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「マリオ」のヒットと「ゼルダ」実写映画化発表 ゲーム会社の映像戦略 その変遷

河村鳴紘サブカル専門ライター
米国で開かれたアニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」上映会(写真:REX/アフロ)

 任天堂の人気ゲーム「ゼルダの伝説」の実写映画化が発表され、話題となりました。製作費の50%以上を任天堂が出資し、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントが共同出資した上で全世界配給を担当、任天堂の宮本茂フェローが共同プロデューサーとなります。アニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の大ヒットなど近年、ゲーム関連の映像化ニュースを目にするようになりました。そこでゲーム会社の映像化戦略について考察してみます。

【関連】「ゼルダの伝説」実写映画の企画開発開始のお知らせ(任天堂)

◇昔は「餅は餅屋」

 ゲーム原作の映像化は、「バイオハザード」の映画をシリーズ化させたカプコンの成功例はあるものの、ゲームビジネスの規模を考えると物足りなく見えるように、昔は消極姿勢でした。2000年代に取材でゲーム会社の経営陣に「ゲームの映像化の可能性」を尋ねても「餅(もち)は餅屋」の例を挙げて、「ゲーム会社は原則、ゲーム以外に手を出さないほうが良い」などという答えが返ってくるものでした。

 背景には、当時のゲームビジネスは好調で「余計なことをしなくても稼げる」ということがありました。そして、巨額の製作費を投じた2001年公開のCG映画「ファイナルファンタジー」が失敗、スクウェア(現スクウェア・エニックス)は100億円以上の特損を出して、会社も傾きかけるほどの失敗をしたのも少なからず影響したでしょう。

 ちなみにスクウェア・エニックスは危機を脱した2005年、映像作品「ファイナルファンタジー7 アドベントチルドレン」をDVDなどで発売。映画というリスクを回避してヒットさせるリベンジを果たしています。しかし言い換えれば、映画への“怖さ”があったとも言えるわけです。また映画「ファイナルファンタジー」のノウハウは、ゲーム制作や他の映像作品にも生かされており、意味のある失敗でしたが、何せ会社が傾いただけに評価されづらいところではあるわけです。

◇スマホゲーム参入で戦略柔軟化

 2010年前後に基本無料で遊べる携帯電話のゲームやスマホゲームが人気となってゲーム市場が拡大。家庭用ゲーム機のビジネスが苦戦・停滞する中で、改めて新規参入の重要性と、新規顧客開拓の重要性が再認識されます。WiiやニンテンドーDSの成功で、ゲーム業界は「ゲーム人口の拡大」を達成したものの、「人口」のつなぎとめがうまくいかなかったのです。どのビジネスでもそうですが、新規層の開拓なくして、ビジネスはうまくいかないからです。

 そして携帯・スマホゲームに手を出さなかった任天堂が2016年に「スーパーマリオラン」で、ソニーもグループ会社が2017年に「みんゴル」などで、スマホゲームを配信します。狙いはスマホゲーム市場に自社のコンテンツを提供して、自身の“本丸”である家庭用ゲーム機への取り込みを図ること。任天堂とソニーは、家庭用ゲーム機を発売する「ハードの会社」で、スマホゲームへの進出には最も消極的な“保守派”でしたから、時代の潮目を感じさせる方針転換でした。この時期を境に、映像化や新規事業の進出について聞いても、否定的ではなく柔軟になってきました。

 そして従来のように、家庭用ゲーム機へのこだわり・しばりがなくなれば、映像ビジネスも検討しやすくなります。無料のスマホゲームが家庭用ゲーム機用ソフトの顧客を増やすための“導線”という考えになるなら、映像でも同じ考えができるからです。

 そもそもゲーム市場規模の数字を見ると、携帯電話・スマホゲーム市場の拡大と、家庭用ゲーム機ビジネスの停滞は明らかでした。が、その方針転換以後、両社の業績は好調に推移し、任天堂の売上高は2兆円弱、ソニーのゲーム事業は4兆円を狙えるところに来ています。

◇「引きの強さ」も

 2016年のブラジルのリオ五輪で故・安倍晋三首相がマリオにふんしたことが話題になったように、任天堂は「マリオ」をはじめとする強力なゲームを抱えています。そして他のゲーム会社も世界的な人気作をいくつも抱えています。そして、特定のゲームが好きになった人は、続編ゲームを望むだけでなく、関連アニメやグッズにも手を出すのが普通です。そうであればゲームコンテンツも、可能性を広げない理由はありません。

 特にソニーグループは、ゲーム事業、音楽事業、映画事業を持つ強みがあります。ゲームの「THE LAST OF US」はドラマ化、ゲーム「グランツーリスモ」も映画化され、映画「スパイダーマン」はゲーム化されて欧米で人気を博しています。そして映像化戦略のポイントは継続。映画「マリオ」のような大ヒットはなくとも、ビジネスを黒字化した上でコンテンツを着実に出し続けていくことが重要です。

 そして任天堂の映像化戦略ですが、今回の「ゼルダの伝説」の映画が「実写」という部分に懸念の声が散見されますが、総じて期待の声の大きさにかき消されているのではないでしょうか。アニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の世界的大ヒットという圧倒的な実績があるだけに、なかなか批判しづらいところ。その点「マリオ」を先に出して、ゲーム「ゼルダの伝説」が大ヒットしたところで、狙ったように実写映画化を発表できたことも大きいでしょう。

 そういえばゲーム「あつまれ どうぶつの森」の大ヒットも、新型コロナウイルスの影響があったことは否定できません。このあたりの「引きの強さ」にも驚かされます。ビジネスには理屈で正しくても運が悪いと失速もありえるわけで、「引きの強さ」はかなり重要だからです。

 ただし映像化の原作の“先輩”である、マンガや小説からすると普通のことであり、ゲーム会社の映像化戦略は「あるべきところに戻った」というのが妥当なのかもしれません。

 同時にゲームだけへのこだわりがなくなり、コンテンツメーカーになりつつある各ゲーム会社が、どのような映像戦略をたてて、拡大していくのか。特に大手ゲーム会社は潤沢な内部留保(カネ)があるため、やる気になればさまざまなカードを出せます。ゲームの映像化は今後も注目と言えそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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