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PS5の出荷数に異変 ソニーのゲーム事業決算をひも解く

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 ソニーグループの2023年3月期通期連結決算が発表され、売上高は11兆5398億円、本業のもうけを示す営業利益は1兆2082億円でした。好調をけん引したゲーム事業の決算について詳細を追いつつ、PS5の出荷数の異変について触れてみます。

◇ソフトは「もっと売れてほしい」か

 ゲーム事業の部門別売上高は3兆6446億円、営業利益は2500億円。3年連続の増収ながら、利益は前年度と比べて減少。いわゆる増収減益です。巨額の売上高に対して、利益はしっかり出ているものの、営業利益率は10%を切ったとも読み取れます。

 ゲーム事業の売上高の内訳ですが、「ゲーム機の販売」が約1兆1000億円。「ソフト販売」が約1兆7000億円。PSプラスなどの「ネットワークサービス」が約4600億円。PSVRや他のプラットフォームでのソフト販売をまとめた「その他」が約3400億円でした。

 売上高は、概数で約3兆6000億円なので、「ゲーム機の販売」が約3割、「ソフト販売」は5割弱、「ネットワークサービス」と「その他」が各1割程度となります。どのカテゴリーも前年度比で増加したものの、差はあります。最も伸びたのは(当然ながら)「ゲーム機の販売」の約90%増で、「その他」の約80%増が続きます。「ソフト販売」と「ネットワークサービス」は各10%増でした。

 ゲームビジネスは、ゲーム機では利益が出づらく、ソフトで回収する仕組みです。ゲーム機が売れるのであれば、「ソフトはもっと売れてほしい」のは確かでしょう。ただしゲーム機が売れると、その後のソフトの売れ行き拡大にも比例する傾向はあるので、「今後に期待」という考え方もできます。

◇カギを握るアドオンコンテンツ

 その「ソフト販売」ですが、三つに分類されています。販売店で売る「パッケージソフト販売」が約1900億円、オンラインで売る「デジタルソフト販売」が約6600億円、ゲーム内通貨やゲームアイテムの販売を指す「アドオンコンテンツ」は約8600億円でした。

 ソフト販売の三つのカテゴリーも、いずれも前年度比で増えましたが、最も稼ぎの多い「アドオンコンテンツ」が約1%の微増だったのも気になるところです。「アドオンコンテンツ」は2021年3月期には9000億円を超えていました。依然として巨額ではあるものの、ここの成長も「物足りなさ」があるかもしれません。ただしソニーはバンジーの買収で、アドオンコンテンツのテコ入れにすでに手を打っていて、今後のカギになりそうです。

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 いずれにしても、パッケージゲームよりもデジタルのほうが圧倒的に売れています。この部分を理解しないままに日本のパッケージゲームの販売ランキングだけを見て、ゲーム市場全体をイメージすると、食い違いが出てしまうので注意が必要でしょう。

◇PS5の第4四半期出荷数に注目

 最後にPS5の出荷数について、気になる点を触れます。

 2024年3月期のPS5の出荷計画は「2500万台」です。PS4の年度出荷数の最大は2000万台なので、ソニーとしてはかなりの引き上げになります。

 2500万台という数字は、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」の全盛期に匹敵する数字ですが、価格はPS5の方が2倍以上も高いのです。20年弱の差、経済状況の違いを考慮しても、これだけ高いゲーム機が世界で飛ぶように売れるという現実は、今後のゲーム機販売の戦略にも影響する可能性があります。

 もう一つは、PS5の四半期の出荷数です。今回の第4四半期(2023年1~3月)は630万台でした。第3四半期(2022年10~12月)の710万台には及ばないものの、四半期の出荷数としては、かつてのPS4を含めても予想外の数字でした。

 ゲーム機はクリスマスシーズンに売れる商品です。第3四半期(10~12月)に大量の出荷はするものの、他の四半期(4~6月、7~9月、1~3月)は、抑えめにするのが普通でした。実際、PS4、PS5の四半期出荷数も、第3四半期以外の四半期では、概ね200万から400万台の間で収まっていました。つまり今回、いかにソニーが懸命にPS5の増産に動いたのか分かります。

 同時にソニーのゲーム機を振り返ると、年度出荷数は2000万台を少し超えたところに壁がありました。PS2の時代に「約2200万台」という数字がありますが、その壁を破る可能性が出てきたわけです。無料のスマートフォン用ゲームの登場で家庭用ゲーム機市場は厳しい状況になったと思えば、10年後にさらなる拡大のチャンスが出ているのは興味深いところです。

 同時にこれだけPS5が売れていると、次の新型ゲーム機、強化版の発売タイミングがシビアになります。やれることは限られるでしょうが、世界的な転売対策を練る必要もあるでしょう。

 ともあれ、どこまでPS5の販売の勢いが伸び、そこからどれだけ持続するのか。注目したいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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