任天堂が19日に発信した企業広報・IRツイッター(@NintendoCoLtd)が話題になっています。家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」シリーズの新モデル「Nintendo Switch(有機ELモデル)」(10月8日発売予定、3万7980円)について「ニンテンドースイッチよりも収益性が高まるといった趣旨の報道がされましたが、これは事実ではございません」とツイートしました。

 「報道」とは、「ブルームバーグ」が15日に「有機ELモデル」の部品コスト増加が1100円程度と報じたことを指しているとみられます。なぜ推量になるのか?といえば、任天堂の広報グループに「報道とはブルームバーグの記事のことですよね?」と直接尋ねると、「こちらからは特定しておりません」との答えだったからです。

【参考】任天堂の新型スイッチ、部品コスト増加は1100円程度-市場の評価二分(ブルームバーグ)

◇メディア名を「名指し」せず

 任天堂はこれまで、新型ゲーム機の投入などの大ネタを発表前に報じられることがあっても、「弊社が発表したものではない」「コメントしない」というスタンスを貫いていました。私もメディア在籍時に、他の新聞社に大ネタを「抜かれる」と上司から叱られながら、情報の裏取りをしていました。

 それはさておき、これまで報道について一線を画していた任天堂がツイッターとはいえ、わざわざ「事実ではございません」というのは、強烈です。それでも任天堂はメディア名を「名指し」しておらず、一定の配慮をしたことがうかがえます。

 記事について「1100円程度」の部品コスト増加の内訳にも触れていますが、ゲーム機のコストを見積もるのは、調達という当該企業の契約が関するわけでして、かなり難しいところです。投資会社がスイッチのコストを分析するのは自由ですが、それを影響力のあるメディアが記事にするのは、意味合いがまったく違います。

◇PS5発売前にもあったソニーの否定コメント

 実は、約1年前に似たようなことがありました。2020年9月、PS5の生産台数を400万台下方修正し、約1100万台と想定している……という報道がありました。それを受けて、ソニーの株価に大きな影響を及ぼし、ソニーが「事実ではありません」と明確に否定したのです。ヤフートピックスにもなったので覚えている人もいるかもしれません。

【参考】ソニー、PS5の生産台数を400万台削減、チップ生産に苦慮-関係者(ブルームバーグ)

【参考】ソニー、PS5生産減報道「事実でない」 生産台数は変更せず(日本経済新聞)

【参考】ソニー株が急落、PS5の生産台数下方修正報道を受け(ロイター)

 その時に関係者らに取材したとき、言葉こそ冷静でしたが、怒りはかなりのものでした。ソニーも報道に対してはいちいち反応しないスタンスで、それだけに言葉が重いのです。報道による株価の影響も大きかったので、さすがにその「重い言葉」を使って否定せざるを得なかったわけです。

 なお、2020年度のソニーの決算で発表されたPS5の初年度出荷数は780万台で、2013年発売のPS4を上回りました。「生産台数」とは工場で作った台数を指すため、出荷数より上振れしますが、それにしても300万台以上の差があるわけです。おまけに初年度から1500万台と報じられた上での減産報道ですから、ソニーの「事実ではありません」という言葉はその通りだったわけです。

◇「新たなモデルは計画しておりません」は「現在」の話

 なお任天堂の二つ目のツイートですが、こちらは考えて捉える必要があります。

 ツイートにある「新たなモデルは計画しておりません」というのは、「現在」の話です。決して「今後」ではなく、日本語を吟味して使っています。要するに後日、新たな発表をすれば、その限りでないことになります。どの企業も水面下で多くのことが進行しており、発表できるのは一部ですから当然でしょう。

【参考】PS4後継機 なぜ正式発表前に予測記事出る? 巨大産業の宿命(2019年)

 ゲーム機の開発者に話を聞くと、ゲーム機を作るときは、先を想定することを明かしています。それはどの仕事でも同じことではありますが、先を想定しつつも公式に言えることは限られる……ということです。

【参考】PS5の構想とコンセプトは 5年後を見抜く眼力 そしてその先は…… 二人のキーマンに聞く

 ビジネスは状況に応じて打つ手が変わるので、価格改定の検討、水面下での商品開発は常に進んでいるのが当然です。しかし具体的な価格を出してのコストの言及、商品の増産・減産は、それぞれ明確な数字があるわけで、企業の内部資料で答えが存在します。だから報道が事実と乖離し、かつ何らかの悪影響を及ぼすなら、否定するしかないのです。

 任天堂もソニーも黙っていても多く報道される人気企業です。報道にも報道の理屈・論理があることは両社ともよく理解しており、いちいちコメントしたくないのが本音でしょう。だからこそ「事実ではない」というコメントが一層重いのです。