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ポケモンカードもターゲット なぜメーカーは転売を防止できないのか

河村鳴紘サブカル専門ライター
(提供:イメージマート)

 ゲームやアニメなどで大人気の「ポケモン」のトレーディングカードが14日に発売されると、大手家電量販店に長い列ができて品切れになったこと、同時にネットで商品を自由に売買できる「フリーマーケット」で、レアなカードが高額価格になっていることが、各メディアで報じられました。なぜこんなことが起きるのでしょうか。

 人気商品の発売当日に列ができ、希望小売価格や定価、実勢価格を大きく上回る高値で取引されるのは、今に始まったことではなく、スニーカーや玩具、プラモデル、ゲーム機など挙げていけばキリがありません。

 近年、ネットで人気の新商品が高値になる背景について、ネットのフリマアプリの存在があると考えるのは、皆さんも同じでしょう。誰もが気軽に使え、買い手を見つけるのが容易だからです。とても便利なものですが、売り切れ状態の新商品が異常な高値で売られるのを見て、違和感と嫌悪感を覚える人は多いはずです。

 そこでよく指摘されるのが、メーカーは転売の対策をするべき……という意見なのですが、今の法ではメーカーが動くのは、難しいのです。

 まず大前提として、値段を決めるのは、売り手の自由だからです。

メーカーが指定した価格で販売しない小売業者等に対して、卸価格を高くしたり、出荷を停止したりして、小売業者等に指定した価格を守らせることを「再販売価格の拘束」といいます。

【公正取引委員会】独占禁止法が規制する行為 不公正な取引方法(再販売価格の拘束)

 力のあるメーカーが、価格を拘束しないようにしているのです。そして売り手側が「価格を決める自由がある」ということは、高くもできるということ。なぜそれを許容しているかといえば、競争によって高い商品は市場から淘汰されるはず……という考えがあるからです。しかし今では、インターネットという市場が登場し、人気商品を買い占めて、価格をつり上げるという、当時は予想しなかったであろう状態になっています。

 なお転売は、繰り返し行うとビジネスになる可能性もあり、古物商許可の申請が必要になるケースもあります。ただし、商品を開封せずに新品のまま売れば、古物商許可は不要という見解もあるようで、取材をしても複雑に感じるところ。法的な解釈もからむため、話がややこしくなります。

 話を戻します。要するにメーカーは、価格について、相手を拘束するようなことは言えませんし、従わない相手に報復的なことをするのもダメで、実際に多くの企業が罰せられています。転売への防止対応をしないのではなく、やりたくともやれることが限られていて、悩んでいるのが実態と言えます。

 そこで「人気になりそうな商品は、商品を多く出荷すればよいのに」という指摘があります。しかしそんなことは企業も重々承知です。供給が多すぎると値崩れなどの問題も発生し、商品のブランド価値が下がります。そしてメーカーの直売にすれば、情報強者は優位に立てますが、多くの人々は買う窓口が減って困るわけで、売り上げはダウンします(さらに転売の排除は難しい)。しかも、こうしたリスクを背負うのは、メーカーです。

 販売店も、販売時に客を選別すればトラブルになりやすく、結果として店員が危険にさらされます。そして、売り上げがアップするわけでもなく、むしろコストがかかって利益が圧迫されるのです。

 近年では、人気商品の転売を抑制するため、クレジットカードなどを使って個人を特定し、「1人〇個まで」などとする方法もあるでしょう。しかし、商品の価格が安い、大量の販売がある、子供が購入する……などの条件が付くと、どんどん厳しくなっていくでしょう。

 悪質な転売への最も有効な対策と考えられるのは、人気商品の高値販売の舞台となっているプラットフォームの運営者による取り締まりです。しかし、フリマアプリやネットオークションなどの取引時の手数料収入のことを考えると、運営者に転売の積極的な取り締まりを求めるのは難しいでしょう。利益の圧迫を意味するからです。

 新型コロナウイルスの感染拡大で一時期実施されたマスクの取り締まりのように、法的な根拠があれば、プラットフォーム運営者も即座に対応はするでしょう。しかし、取引が活発になるほど理想ですし、自由な取引を拘束したくないというのが本音と言えます。また公的機関などに問い合わせても、「高値の商品は、無理に買わないでほしい」と答えざるを得ないのです。

 新商品が、即日売り切れてネットで高値で取引されている異常な状況を望まないのは、消費者もそうですが、メーカーも同じでしょう。それこそコストを費やして大事に育ててきたのに、第三者によって“食い物”にされているのですから。

 もちろんそんな事情は、消費者には関係ありません。結果論として、消費者がメーカーを批判するのは仕方のない一面もありますが、ここまでの状況になると、責任をメーカーや販売店に負わせてしまうのも、酷な状況ではないでしょうか。どこか意見を言いやすい場所にするにしても、厳しい言葉をただならべて批判するのが果たして妥当なのか。そして今の法は消費者を本当に保護しているのか。何より現状にとって妥当なのか。そうしたことも含めて、熟考することも大切だと思うのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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