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「北斗の拳」誕生40年 連載終了後も人気持続 なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
「北斗の拳」(c)武論尊・原哲夫/コアミックス 1983

 コミックスの累計発行部数が1億部を超えるマンガ「北斗の拳」が誕生から40周年を迎えました。本編のマンガ連載が終わって35年にもかかわらず、再度のアニメ化が発表され、プロ野球や大相撲などでもネタになっています。持続する人気の理由を考察します。

◇世界観や必殺技 説得力のある物語

 「北斗の拳」は、武論尊さん原作、原哲夫さん作画で、1983~88年に週刊少年ジャンプ(集英社)で連載。核戦争後の荒廃した世界で、伝説の暗殺拳「北斗神拳」の使い手・ケンシロウの活躍を描いています。以前に取材する機会があって、武論尊さんに同作の誕生について尋ねたとき、核戦争後の世界を描いたバイオレンス映画「マッドマックス2」と共に、独裁者ポル・ポトに支配され、多くの国民が殺されたカンボジアの影響もあると教えてくれました。

 武論尊さんは独裁政治から脱したばかりの同国を訪れ、子供に護衛してもらい、町にあるガイコツの山を見たそうです。「北斗の拳」では、主人公の宿敵で長兄のラオウが、乱れた世界を力で制圧しようとしますが、「それも一つの方法」と考えるしかない経験があったのです。また当時の世界は、米ソ対立で核兵器の脅威にさらされていたので、やはり説得力がありました。虐げられる弱者の痛みといった、いつの時代に誰もが共感できる要素も盛り込んでいて、今読んでも魅了されるのです。

 さらにケンシロウの強さも、インパクト抜群でした。敵の体を指で突くと相手の体が爆弾のようにはじけ飛び、大男を簡単にねじ伏せ、飛び道具も相手に撃ち返す……といった具合。急所「秘孔(ひこう)」の設定は、東洋医学のツボを思わせるため、妙な現実感がありました。必殺技の設定も絶妙で、子供や若者たちの興味をかきたてた面があったでしょう。

 そして人気作には、多彩で魅力的なキャラクターの存在も不可欠ですが、「北斗の拳」はその点も抜かりありません。ケンシロウと宿敵のラオウに加え、心優しき次兄のトキ、愛する女性のために戦うレイ、子供たちを守る大男のフドウなどなど(挙げていくと際限が……)。

 さらに、嫌われ者もインパクト抜群。ケンシロウになりすまして悪事の限りを尽くすジャギ、残酷な人体実験を続けるアミバ、人質を取って威張り散らすジャコウ。その末路に読者はスカッとさせられたでしょう。

 そして主要キャラにすぐ倒される雑魚キャラクターたちでさえ、味がありました。モヒカン頭やスキンヘッド、悪人顔の雑魚キャラは、あまりのインパクトから新聞広告で使われたり、雑魚キャラなのに舞台化されたことも。名前もない雑魚すらこのパワーです。改めて「北斗の拳」というコンテンツの深みを感じさせます。

 連載当時、「世紀末」というダークで危険なにおいがする世界観は魅惑的でした。戦いの最後に告げる「お前はもう死んでいる」、やられた時の断末魔「ひでぶ」、ひどいことをしたときに言う「てめえらの血は何色だ!」などのせりふを口にした人も多いのではないでしょうか。「北斗の拳」の人気は、同誌のランキングで3年間トップの座を譲らなかったそうです。

 ただしマンガの連載期間は約5年間で、現在の人気マンガのように10年や20年続いたわけでもありません。またテレビアニメも長期にわたって放送されたわけでもありません。では「北斗の拳」は、どうして人気を維持できたのでしょうか。

◇コンテンツの徹底活用 多彩な関連作品と企画

 もちろん、作品の持つ圧倒的なパワーがあってこそですが、連載終了後もコンテンツを徹底的に活用し、話題となるような企画を立て続けたことが大きいでしょう。

 連載が終わった直後の1990年代は、実写映画が公開されたものの、動きは比較的静かでした。しかし、2001年に「北斗の拳」の前日譚を描いたマンガ「蒼天の拳」の連載が始まるころから、活発になります。

 2003年にスタートしたパチスロは大ヒット。2007年には、ラオウの葬儀「昇魂式」を実施し、約3000人が焼香して話題になりました。アニメ映画の宣伝の一環でしたが、そんなことが吹き飛ぶほどのインパクトがありました。

【関連】ラオウの壮絶な死を悼み「昇魂式」を開催(ねとらぼ)

 そして本編マンガを踏まえた関連作品も次々と世に出されます。ラオウやトキなどを主役にしたシリアス路線もありつつ、パロディーものも登場。核戦争が起きず北斗神拳が「無用の長物」になり、ケンシロウやラオウがコンビニのアルバイトをする「DD北斗の拳」、ケンシロウを苦しめた強敵・サウザーがおバカな発言を連発する「北斗の拳 イチゴ味」は、どちらもアニメ化されました。

◇「北斗の拳」 主な関連作品

天の覇王 北斗の拳 ラオウ外伝▼銀の聖者 北斗の拳 トキ外伝▼蒼黒の餓狼 北斗の拳 レイ外伝▼極悪ノ華 北斗の拳 ジャギ外伝▼DD北斗の拳▼彷徨の雲 北斗の拳 ジュウザ外伝▼金翼のガルダ 北斗の拳外伝 ~南斗五車星前史~▼北斗の拳 イチゴ味▼北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌▼北斗の拳 BBQ味▼北斗の拳 世紀末ドラマ撮影伝▼北斗の拳外伝 天才アミバの異世界覇王伝説▼ケンシロウによろしく▼蒼天の拳

 2016年には、「北斗」つながりで北海道北斗市にケンシロウの銅像が登場。プロ野球球団の阪神タイガースや広島東洋カープ、福岡ソフトバンクホークスなどのコラボ企画もありました。他にも、ももいろクローバーZ、京急電鉄、ロッテのビックリマン、ロート製薬のデ・オウとのタイアップも。細かいところを挙げていけばキリがありませんが、「北斗の拳」の認知度の高さを生かしたユニークな企画がよく展開されるのです。

 さらに、大相撲で元横綱・稀勢の里関が「ラオウ」の化粧まわしをつけ、引退時にラオウの名セリフを思わせる「土俵人生において、一片の悔いもございません」と語ったことを覚えている人も多いでしょう。

 そしてプロ野球・オリックス・バファローズに所属し、「ラオウ」の愛称で知られる杉本裕太郎選手は、ホームランを打った後に拳を突き上げる「昇天ポーズ」が知られています。

 こうした話題が「北斗の拳」のイメージアップになったのは、今さら指摘するまでもありません。ちなみに「北斗の拳」ネタは、大手メディアもよく取材されます。

 近年はコンテンツの重要性が認識され、名作の復活や企画が目につきますが、「北斗の拳」は、かなり早い段階で露出アップの取り組みをしていたわけです。

 社会現象を起こした「北斗の拳」という作品が、マンガの歴史に残る作品の一つであることに異論を唱える人はいないでしょう。そして「北斗の拳」の基礎知識は、多くの人々に共有されています。話題になるネタがあればファンが乗り、企画も成果が出るので、さらに別の企画が続くという具合です。

 あえて課題があるとすれば、海外でのさらなる人気アップでしょうか。既に欧州でも人気はあるそうですが、まだまだいけるはず。新アニメにも注目しつつ、さらなる躍進に期待したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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