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ファミコンなど昔のソフトが楽しめる「レトロゲーム機」 なぜ発売される?

河村鳴紘サブカル専門ライター
ブックオフで発売中のレトロゲーム機(3980円)=ブックオフコーポレーション提供

 近年、家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」や「スーパーファミコン」などの昔のゲームソフトが人気です。それを受けて「ブックオフ」を運営するブックオフコーポレーションから、ファミコン、スーパーファミコンのソフトが動く「レトロゲーム機」(3種類)が発売されました。不思議なのは、ファミコンやスーパーファミコンを作った任天堂以外の企業から発売されていること。その理由を探ってみました。

◇需要があるレトロゲーム機

 昔のゲームソフトが動かせるレトロゲーム機が発売されるのは、昔のゲームソフトに一定の需要があるにもかかわらず、当該ソフトを動かせる公式のゲーム機が生産を終了しているからです。昔のゲームソフトは新品がないので、中古市場で流通します。中古市場の取引では、ゲームメーカーは利益が得られず、ビジネスになりません。

 ゲームのビジネスはハード(ゲーム機)の利益が薄く、利益率の高いソフトで稼ぐ仕組み。そのため新作のソフトがない以上は、ソフトを動かすためのゲーム機を製造する意味が薄れるわけです。株式会社は営利を追求する以上、儲けがないと手を引くのは当然のこと。そうした背景に加え、レトロゲームは中古市場の話になるわけで、メーカー側にとってはデメリットが大きく、レトロゲームについての話になると関係者の口が重くなるのは仕方のない一面があるのです。

 20年以上前の話ですが、ゲーム業界側が、中古ゲームの販売は著作権法の侵害に当たる……と流通側を訴えたものの敗訴し、「中古ゲームは合法」となった経緯があります。争いの背景ですが、中古ゲームがあるため新品のゲームが売れないという主張を巡り、両陣営の見解が対立したためです。そして現在のゲームソフトは、発売後にも追加コンテンツを配信するなどして、中古として売られづらくする工夫をしています。メーカーの視点では、昔のソフトが人気になるのではなく、今ある新作ソフトが売れてほしいのです。

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 そして今では、昔のゲームソフトが遊べるサービスもあるのですが、それとは別に当時のソフトを当時のゲーム機で動かして懐かしんだり、手元に置いてコレクションにしたい需要が出ているようです。こうした人気の高まりは、ゲーム会社も予想できなかったのではないでしょうか。

◇特許庁と文化庁は…

 かつて人気だった家庭用ゲーム機の代わりに使えるレトロゲーム機が、どうして元の製造企業以外から発売できるのでしょうか。その根拠が特許法にあります。

特許権の存続期間は、特許出願の日から20年をもって終了する(特許法第67条第1項)。

 どうして期限があるの?というと、特許法の目的に沿うからです。同法の1条に特許法について「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」とあります。特許の保護は大事ですが、あまりに大事にして長期間独占されると、産業の発達が阻害されてしまうからです。

 そして特許庁にレトロゲーム機の発売について問い合わせると、やはり特許権の存続期間の話になりました。

 特許庁は「特定製品について個別・具体的には答えられないため、一般的な観点の答えになります」と前置きした上で、「特許権の期間は、出願から20年となりますが、特許出願の日と製品発売のタイミングが異なる場合が多いと思います。また、一つの製品が複数の特許から構成されている場合もあり得ます。そのため、発売よりも前に製品の構成要素について全て特許出願されていると仮定すれば、特許権は切れているので、特許の観点からみれば、特許に係る技術を使用してかまわないということになります」とのことでした。

 さらに念のため、プログラムなどの著作権の観点から問題がないか質問しましたが「(管轄の)文化庁へ問い合わせてほしい」とのことでした。

 今度は文化庁にレトロゲーム機の発売について、著作権として法的に問題がないかと問い合わせると「個別具体の事案に対する問い合わせについての判断・回答はできない」「知財に詳しい弁護士に問い合わせてほしい」とのことでした。いろいろ質問したものの、著作権は個別の解釈が難しく、最終的には司法が判断するもの……ということでした。

 言われてみると、中古ゲーム裁判も、ゲーム業界団体とゲーム流通側で考えが対立してどちらも譲れなくなり、裁判で決着させる形になりました。著作権は複雑で、簡単に答えることができない……というのが分かります。

◇レトロゲーム機側の見解は…

 ただし、レトロゲーム機は現実に販売されています。法の趣旨は分かりましたが、レトロゲーム機を製造する側は、どう考えているのでしょうか。今回、名前を伏せるという条件で、あるレトロゲーム機の関係者に話を聞くことができました。

 興味深いのは、前提認識の違いでした。レトロゲーム機を発売するために特許権や著作権の問題をどうやってクリアするのか……と質問したのですが、特許権や著作権についての答えが返ってきません。その会社の製造するレトロゲーム機は、全ての部品を最初から開発して、当時のソフトを動かせるようにした製品であり、第三者の許可や特許、法律が関わってくる話ではない……という指摘でした。

 そしてレトロゲーム機は、発売を終えたゲーム機そのものではなく、当時のソフトを動くようにした別の機器と考えてほしい……ということでした。別の機器だからこそ「本製品は互換機の為、すべてのゲームの完全な動作を保証するものではありません」などの但し書きがつくのですね。

 そしてファミコンやスーパーファミコンなどのソフトが遊べるレトロゲーム機が発売されている理由も尋ねました。すると、上記のソフトは今でも人気があるのに、ソフトを動かすための昔のゲーム機が中古市場に出回っていないため……とのことでした。またレトロゲーム機の発売で重要なポイントは、製造コストと教えてくれました。

◇特許法の狙い通り

 レトロゲーム機について、それぞれの立場で考え方、見解に違いがあるのです。譲れないのであれば、中古ゲーム訴訟やマジコン訴訟のように白黒をつけようとするでしょうし、そうでなければ現状維持となるのでしょう。

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 そして現状、昔のゲームソフトが人気を受けて高騰し、ヤフートピックスに入るようなニュースになったりします。そしてソフトを動かすためのゲーム機が永遠に動く保証がなく、かつゲーム機の生産がいつかは終了する以上、レトロゲーム機の需要はあることになります。

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 レトロゲームの市場が盛り上がって、直接的な利益はゲーム会社にないものの、一度ゲームを離れた人たちが懐かしさを感じて再度遊んだり、若い世代が接触するきっかけになったり、プラスに働いているのは確かです。ファミコン時代のグラフィックは、リアル路線に慣れた若い人たちにはかえって新鮮に映る場合もあるそうです。これもある種、ゲームの間口を広げていると言えるでしょう。

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 レトロゲーム機にファジーな一面があるのは確かです。しかし、特許権の存続期間とゲームのビジネスモデルなどの事情を踏まえて考えたとき、特許権を持っていたメーカーに「昔のゲーム機をずっと出し続けろ」というのも、何十年も前に発売したゲームソフトの問い合わせが来ても、各社には大変な話になるわけです。

 そしてレトロゲーム機がなければ、生産を終了したゲーム機の価格が吊り上がり、昔のソフトが遊びづらくなる……ということもありえるわけです。今では、人気商品はすぐ目をつけられて品不足になり、フリマアプリなどで高値転売される時代です。そうした価格の高騰だけは避けたいでしょう。

 レトロゲーム機は、「昔のゲームソフトで遊びたい」という一部の消費者の需要に応え、不足する供給を埋めることで商品の高騰を抑えている……と考えられます。そして人気のゲーム機であれば著作権を持っていたメーカーは20年で大きな利益を得ており、特許権の独占期間が解けることで、結果としてうまく機能してとも言えます。

 近年問題視されるフリマアプリなどで横行する高値の転売では、独占禁止法で消費者を守るために設けた「価格拘束の禁止」がネックとなって、同法の狙い(価格競争)がうまく働いていません。それに対して、レトロゲーム機に関しては、特許法の狙い通りになっているのではないでしょうか。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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