Yahoo!ニュース

気になるマンガ「東京カンナビス特区」 大麻が題材の異色作 カネを巡る欲望の先は…

河村鳴紘サブカル専門ライター
「東京カンナビス特区」のコミックス1巻と2巻

 コミックスの国内市場規模は約6800億円(2022年、出版科学研究所調べ)と好調ですが、作品の多さゆえに「どれを読めば」と迷う人もいるのでは。そこで、実際に読んで気になった作品を独断で取り上げてみます。今回は、稲井雄人さんの「東京カンナビス特区 大麻王と呼ばれた男」(コアミックス)です。

 テーマは、数カ月で収穫できる上に一株60万円で売れるとされる「金になる植物」から精製される大麻。植物に精通する気弱な男が、成り上がっていく異色のクライム・サスペンスです。

 優しい妻や可愛い高校生の娘とつつましく暮らしていた花屋の主人・森生は、大学の同窓会に参加し、昔の親友だった経営者の加賀山と再会して意気投合。日々の困窮を愚痴る森生に、加賀山は大麻草の栽培を持ち掛けます。森生は最初こそ拒絶するものの、妻の事故もあって金の誘惑に負けてしまい……。大学時代は教授に目をかけられ「植物の天才」と言われた森生だけに、彼の育てた大麻草の出来は抜群で、精製されたドラッグは人気が爆発。しかし、半グレに目を付けられてしまうのです。

「東京カンナビス特区」のワンシーン。森生を誘う加賀山の表情がまさに悪い人! (c)稲井雄人/コアミックス
「東京カンナビス特区」のワンシーン。森生を誘う加賀山の表情がまさに悪い人! (c)稲井雄人/コアミックス

 ご存じの通り、日本には大麻取締法があり、大麻の用途を厳しく制限しています。学術研究及び繊維・種子の採取だけに限定、取扱いを免許制としていて、違反行為には罰則があります。厚生労働省のホームページにも「今、大麻が危ない」という啓発ページも設けられています。

 昨日も大麻入りの食品についての記事が、ヤフートピックスで取り上げられました。

 しかし、大麻がどのようなものかは、よく知らない人も多いのではないでしょうか。危ない物には近づかない、知るべきではないという考えもあります。一方で、危険なものだからこそ、知っておくことも大切ではないでしょうか。知識があれば遠ざけたり、拒絶しないと大変になることが分かるからです。

 タイトルの「カンナビス」は大麻草(カンナビス・サティバ・エル)の学名の一部です。大麻の種の所持は違法にはならないこともあるなど、マニアックな話も。そして大麻草の種類、育成方法、麻薬の効用なども描かれています。

 大麻を合法にしている国があるように、作中では「大麻よりアルコールの方が危険」という大麻を許容するキャラもいるのですが、一方で大麻に手を出した人の表情がすっかり変っていることも……。

「東京カンナビス特区」の1ページ。いろいろな知識にも触れられています。(c)稲井雄人/コアミックス
「東京カンナビス特区」の1ページ。いろいろな知識にも触れられています。(c)稲井雄人/コアミックス

 第1話の最後で、主人公について「後に大麻王と呼ばれる男である」という触れ込みがあります。大麻の影は、森生の娘の近くにも忍び寄り、破滅へのにおいが作中からも漂います。そして気弱な森生が、半グレのボスを交渉でやりこめたり、大麻工場の物件交渉でダークな手を使ったり……。家族を巻き込んでしまいそうなスリル感がたまりません。

 なお麻薬を扱うだけに、ぶっ飛びすぎのキャラクターが続々と出てきます。個人的に最も印象に残っているのは、においだけで麻薬の種類を見抜く麻薬捜査官の神崎です。麻薬の売人を恐喝してスパイをさせる一方、麻薬から足抜けをした元売人には無理な協力を求めません。「捜査して逮捕する苦労より (薬に一度染まった人が)薬との縁を断ち切るほうが よほど難しいんだ!!」という彼の一言は、麻薬の罪深さ、重みを感じさせてくれます。

 主人公の作る高精度のドラッグを巡り、売人、半グレ、麻薬取締官、訳ありの警察官、そして半グレの上の存在が複雑に絡み合って、先が気になる物語を生み出しているのです。果たして「後の麻薬王」の運命はどうなるのでしょうか。

 いかにもドラマにもなりそうな内容だけに、先にマンガを読んで知っておくと、後々もっと話題になった後で「実はオレ、前から目を付けていたんだよね」などと、威張れるかもしれません。

【試し読み】「東京カンナビス特区 大麻王と呼ばれた男」第1話

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

河村鳴紘の最近の記事