生きる生活者としてとても魅力的に見える。

また、テレビ局のドラマ制作の裏側が、ドラマ「あるある」のような感じで盛り込まれているところも楽しく見られる。

第1回は、ドラマ出演をオファーしたハルにそっけなく断られてしまった未来のヒリヒリ感から、やがてハルの内面を知ろうとすることで、未来が自分をさらけ出していくことにもなる心の動きの生々しい手触りに、ぐいぐい引き込まれる。

パラリンピック開会式で鮮烈だった和合由依さんの起用

映画賞の新人賞も数々獲得する注目の新鋭・伊藤万理華さんと、東京2020パラリンピック開会式で鮮烈な印象を残した和合由依さんがとても瑞々しい。

ふたりを起用した南野さんは、まず伊藤さんの演技について「感情が画面の外にまで伝わって、見ている人が共感できます。未来は壁にぶち当たっても突破する力が必要な役なので、伊藤さんにぴったりだと思い、便箋4枚にもわたる出演依頼の手紙を書きました」と語った。伊藤さんはその手紙に心打たれたそうだ。

和合さんについては「パラリンピックのパフォーマンスを見て、すごい人が出てきたと印象に残っていて」と言う。「障害のある俳優さんたちにオーディションを受けてもらったなかに、和合さんがいました。パラリンピックではセリフがなかったけれど、オーディションでは最初の自己紹介から圧倒される話術でした。セリフのある芝居がはじめてにもかかわらず、すごく堂々としていて、朝ドラヒロインのようにきらきら光っていました」

和合さんは今回の役を「自分に見えないといいなと思って」演じたそうだ。「ハルと私は同じ障害をもっていて性格もかぶるが、私の要素をなくすことを考えました」と言う。

実際、試写を見たあとで、会見で和合さんを見たら、ドラマとは全然違っていた。ドラマでは、鋭い目つきで未来に警戒心をもっているふうに見えるが、会見では全身から明るいエネルギーを発して、他者とコミュニケーションをとろうとする意気込みを感じた。

「はじめて会ったときから、物怖じしないし、誰とでもフラットに話す人。わたしは由依ちゃんに出会って、未来の気持ちになれました」と伊藤さん。

「現場では、はじめてのセリフのあるお芝居で、不安もあっただろうけど、それよりもお芝居する喜びを大事にしていて、芝居する瞬間にぱっと光が見えた。こんな瞬間に立ち会えて幸せと思ったと同時に、自分がはじめて芝居したときの感覚を思い出しました」と伊藤さんが語ると、和合さんが「ちょっと待ってうれしすぎる」と素直に喜び、伊藤が「ほんとよ」とさらに続ける、そのやりとりも、自然でほっこりした。

撮影を通して友情を育んだ伊藤さんと和合さん 写真提供:NHK
撮影を通して友情を育んだ伊藤さんと和合さん 写真提供:NHK

会見というのは、基本的な質問に終始しがちなのだが、一旦、会見が終了し、写真撮影をするため会見場から退場した3人が戻ってきてもう一回話をはじめるという意外な展開があった。

伊藤さんがUFOキャッチャーの練習でとったものは

追加会見(?)では、関西出身でない和合さんに、関西弁の課題を託し、8月〜11月まで関西弁の猛特訓をしたこと。伊藤さんにはUFOキャッチャーの練習をしてもらったことなどが語られた。会見の最初はやや緊張していた3人がここではリラックスしていた。

伊藤「私はUFOキャッチャーにハマる奥深さを知らなかったのですが、やってみてわかりました。大人もハマります。じつはこれ、南野さんの趣味なんですよね。それをドラマに生かした(笑)。本読みのあとでゲーセンに行って、由依ちゃんの好きなキャラをとって、プレゼントしたことがコミュニケーションの第一弾でした。UFOキャッチャーがメインのシーンもあるので注目してください」

南野「補足させていただくと……」

和合「補足(笑)」

南野「好きなことは事実とはいえ、私の趣味を出したかったわけではないんです。ドラマではデートのシーンでUFOキャッチャーがよく使われることはあります。たいてい、女の子が男の子にとってもらうものになっているので、今回、未来のパーソナリティを感じさせる場面として、得意であることをあえて描いてみました」

伊藤「『パーセント』を見て、ご覧になる皆さんが生きるうえで壁にぶつかったとき、人生を振り返って、あこがれのものに出会ってときめいた瞬間、何かを目指していた瞬間を自分は何をやりたかったのか、思い出してほしいと思います」

和合「撮影が終わって、大阪から東京に帰るとき、新幹線のなかで、ドラマの撮影で経験したことを決して忘れたくないと思いました。そんな思い出をつくることができて幸せでした」

とても自然体で、かつ真摯で、とても気持ちのいい会見で、その感覚がドラマにそのまんま生きていると感じる。

さて。南野さんはドラマ部に異動する前は、バリアフリー・バラエティー「バリバラ」を担当していた。

「そのとき、障害のある俳優さんが当たり前にドラマに出たらいいなと思っていましたが、ドラマ部に異動していざ、エキストラを集めるとき、車椅子の男性の履歴書を見て、自分が選ぶ当事者になったとき、移動や着替え、バリアフリーの問題、どこまで対応できるかで立ち止まってしまいました。福祉番組をやってるときはできたらいいのにと思ったことが、いざ自分が行う当事者になると迷うことにはがゆさを感じて、障害のある俳優を迎える現場をまず作りたいと思いました」

まずは出演者、ひとりひとりにヒアリング、必要なもの、やってほしいことほしくないことなどを確認した。ロケ地選びにも気遣い、車椅子が使いづらそうなところにはスロープをレンタルしてとりつけるなどした。スタッフとして手話通訳と視覚障害のガイドヘルパーに参加してもらっている。予算が潤沢にあるわけではないので、スタッフの知恵と工夫で乗り越え、毎回、改善点を適宜アップデートしていったと南野さんは撮影を振り返った。

「パーセント」というタイトルに託したものは。

「BBCでは22年から、障害のあるかたや女性の起用を何%と目標を立て、達成しているという記事を読んで、NHKでも%をいれてみたら変わるだろうかと妄想してつくった企画です。日本でも女性管理職を2030年までに30%以上という目標が掲げられていますが、ただ数合わせで選ばれても選ばれるほうも嬉しくないですよね。もっと数で測れないその人固有の魅力や存在意義にフォーカスしたいと、『パーセント』というタイトルをつけて、それぞれ生きる人達に焦点を当てた物語を作りたいと思いました」

土曜ドラマ「パーセント」
放送予定:総合 2024年5月11日(土)よる10時~ 放送開始<全4回> BSP4K 毎週土曜日 午前9時25分~ [再放送]総合 翌週水曜日 午前0時35分~
:大池容子
音楽:池永正二
主題歌:インナージャーニー「きらめき」
出演:伊藤万理華 和合由依 結木滉星 菅生新樹 小松利昌 山下桐里 成木冬威 水口ミライ 河合美智子 / 岡山天音 菊池亜希子 / 山中崇 橋本さとし 余貴美子 水野美紀 ほか
制作統括:櫻井賢 安達もじり
プロデューサー:南野彩子 葛西勇也
演出:大嶋慧介 押田友太

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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