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KADOKAWAが欧州でラノベのビジネス展開へ 世界のアニメ人気が追い風になるか

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:イメージマート)

 「日本のアニメが世界で人気」という記事を近年よく見かけますが、現在面白い動きがあるのはご存じでしょうか。KADOKAWAが欧州でデジタル配信をすると発表し、さらに仏の大手出版社と提携して、ライトノベルの市場拡大に挑んでいます。

◇欧州でラノベビジネスへ

 昨年10月、KADOKAWAグループの米出版社「J-Novel Club」が、ドイツに子会社「JNC Nina」を設立し、北米で展開しているマンガ、ライトノベルの電子出版を、ドイツ語、フランス語で展開すると発表しました。

 さらに今年1月、KADOKAWAは、仏大手出版グループ「メディア・パルティシパシオン」と、世界のフランス語の市場向けに日本や韓国発のマンガ、ライトノベルなどを翻訳して出版する合弁会社を設立すると発表。そのため「メディア・パルティシパシオン」のグループ会社の事業を分社化し、株式を51%取得することで合意しました。

 日本のアニメは、世界的にネット配信で人気になっていて、それを見た他業種の企業がアニメビジネスに参入しています。そして日本アニメの原作がマンガであるのは皆さんがご存じのとおりですが、ライトノベルも同様です。アニメが人気であれば、原作コンテンツ(IP)にも需要があるのでは……という推論は当然でしょう。

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◇海外に活路を求める必然性

 日本のライトノベル市場は、2000年代にはアニメ化を追い風に売り上げを伸ばし、「有望」と目されていましたが、現在はスマホゲームなど他のエンタメビジネスに押される格好です。出版科学研究所などの各種データによると、ラノベ市場は、ここ10年で半分程度に縮小しました。

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 ただし、出版産業は紙書籍の減少を、電子書籍の増加でカバーする形になっています。そして日本でのエンタメビジネスは、人口減・少子高齢化もあり、先々の見通しが良いとは決して言えません。ライトノベルも海外に活路を求めるのは当然です。世界の市場規模が30兆円が狙えるところまで来ているゲーム産業も、今や日本のシェアは1割に過ぎません。

ユーザーが世界に広がり急拡大する市場で、アメリカ・中国をはじめとする企業がしのぎを削り、かつて大きな存在感を放った日本のゲームの市場シェアは今や1割ほどにまで落ち込んでいます。
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 もちろんラノベは言語の壁の影響が大きく、アニメのようにはいかないでしょう(挿絵はありますが)。そのかわり、文字に強い優良顧客を獲得したり、展開したりするうちにその地域に合ったビジネスができる可能性もあります。

◇現地の肌感覚も リスクヘッジ織り込み

 またKADOKAWAの欧州展開は、リスクヘッジになっているのもポイントです。同社は以前からアジアや米国でのラノベのビジネスを手掛けており、その階段を踏んで、今回は欧州に進出したわけです。

 しかも単独ではなく、現地の力も活用しています。現地法人と提携するということは、収益では独り占めできないものの、同地の肌感覚を反映できる点はメリットです。特にラノベは、ややセクシーな描写もありますから、現地の風習や文化としてどこまでが許容されるかの判断は、重要になります。

 またデジタルゆえに、スピーディーなのもポイントでしょう。「J-Novel Club」は2016年から米国でデジタル出版事業を展開、2021年にKADOKAWAグループの傘下になりました。英語圏の消費者をターゲットに、日本語版の発売に合わせて、ストリーミングで作品を1話ごとに先行配信し、その後興味を持った読者が電子書籍を購入できるというもの。欧州の新会社(JNC Nina)は、ラノベだけでなくマンガを扱うそうで、コミュニティー機能も設置するそうです。うまくいけば、グループで展開する映像やゲームビジネスにも応用できることが考えられます。

 ともあれラノベが欧州でどう評価されるのか……です。この手の挑戦は、やってみて分かることが多いものですし、化ける可能性もあり得ます。そしてKADOKAWAは2024年度の第3四半期決算でも、欧州進出を含めた世界展開に言及しています。今では日本アニメの世界的な人気もあり、ビジネスの追い風になってくれるのは確かです。まずは今後の動向・成果に注目でしょう。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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