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鳥山明と宮崎駿 日本発コンテンツ成功の象徴 偉大過ぎるゆえの課題とは

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ映画「君たちはどう生きるか」

 今月はアニメ業界にとって大きな出来事が立て続けに起きていますが、その中でも鳥山明さん(68)の早すぎる逝去と、宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」のアカデミー賞長編アニメーション賞受賞は、多くの人々の話題となりました。偉大な二人の影響について考えてみます。

◇ドラゴンボール 時代の流れに負けない力強さ

 鳥山さんはマンガ家で、宮崎監督はアニメーター・アニメ監督という違いはあるものの、日本のコンテンツの“顔”とも言えますし、後進に多大な影響を与えていることを否定する人はいないでしょう。同時に世界的な知名度もあります。ただし、あまり共通点はありません。

 鳥山さんの代表作は「ドラゴンボール」です。「ドクタースランプ」も人気ではあり、マンガ史で見るとそちらのほうがエポックメーキング(時代の変革)かもしれません。しかし「ドラゴンボール」は、マンガとしてもコミックスの累計発行部数が2億6000万部で、アニメが放送されるだけでなくリメークもされ、ゲームも数多く展開されてます。マンガの偉大さと共に、メディアミックスの大成功例でもあり、そのメディアミックスがあるがゆえに「ドラゴンボール」というコンテンツが、世界へ広く浸透するツールになっています。

 バンダイナムコグループの「統合レポート2023」によると、同社の年間のIP商品・サービス売上高で、「ドラゴンボール」関連は何と1445億円(前年から約170億円増)です。この数字は「ガンダム」や「ワンピース」を上回っています。マンガ「ドラゴンボール」本編の連載が終了してまもなく30年になろうというのに、ここまでの成功は驚異的といえます。

バンダイナムコグループの「統合レポート2023」にある同社の「ドラゴンボール」シリーズの商品・サービスの売上高
バンダイナムコグループの「統合レポート2023」にある同社の「ドラゴンボール」シリーズの商品・サービスの売上高

 また鳥山さんの逝去を受けて、海外での人気ぶりを伝える記事が次々と配信されて、驚いた人も多いのではないでしょうか。そして海外メディアの記事で、鳥山さんの名前と共に「ドラゴンボール」が見出しに採用されています。

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 同作の長期連載について、一部ファンの間で「(作者の意に背いて、連載を)無理強いをした」などと批判されることはあるのですが、この長期連載があったからこそ、今の人気があったと考えることもできます。現在、原作マンガを読み返しても、すぐ引きずりこまれてしまう出来であり、時代の流れに負けない力強さがあるのです。

◇多彩な宮崎作品 メディアミックスに「伸びしろ」

 一方、宮崎監督の代表作は数多くあります。「君たちはどう生きるか」や、初めてアカデミー賞を受賞した「千と千尋の神隠し」をはじめ、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「もののけ姫」「ハウルの動く城」など挙げていけばキリがありませんし、ファンの人気投票をすれば割れるでしょう。作風も変化しており、観客を強く意識した初期に比べて、近年の作品は思想的な要素が強まっているのではないでしょうか。そして作品作りに時間もカネも費やす体制は、宮崎監督の才能に対する信頼もあり、ビジネスの下支えがあってこそで、ライバルはなかなか真似できません。

 そして「三鷹の森ジブリ美術館」や愛知県の「ジブリパーク」のような施設はありますが、他の人気作のようにメディアミックスには熱心とは言えません。裏返せば、アニメ制作に重きを置き、今流行のIP(コンテンツ)の活用という意味では、まだ「伸びしろ」はあると言えます。

 二人を比べると、鳥山さんは「ドラゴンボール」への支持があり、それはメディアミックス展開によって長年展開されたがゆえに、大衆的な人気があるという感じでしょうか。宮崎監督も大衆的な人気はありつつも、アニメ本編を軸にしていてライト層・ファミリー層に強く、さらに賞の名声的なものがあることです。ここは他のコンテンツが欲しくても持てない部分であり、圧倒的な「強み」と言えます。

 一方、二人に共通点があるとすれば、理解者でもあり、「ハードル」にもなった“切れ者”の存在でしょうか。鳥山さんには、編集者の鳥嶋和彦さんがいて、鳥山さんに容赦なくボツを出し続けながらも、その才能を花開かせたことは知られています。そして、宮崎監督にも、鈴木敏夫さんがプロデューサーとして、製作にも宣伝にも貢献しました。

 大ヒットというのは、もちろん狙ってできるものではありません。時代の流れ、大衆が求めるものに合致したこともありながら、本人の才能と努力に加え、それを支えて継続できるチーム(組織)の力の両方があってこそ。二人の成功は、稀有な才能を発掘し、やり方は違えど人気を増幅させたシステムにもあるわけで、日本発コンテンツの成功の象徴と言えます。

◇後世にもずっと愛され続けるか

 同時に二人の偉大なクリエーターが生み出したコンテンツが、今後にわたって光り輝いて、後世にもずっと愛され続けるのか……。今後の課題であり、ターニング・ポイントになるでしょう。

 特に「ドラゴンボール」は、既にビッグビジネスになった分、もはや足を止めることはできません。今秋に放送されるテレビアニメ「ドラゴンボールDAIMA」も控えていますし、連動してさまざまな展開もあるでしょう。そして人気が続けば、その先は当然ながら要求されるわけです。もちろん各社もそれは想定済みでしょうが、鳥山さんの早すぎる死が誤算であるのは間違いなく、作者亡き後の展開は、やってみないとわからない部分もあります。

 そして、作者が不在でも物語が紡がれ、後世にバトンを渡していく流れは、ディズニーアニメのように、時代の流れと大衆に求められるものなどを的確に読み取り、世界の人々を楽しませていけるのか……ということを意味します。同時にそれは「ドラゴンボール」が普遍的な、より広い意味での文化になる……ということを意味するのではないでしょうか。その先にどのように評価されていくのかも含めて、楽しみなところです。

 それは日本テレビの傘下になったスタジオジブリも同じことです。宮崎監督がまだ健在であるうちは現状維持でも良いでしょうが、先々を考えれば、次の戦略……ジブリのコンテンツの価値をさらに高め、人気を広げる策を練っておく必要はあります。そしてタイミングや手法、サービスの質を間違えれば、“珠玉”を傷つけることにもなりえる難しさがあるということです。

 少子高齢化や、日本経済の地位が沈む中で、世界で人気を獲得した日本のコンテンツが持つ価値は大きいのです。それを活用していけるのかが問われていると思うのです。そして偉大過ぎるからこそ背負う課題なのかもしれません。

(C)2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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