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680日ぶりのトランプ氏Twitter復活、広告主・社員の離反で「イーロン・リスク」の行方は?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
マスク氏は、トランプ氏の永久停止アカウントを680日ぶりに復活させた(写真:ロイター/アフロ)

イーロン・マスク氏が19日、ドナルド・トランプ元米大統領の永久停止アカウントを680日ぶりに復活させた。

マスク氏はその前日、停止されていた別の3つのアカウント復活も明らかにしていた。

トランプ氏は以前からツイッターには戻らない、と公言しており、今回も自らが立ち上げたソーシャルメディアにとどまるとしている。

ただ、復活したトランプ氏のツイッターアカウントは、プロフィール欄から自らの次期大統領選用サイトにリンクするなどの動きも見せている。

ツイッターをめぐってはすでに広告主の離反も広がっており、その後押しをする人権団体は「今すぐ広告停止を」とアピールを強める。

ツイッターは買収当初の社員数約7,500人の半数がリストラされた上、さらにマスク氏の運営方針を受け入れない1,200人以上の社員の辞職が明らかになっている。

広告主と社員の離反の先に、マスク氏はどのようなツイッター運営を描いているのか。

●ツイッターアンケートを受けて

人々の意見は示された。トランプ氏(のアカウント)は復活する。民の声は神の声(Vox populi, vox dei)。

マスク氏は11月19日の午後4時53分、そうツイートし、トランプ氏のアカウント復活を明らかにした。

前日からトランプ氏のアカウント復活をめぐるツイッター上のアンケートを実施。1,500万超の投票で、賛成51.8%、反対48.2%という結果を受け、アカウント復活を実施したようだ。

トランプ氏のアカウントは、2021年1月6日の米連邦議会議事堂乱入事件の2日後に「永久停止」となった。

※参照:FacebookとTwitterが一転、トランプ氏アカウント停止の行方は?(01/08/2021 新聞紙学的

※参照:Twitter、Facebookが大統領を黙らせ、ユーザーを不安にさせる理由(01/12/2021 新聞紙学的

この事件を巡っては、5人の死亡者と140人以上のけが人を出し、すでに900人以上が起訴されている。

その米国史上空前の事件が直接の原因となった永久停止から、680日ぶりのトランプ氏のアカウント復活となる。

トランプ氏は4月にマスク氏のツイッター買収の動きが表面化して以来、たとえアカウントを復活させても自らが立ち上げたソーシャルメディア「トゥルースソーシャル」を使い続けると表明してきた

ロイター通信などによれば、アカウント復活に先立って開催されていた11月19日のイベントで、トランプ氏は改めて「(ツイッターに戻る)理由が見当たらない」と明言したという。

「トゥルースソーシャル」のトランプ氏のアカウントには、457万人のフォロワーがいるという。

永久停止前、トランプ氏のアカウントには8,800万人以上のフォロワーがいたが、復活したアカウントではフォロワーはいったんリセットされたようだ。だが、マスク氏はフォロワーも復旧させるとしている。

マスク氏がアカウント復活を表明してから7時間あまりが経過した、日本時間の11月20日午後5時半すぎには、フォロワーは1,000万近くに達した。

新たな投稿はないものの、トランプ氏側が復活したアカウントに全く触れていないわけではないようだ。

トランプ氏は11月15日に2024年大統領選への出馬を表明したが、ツイッターアカウントのプロフィール欄には、新たにその選挙活動用サイトへのリンクが表示されている。

トランプ氏のアカウント復活を受けて、ハーバード大学ケネディ行政大学院ショーレンスタインセンターのリサーチディレクター、ジョーン・ドノバン氏は、ニューヨーク・タイムズの取材に、トランプ氏が「トゥルースソーシャル」とツイッターのアカウントを連動させれば、ツイッターを「ヘイト、嫌がらせ、扇動の温床」にすることも可能だ、と指摘している。

●広告主への離脱呼びかけ

なおツイッターに資金を提供している広告主は、今すぐすべての広告を一時停止すべきだ。

全米有色人種向上協会(NAACP)の代表兼CEOのデリック・ジョンソン氏は、マスク氏による「トランプ氏のアカウント復活」表明から1時間あまりで、ツイッターで広告主に出稿停止を呼びかけた。

すでに10月末のマスク氏による買収成立を受けて、コンテンツ管理後退と、ブランド毀損への懸念から、ゼネラルモーターズ、ゼネラル・ミルズ、ファイザー、カールスバーグ、フォルクスワーゲン・グループ、ユナイテッド航空など、大手広告主の相次ぐ出稿見合わせが表面化していた。

その動きを後押ししたのが、NAACPなどの人権団体だ。

※参照:「倒産の可能性も」Twitter主要幹部相次ぎ辞任、広告主の懸念は止まらないCEO自身のツイート(11/11/2022 新聞紙学的

やはり、NAACPとともに広告主への働きかけを続ける有力ユダヤ人団体「名誉棄損防止同盟(ADL)」代表兼CEOのジョナサン・グリーンブラット氏も、「これはマスク氏がこのプラットフォームのヘイト、嫌がらせ、誤情報への安全対策に全く真剣でないことを示している」とツイッターに投稿した。

ツイッター離反の動きは、メディアからも動きがでている。CBSニュースは11月18日、ツイッターの「不安定要素」を理由として、当面の使用の停止を表明した

ツイッターの混迷はさらに深まり、懸念は広がっている。

●マスク氏の前言撤回

「表現の自由の絶対主義者」を標榜するマスク氏は、特にトランプ氏のアカウントの永久停止について「ばかげている」と公言してきた。

だが買収成立翌日の10月28日には、コンテンツ管理の判断に関する第三者機関「コンテンツモデレーション評議会」を立ち上げるとし、その前にはコンテンツ管理方針の変更やアカウント復活などは行わない、とも宣言していた。

だが、その前言はあっさり撤回された。

トランプ氏のアカウント復活の前日の11月18日には、停止中だった3つのアカウント復活を明らかにしていた

これは、マスク氏へのなりすましで11月初めにアカウント停止を受けていた米国のコメディアンのキャシー・グリフィン氏、トランスジェンダーへの差別的投稿で6月に停止されていたカナダの保守派ポッドキャスター、ジョーダン・ピーターソン氏、そしてやはりトランスジェンダーへの差別的投稿で3月に停止されていた米国の保守系パロディサイト「バビロンビー」の3アカウントだ。

●フェイスブックとユーチューブの対応

注目されるのは、やはり米連邦議会議事堂乱入事件をきっかけとしてトランプ氏のアカウントを停止したフェイスブックとユーチューブの対応だ。

フェイスブックの「最高裁」と言われ、コンテンツ管理の妥当性を審議する諮問機関「監督委員会」は、アカウント停止自体は支持しながら、停止基準の策定とそれに基づく判断をするよう提言。これを受けてフェイスブックは6月、同氏の停止期間を当面、2年とすると表明し、その時点で、停止を解除するかどうかを、改めて検討するとした。

その見直しは2023年1月に迫っている。

※参照:Facebookがトランプ氏に「2年ルール」を適用し、政治家の特別扱いをやめたわけ(06/06/2021 新聞紙学的

※参照:トランプ氏停止は支持、だがFacebookは無責任と「最高裁」が言う(05/06/2021 新聞紙学的

またユーチューブもアカウント停止措置を取っているが、「暴力の危険が低減した場合」には解除する、との方針を明らかにしている。

●混乱に拍車

トランプ氏のツイッターアカウント復活は、トランプ氏がツイッターに戻らない以上は、即座に大きな変化があるわけではない。

しかし、そのフォロワー数も復旧すれば、いつでもトランプ氏が影響力を行使できる環境は整う。

そして何より、従業員の大量リストラと辞職によって続くツイッターの混乱に拍車がかかることになる。

「イーロン・リスク」の混迷は、さらに予測不能になってきた。

(※2022年11月20日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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