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「モンハン」シリーズ最新作 今回の発表から分かるカプコンの野心

河村鳴紘サブカル専門ライター
シリーズ最新作「モンスターハンターワイルズ」 (c)CAPCOM

 「モンハン」の愛称で知られ、シリーズ累計出荷数9500万本を誇る「モンスターハンター」シリーズの最新作「モンスターハンターワイルズ」が2025年に発売されることがカプコンから発表されました。約1分半の映像が公開されただけで、発売時期は相当先。ですが「それだけ」でも同社の意図、並々ならぬ野心が伝わってきます。

◇携帯ゲーム機でブレーク 据え置き型機で世界的ヒット

 「モンスターハンター」シリーズは、雄大な自然を舞台に、仲間と協力して巨大なモンスターを倒すアクションゲームです。「ハンティング」や「狩り」などがキーワードで、複数での協力プレーがだいご味といえます。

 「モンハン」は、シリーズの初期から協力プレーを売りにしていたものの、当時はネットゲームが今ほど受け入れられておらず、ややコア層向けの作品でした。しかし、ソニーの携帯ゲーム機「PSP」での展開が「大当たり」。お互いがゲーム機とソフトを持ち寄って遊ぶスタイルが受け入れられ、人気シリーズに成長しました。

 ポイントはファン層の広がりです。バリバリのゲームファンが遊ぶのはもちろんですが、気になる男の子と一緒に遊ぶため、女の子がけなげにプレーするケースも。ファン層の拡大を感じさせるとともに、コミュニケーション・ツールの要素も兼ねるなど、ゲームの可能性を感じさせるものがありました。

 その後は、作品数を重ねると人気シリーズの“宿命”ともいうべき停滞が指摘されていましたが、2018年に発売し、PS4などの据え置き型ゲーム機で展開した「モンスターハンター:ワールド」がその流れを替えます。世界同時発売をして、欧米のゲーマーの好みを積極的に取り入れたことで、海外市場を大きく開拓。発売から半年で世界出荷数が1000万本を突破し、ゲームファンや関係者を驚かせたのです。

◇市場が温まったタイミング

 新作の「ワイルズ」は、2021年に発売された「モンスターハンターライズ」以来のシリーズ完全新作という触れ込みですが、意識させられるのは「ライズ」よりも「ワールド」の方でしょう。発表後はX(現ツイッター)でも当然のごとくトレンド入りしていました。

 つまり、ハイスペックゲーム機で遊べる豪華なグラフィックの「モンハン」への期待です。ゲームの面白さの本質はグラフィックとは関係ない……というのは事実ですが、豪華なグラフィックだからこそ得られる楽しみがあるのも、また事実です。「モンハン」は「狩り」をして探索をするタイプのゲームであるため視野の情報は重要であり、恩恵を大きく受けるからです。

 近年のビッグタイトルは、対応ハード・時期未発表というケースもある中で、「ワイルズ」は対応するゲーム機と発売時期をキチンと発表したところもポイントでしょう。対応ゲーム機を見れば、グラフィック面での期待ができるのは明らかだからです。

 そして発売時期の2025年ですが、PS5やXbox Series Xなどの普及がピークに達し、PS5などの市場が完全に温まったタイミングです。多くのユーザーにリーチして、出荷数を最大化しようというカプコンの経営的な狙いもハッキリしています。この戦略は「ドラゴンクエスト」の本編シリーズが長年用いている手法。そして「モンハン」は日本よりも欧米での市場拡大に成功していますから、より大きな成功が狙える……というわけです。

◇求められる「上積み」

 「モンスターハンター:ワールド」の世界的大ヒットの直後、カプコン辻本春弘社長に取材をしたとき、「1000万本出荷」という驚異的な数字に満足せず、さらに上の数字、新規層へのアプローチを強く意識していたのが印象的でした。

 「ワールド」を発売した当時は、資金力とマンパワーが要求される大規模ゲームの開発で、日本のメーカーは不利と言われた時期でした。「ワールド」の開発も、社内で懸念の声がある中で、携帯ゲーム機で人気だったものをわざわざ据え置き型ゲーム機に変えて出すリスクを取って勝負したのです。その結果が海外での大躍進でした。

 特にカプコンは、自社コンテンツのブランディング向上、知名度拡大を図るために、ゲームだけに頼らず、映像化や企画などに積極的に取り組んだ経緯があります。今回の最新作「モンスターハンターワイルズ」は、シリーズで培ったゲームの面白さはそのままに、熱中できる新要素をどう提案してくれるのか……。同時にある程度のメガヒットは当然で、求められるのはさらなる「上積み」です。具体的には、どこまで新規層を獲得できるのか。簡単ではありませんが、そこに期待をしています。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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