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新海誠監督「すずめの戸締まり」はヒット必至も プロの興収予想は

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ映画「すずめの戸締まり」の公式サイト

 新海誠監督のアニメ映画「すずめの戸締まり」(11日公開)ですが、新海監督の圧倒的な実績やブランド、映画館のスクリーン数、公開された映像、強力なプロモーション、試写の反応から考えると、ヒットは必至というべきでしょう。そんな中、アニメビジネスにかかわるプロ(関係者)は、どう見ているのでしょうか。

◇“聖地巡礼”の注意喚起も

 「すずめの戸締まり」は、廃墟に出現する災いの扉が存在する日本が舞台です。九州で暮らす17歳の少女・すずめは、災いの扉にカギをかける“閉じ師”の青年・草太と出会います。草太は、言葉を話す謎の猫・ダイジンによってイスに変えられてしまい……。すずめは、日本各地に出現した扉を締める旅に出るというストーリーです。

 公開された本編冒頭では、生々しい地震、禍々(まがまが)しい災いの描写が迫力満点でした。現実世界とファンタジーの融合も絶妙で、新海監督らしさも感じるところです。また、すずめ役を演じた女優の原菜乃華さん、草太役の松村北斗(SixTONES)さんの声の演技も見事でした。

 同作では、日本各地が舞台になることが明かされていて、公開後には、モデルになった場所をファンが訪れて楽しむ“聖地巡礼”も話題になりそうです。そんな中、公式ツイッターが「近隣住民の方々へのご配慮、及び節度ある行動」などと呼びかけました。裏返せば、同作が話題になる可能性が極めて高く、トラブル防止のため、先回りして注意喚起をした形になりました。

◇プロデューサーの評価も高く

 「すずめの戸締まり」や、新海監督について、アニメビジネスにかかわる関係者は、どう見ているのでしょうか。

 「すずめの戸締まり」について、あるアニメ関係者は「うらやましい限り。ブランドもあるし、映像のクオリティーも高い。何より(アニメファンだけでなく)一般層に向けて作品を作る意識を強く感じる」と話しました。

 新海監督について、出版関係者は「元々、映像のパワーがあって見せ方は抜群。一方で内容は内省的で、見る人を選ぶ一面があったが、『君の名は。』以降は、一般層へ分かりやすい見せ方をするようになった」としています。他の関係者にいても、作品より監督本人の評価が高いのが印象的でした。

 また、もう一歩踏み込んだ意見もありました。別の出版関係者は、監督の才能を認めた上で、川村元気プロデューサーの名前を挙げました。つまり監督の才能と、世間の求めるもの巧みに埋めて、メガヒットを飛ばせる監督を世に送り出したという見方です。そして、川村さんと一緒に仕事をしたときの感想について「『ちょっとお洒落』『ちょっと文学的』『ちょっと格好良い』の感性が天才的。やりすぎず、少しだけ分かりやすくするのがうまい」と振り返っていました。

 工夫という意味では、新海監督も負けていません。「すずめの戸締まり」の会見で、日本各地を舞台にした理由について、ファンから自分の町を物語の舞台にしてほしい……という要望があり、それをくみ取って反映させたことを明かしていました。自分の町がアニメの舞台になれば、単純に喜ばれますし、観客が映画館に足を運ぶ動機にもなりえます。アンテナの張り方、センスの良さは「さすが」と言うほかありません。

 「魂は細部に宿る」という言葉があるように、そうした丁寧な積み重ねはあったのでしょう。それが「2作品連続で興収100億円突破」という結果として表れているのかもしれません。

◇興収予想「200億円」派も

 俗な話になりますが、「すずめの戸締まり」の興行収入は気になるところでしょう。新海監督の作品は「君の名は。」で約250億円、「天気の子」で約142億円をたたき出した実績があるから余計にです。

 関係者に尋ねると、「100億円(前後)」派、「天気の子」と同等の「150億円」派、さらに「200億円」派に分かれました。

 ただし、誰もが不確定の要素があるとも付け加えました。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大を境に、アニメ映画は、興収100億円を突破する作品がいくつも出ているからです。仮に「すずめの戸締まり」にも似たような「後押し」があれば、驚く数字が出るのかもしれません。

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 作品の力はもちろんですが、公開後のネットの盛り上がり、世間が求めるものにフィットしたかでも変わるし、メディアの影響もあるでしょう。なお少し変わった視点ですが「この冬は、ライバル映画が少ない。それも『すずめの戸締まり』の有利に働くのでは」(映像配信関係者)という声もありました。

 公開後には、さまざまな反応が出るであろう「すずめの戸締まり」。ファンの反応と、週明けの興行収入初週の発表に注目が集まりそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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