名馬を美少女にしたスマホゲーム「ウマ娘」の大ヒットに続き、ノロウイルスやアニサキスなどをイケメンにした「食中毒菌・ドクメン8」も話題になっています。続々と登場するのはもちろん、定着した感のある擬人化ビジネスですが、歴史と利点、課題を振り返ってみました。

◇擬人化は昔からある

 「ウマ娘」は2016年からプロジェクトが始まり、テレビアニメを経て、今年2月から配信したスマートフォン用ゲームが大ヒット。同作を運営するサイゲームスの親会社・サイバーエージェントは、2021年9月期の売上高予想を当初の5000億円から6000億円、営業利益を「300億~350億円」から「575億~625億円」と上方修正をしました。

 「食中毒菌・ドクメン8」は、アイセイ薬局(東京都千代田区)が発行する季刊フリーペーパー「ヘルス・グラフィックマガジン」40号に掲載されました。同誌は、毎号ひとつの症状をテーマに挙げて、医師や各分野の専門家が症状や改善方法を解説しており、40号は食中毒をテーマにしていました。イケメンになった腸炎ビブリオがクールな表情で「刺し身はパッと食べねえと」と一言を言うなど、インパクト抜群。食中毒の対策などもあり、見応えのある内容です。

 「ドクメン8」を受けて、「擬人化ビジネスについてどう思う?」という問い合わせが複数メディアからありました。とは言え、詳しい人は「擬人化は今に始まったことじゃない」と思うはずです。艦艇を美少女化したブラウザーゲーム「艦隊これくしょん」、刀剣をイケメンにした「刀剣乱舞」、血液に含まれる血漿(けっしょう)を擬人化したマンガ「はたらく細胞」などもあるからです。「けものフレンズ」や「ヘタリア」などもそうですね。「アンパンマン」もありますし、探せばゴロゴロ出るでしょう。

 ……というより「擬人化」は、辞書にもあるように、ずっと昔からある言葉です。我々が、飼い犬や猫に対して話しかけたりするように、その意識は日常に溶け込んでいます。童話で動物がしゃべるのは当たり前ですし、今から千年前の平安時代には、ウサギやカエルが相撲を取る国宝「鳥獣人物戯画」もあります。

 海外でも同じで、旧石器時代にも擬人化された像が存在します。ディスニー作品にも登場しますし、フランスという国を擬人化した「マリアンヌ」や、アメリカの「アンクル・サム」もあります。

マリアンヌについて解説する在日フランス大使館のサイト
マリアンヌについて解説する在日フランス大使館のサイト

◇擬人化とアレンジ

 そういう話をすると、違和感を感じる人もいるようです。現代の日本で「擬人化」と言われると、ほぼ「美少女化」「イケメン化」もセットになっています。さらに言えば応用と言わんばかりに、戦国大名などの歴史上の人物(男性)を美少女にするなどの性別の変更もあります。そうなると擬人化というより、アレンジですね。

 日本は古来より、中国からさまざまな技術や文化を取り入れてきましたが、自国にフィットするよう改良を加えています。漢字を基に平仮名、片仮名が生まれました。仏教という外国から来た教えも神道と融合したり、勝手にアレンジしています。

 ゼロから創るより、改良を加えるというのは、日本人が得意かつ大好きではないでしょうか。「コミックマーケット」など同人誌即売会の拡大・人気も、大好きな作品をベースに自分なりの思いを加えてアレンジをしたい、そうした創作を読みたい……という意識の強さでしょう。そして「擬人化」に関しては、本来より広い意味を持っているように見えます。

◇「擬人化」ビジネスの難しさ

 「擬人化」の企画ですが、今後も続くでしょう。仮に下火になっても、形を変えてつきることはないのではないでしょうか。20年前とは違い今や二次元に抵抗がなくなっていて、官公庁や有名企業でさえもアニメチックなイラストを宣伝に活用しています。その応用編と言える「擬人化」のメリットは、インパクトがあること、SNS映えもして話題になることです。利用しない手はありません。

 ただし、「誰もが利用できる」ということは、ライバルも多く、陳腐化しやすい……ということでもあります。さらに言えば、収益の期待できる本格的な擬人化コンテンツを作ったり、サービスを運用するとなれば簡単にはいかず、リスクも高いのです。そもそも話題になるコンテンツは一部で、知られずに消える方が圧倒的に多いのです。

 「擬人化」は、中途半端な「愛」では成功しません。擬人化に必然性がなくビジネス色が強く見えたり、制作側の研究不足が露呈してコンテンツに対する「愛」が疑われるケースは、概ね厳しい結末が待ち受けています。成功例の「艦隊これくしょん」であれば艦艇、「刀剣乱舞」であれば刀剣、「ウマ娘」であれば競走馬。キャラクターのたった一言にも、それぞれの“原作”に対する知識の深み、愛情がにじみ出て、それゆえ評価されるのです。

 作る側の本気度が試される「擬人化」。しっかり表現できてこそ、初めてスタートラインに立てるのですね。