ウクライナ機撃墜を「オープンソース」の調査報道が解明する

(写真:ロイター/アフロ)

176人の犠牲者を出したウクライナ旅客機の撃墜事故の経緯をいち早く解明していったのは、ネット上の手がかりを検証する「オープンソース」の調査報道だった――。

発生から3日後にイラン軍が「人為的ミス」と撃墜を認めたこの事故は、直後からネット上に様々な画像や動画が投稿された。

それらを検証し、事故の解明につなげていったのが、「べリングキャット」やニューヨーク・タイムズといった、新旧メディアによるネット検証の調査報道だった。

撃墜時とみられる模様を撮影した動画は本物か、それによって何がわかるのか。

「オープンソース・ジャーナリズム」と呼ばれる調査報道の手法が、撃墜の状況の一端を明らかにした。

●墜落現場を特定する

「オープンソース・ジャーナリズム」の代名詞ともいえる調査報道NPO「べリングキャット」の取り組みを中心に、ワシントン・ポストが経緯をまとめている

Bellingcatなどの画像をもとに筆者撮影
Bellingcatなどの画像をもとに筆者撮影

「べリングキャット」は元ゲーマーのエリオット・ヒギンズ氏が2014年に設立。ソーシャルメディアなどでの公開情報の検証をもとに、調査報道を進める手法で、2014年のマレーシア航空機撃墜事件や、2018年の元ロシア・スパイ親子殺人未遂事件などの解明を手がけたことで知られる。

※参照:「歴史の初稿」をネットユーザーが伝え、ジャーナリストが確認する(06/21/2015

176人を乗せたウクライナ国際航空の旅客機ボーイング737(PS752)がテヘランのイマム・ホメイニ国際空港を離陸したのは現地時間1月8日午前6時12分。出発予定時刻(5時15分)から約1時間の遅延だった。

そしてこの4時間前、午前2時15分ごろには、イランからイラク国内の米軍施設に向けたミサイル攻撃が行われた、というタイミングだった。

航空機の位置情報(DAS-B)を追跡・提供しているサイト「フライトレーダー24」のデータによると、高度7,925フィート(2,416メートル)に達したその2分後の6時14分57秒を最後に、機体の位置情報が途切れる。

「べリングキャット」で情報解明の中心になったのは、東欧・ユーラシア担当のアリック・トーラー氏。

事故発生から2時間後、トーラー氏が「フライトレーター24」の航路画像と現場の様子を撮影したとおぼしき画像とともに、墜落現場の位置情報の提供を呼びかける。

すると5時間後、欧州在住とおぼしきツイッターユーザーが、現場写真に写り込んでいた「青い屋根の建物」「給水塔」を手がかりに、グーグルマップの衛星写真と照らし合わせ、その墜落現場の位置を特定する

空港からは北北西約17キロの位置で、位置情報が途切れた北西20キロの地点から見ると、北東方向に大きく旋回したような位置関係にある。

●「ミサイルの一部」の画像

そしてネット上には、墜落現場付近で見つかったとされる、側溝に落ちたミサイルの先頭部分のような残骸の写真も投稿される。

写真から、地対空ミサイル「トール」の先頭部分と判明。同じミサイルはロシアからイランに提供されていることも公表されていた

また、現場写真を検証する方法の一つに、「リバース検索」がある。画像をグーグルなどの画像検索にかけることで、過去にネットに出回っていた画像を、新たな「現場写真」として再利用しているかどうかの検証をする手法だ。

この「リバース検索」の結果、ミサイルの残骸写真は、過去に出回ったことのないものだった。

さらに、同じ残骸を別アングルから撮影したとみられる写真が投稿されていたため、偽造ではないことは確認できたという。

だが、これがウクライナ機の撃墜に使われたものかどうか、撮影されたのは撃墜現場かどうかを判定する手がかりは、写真からは得られておらず、検証は済んでいない。

そして後述の通り、ウクライナ機がミサイル攻撃を受けた地点と墜落現場とは離れており、墜落現場にミサイルの残骸があることの不自然さも指摘されている

●「撃墜の動画」が投稿される

そこに、ウクライナ機の位置情報が途切れた付近で撮影したとみられる動画が公開される。

匿名の撮影者から提供された動画を、ロンドン在住で通信セキュリティベンチャーを営むナリマン・ガリブ氏が紹介したものだ。

19秒ほどの動画では、小さな飛翔物が東に向けて上昇し、西に向かう飛行物体に衝突。小爆発のあと、飛行物体は北に進路を変える様子が見て取れる。

「べリングキャット」は、映像メディア「ニュージー」とも協力し、この動画から、撮影場所、さらにウクライナ機に起きたことと、その位置関係を割り出す。

手かがりとなったのは、動画に写り込んでいた建物。さらに小爆発の光と、その衝撃音の時間差だった。

まず団地のような建物の特徴から撮影場所を特定した。

さらに稲妻と雷鳴の時間差から落雷の距離の見当をつけるのと同じやり方で、光と衝撃音の11秒ほどの時間差から、撮影場所からの距離を3.8キロほどと算定。

ウクライナ機が攻撃を受けたポイントを推定した。

この同じ動画は、ニューヨーク・タイムズのチームも、投稿者から高解像度のオリジナルを入手し、その内容を検証している。

その中心となったクリスチャン・トリバート氏も、べリングキャット出身の検証のプロだ。

タイムズはさらに、墜落の瞬間とみられる別の映像も検証。

その結果、ウクライナ機は、位置情報が不明となった直後にミサイル攻撃を受けながらも、なお飛行を続け、空港に戻ろうと南東に旋回したのちに、墜落した、との見立てを行っている。

●イラン軍の説明

イランは11日、ロウハニ大統領自ら「ヒューマンエラー」によってウクライナ機にミサイルが発射された、とその責任を認めた。

さらにイスラム革命防衛隊(IRGC)航空部隊のハジザデ司令官は11日の会見で、ウクライナ機の北12キロのビドカネという村に設置された設備からミサイルが発射されたことを明らかにしている。

巡航ミサイルと誤認した、と説明しているという。

ミサイルがウクライナ機に命中したのは、機体の最後の位置情報が確認されてから20~30秒後のことと見られている。

タイムズのトリバート氏は、その発射設備からのミサイル発射の模様を写したとみられる監視カメラの映像についても、その撮影位置などの検証を行っている。

さらなる詳細の解明は、ウクライナ機のコックピットから回収されたフライトレコーダーの分析を待つことになる。

(※2020年1月12日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)